空には灰色の雲が垂れ籠め、雨粒が地面を打つ。
「~♪」
その中で、雨音に合わせるように歌いながら、傘を差して歩く少女が一人。
「~♪………?」
しかし、その心地よい歌声は途絶えてしまった。
その視線の先には、傘も差さずに力なく塀に凭れ、座り込む青年が一人。
まるで捨てられたかのような様子の青年。
少女は青年に声をかけた。
「あの…」
少女の声に青年はゆっくりと顔をあげ、少女を見た。
「どうしました?大丈夫ですか?」
「………………」
青年は答えない。
「ここにいたら風邪をひきますよ?」
「………………」
やはり青年は答えない。
「あの…ご家族も心配されていると思いますよ?」
「………………家族はいない」
「え……」
ようやく口を開いた青年から出た言葉に、少女は息をのんだ。
「マスターも、マスターの家族も、ずっと前に死んだ」
「………………」
今度は少女が黙り込んだ。
「……もう随分と前の話だ。それに、お前が気にする事はない」
「………………」
少女は何かを考え込んでいるようだった。
しばし流れる沈黙。
聞こえるのは、雨が傘や地面を打つ音だけ。
「……おい、」
「あの…」
青年の言葉を遮るように、少女は口を開いた。
「貴方、ボーカロイドですよね」
「?…ああ」
「私もなんですよ」
「……そうなのか」
「はい。もし、良かったら…」
少女は手を差し伸べた。
「私たちのところに来ませんか?」
そう言って少女は微笑んだ。
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