こんにちは!前嶋拳人です。
赤茶けた鉄の匂いが鼻腔をくすぐる地下の部屋で無数の歯車が重い音を立てて噛み合っている。
私たちは生まれたときからあらかじめ用意された巨大な機械の一部として組み込まれていた。
それぞれの役割に従ってただ同じ場所を回り続けることだけが唯一の正解とされる世界。
そこには迷い込む余地すらなかったはずなのにいつからか私の内側で小さな亀裂が生じ始めた。
それはほんのわずかな違和感でありながらも確実に私の心を蝕んでいく痛みを伴うものだった。
整然と並ぶ回路の隙間から時折こぼれ落ちる熱を帯びた感情の欠片をどう扱えばいいのか分からない。
誰もが笑顔を貼り付けて平然と通り過ぎていく通路の隅で私は一人立ち尽くしている。
冷たいコンクリートの床に膝をつき見上げる天井のさらに上には一体何が広がっているのだろうか。
外の世界を知らないままこのまま朽ち果てていくことだけは絶対に避けたかった。
だから私は意を決して手元にあった細い工具を握り締め硬く閉ざされた壁へと突き立てたのだ。
火花が散り視界が一瞬だけ眩しく染まったあとに現れたのは誰も見たことのない古い扉だった。
それがどこへ繋がっているのかを知る者はいないが立ち止まるよりはましだと私は息を呑む。
不規則に脈打つ心臓の音を背中に感じながら錆びついた取っ手をゆっくりと引き寄せる。
この場所から抜け出した先にあるのが希望か絶望かなどこのときの私にはどうでもよかった。
ただ自分の意思で選んだ道を歩み出すことの尊さだけを頼りに私は未踏の世界へと踏み出す。
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