「お嬢様」

 きい、と神威はルカの部屋を開ける。
 ルカはまだ気づいていないようだ。神威はニコリと微笑む。

「お嬢様。お部屋に鍵をかけて出ないでください。私が良いと言うまで」
「あら? 何かあったの?」
「申し訳ありません。賊が押し入ってきたようなのです」
「え…?」

 みんなは大丈夫なの、とルカが心配そうに駆け寄ってきた。

「グミは? あの子はおっちょこちょいたがら…それに、ミクも…──」
「大丈夫です。皆は、既に安全な所へ避難していますから」

 ルカはそう、と呟いて、心配そうに神威を見上げた。

「気を付けてね…?」

 はい、と神威はいつも通りの台詞を彼女へ向けた。

「お嬢様は、何もご心配なさらず此処に居てください…――絶対に、出てはいけませんよ」
「はい…――わかりました…」

 神威は今日も無感情な瞳でルカに言い聞かせる。

 全ては…――夢幻のハッピーエンドのために。


♪☆♪


 誰が私の命の保証をしてくれるのだろうか。
 舞台が終われば帰れる?
 誰が舞台が終わったと判断するの?

 『死ぬしかない』エンディングの舞台を。

 確かに舞台とは終りがでんなものか分からないものだ。だからこそ最後まで見たくなる。

 でも、こんな意味の分からないステージに放り込まれて『舞台が終われば帰れる』なんてバッカじゃないの?

 バッドエンドへ一方通行じゃない。

 そんなのに、私は主人公気取って躍り続けてやるつもりはない。


 壊してやる。


 この、バッドエンドしか演じられない夜を。

 「ハッピーエンドが好きなの」なんて希望は語らない。

 私は、生きて兄さんの所に帰るの。

 ハッピーエンドもバッドエンドも関係ない。


 兄さんの所に、私は帰る。


♪☆♪


 ミクがカイトを仕留めて階段を降りきった。彼はこの館を出るための鍵を持っていなかったのだ。
 ならば、あとは使用人の神威だけだ。

 場所は応接間。
 明らかに、神威はミクを殺すつもりで日本刀を握っているのだろう。それ以外でその日本刀を握る理由がないだろうから。
 たった今、鞘が投げ捨てられて白銀の刀身が姿を表した。

「流石は主人公…」

 目の前の神威は、片言でそうミクを誉めた。

「そう。ありがとう」

 ミクはダラダラと未だに切り口から紅滴るカイトの頭を髪の毛をわし掴んでぶら下げていた。まるでお気に入りの手提げバッグでもぶら下げているかのに。

 うっすら、笑みを浮かべたカイトを。

 神威は主人が惨殺されたにも拘らず、ただ無感情な目を向けてきている。


 瞳から、涙を流しながら。


 表情と合っていない。
 まるで、本当は泣きたいみたいだ。

 変な感じである。

 しかし、知ったことではない。

「ねぇ。館から出るための鍵を頂戴」

 神威は、涙を流しながら無表情のまま。


「舞台が終われば、帰れるでしょう」


 今まで、カイトとメイコが放っていた台詞を引き継いで、神威はミクに告げた。
 そんな台詞は聞きあきた。

「鍵を頂戴」
「舞台が終われば、帰れるでしょう」

 もうどうでも良くなってきた。
 コレを殺して、鍵を奪う。

 これしか方法はないのだ。

 カイトの頭を床に落として短いナイフと長いナイフを双手に握った。
 ミクと神威は同時に飛び立つ。
 降り下ろされた一撃を短いナイフで防ぎ、長いナイフを繰り出す。やはりというべきか、今まで彼はこの館に迷いこんできた者を殺す係だったのだろう。なれた様子でミクの攻撃はかわされた。

 きぃん、きぃん。

 乾いた金属音が響く。

 きぃん、きぃん。

 数分間、響く。

 きぃん、きぃん。

 ミクが手を出すたびに防いでは、まるで『当てないように』日本刀を振ってきた。

 そうか。疲れさせるためにやってるんだ。きっと普通にやっても彼には勝てないとミクは悟る。

 なら!

 ミクはカイトの頭を神威へ向かって蹴飛ばす。
 主などどうでも良いらしく、彼はアッサリ二分した。更にミクは足元に向かって短いナイフを投擲してやると、神威は交わすために横へ飛んだ。

 しめた!

 ミクは神威が今まで通せんぼしていた部屋の出口へ走り込む。

 ルカを人質に取って、彼が自殺するように仕向ける!
 だって、一番心配な人なんでしょう?

 まさか、見殺しになんて出来ないでしょう!!

 私だって、兄さんが人質にとられたらそうするわ。
 兄さんが助かるなら、命も捧げてやる!!

 扉にたどりいて伸ばしたドアノブが…――遠ざかって室内への侵入者のための穴を開けた。

「お嬢様!!」

 トコトコとルカがミクの目の前でニコリと笑っていた。

「何をしてるの、神威?」

 その一言に、神威がびくりと肩を震わせた。
 そしてミクの目の前にいる彼女は…――狂気的な笑みを浮かべて首を傾け、眼球を真っ黒にして…赤い瞳をミクへと向けた。






「こんな女。さっさと処分してしまいなさい!」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

Bad∞End∞Night【自己解釈】⑧~君のBad Endの定義は?~

本家様
http://www.nicovideo.jp/watch/sm16702635


さぁ、宴もフィナーレ

何か、ルカだけの台詞って一番なかったと思いませんか?

「乾杯しましょう」しか記憶にないのですよ。

確かに動画は、棺の山があるところに顔を出していましたが、僕の所ではカットです。

閲覧数:364

投稿日:2012/05/14 13:08:53

文字数:2,093文字

カテゴリ:小説

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