本番の日は容赦なくやってきた。
あたしたちのバンドは二五人。部活にしては多い方だが吹奏楽部としては小さなほうだ。トランペットパートは全学年を合わせて四人。三年生はあたしだけだ。
半年前に入部してから腕を上げてきた一年生も含めて、交替でファーストからサードのパートをつとめる。向き不向きに関わらず、一日二回、各一時間にわたる長い演奏会内での体力を分散するため、嫌でも高音パートは回ってくる。
文化祭直前の合奏練習が立て込んだため、発音体となる唇の疲労が、一晩たっても抜けなかった。正直本番までは手を抜きたいと思ったが、リハーサルで他のパートとの手前、手を抜くことはできなかった。
「唇の感覚が無い」
それでも、息の力で押し切って吹くしかない。あたしはそう、心に決めた。
奇跡的なことに、あたしの唇はよく保った。一日二回の本番。本当に最後となる、文化祭の、午後の部。
天気にもめぐまれ、あたしたちの中学の文化祭はまれにみる大盛況となった。演奏会のステージとなる体育館も、昼に模擬店でお腹を満たしたお客さんたちが一休みにと集まり、立ち見が出るほどの満員であった。
中学最後の演奏会は、地元の人や他校の友達でにぎわっている。この学校が愛し愛されていることがわかる、最高のお客さんたちだ。最後の演奏会。最後の本番。一番、聴いてもらいたい人たちの揃った最高の演奏会。そして、最後の曲が、やってきた。
「では、これより、午後の部の最後の曲を演奏します」
これまで指揮を引き受けた顧問にかわり、あたしたちの世代の部長が指揮台に上る。
三年間の感慨をこめてあたしたちを見やり、指揮棒を上げた。
三年間の反射と、想いをこめて、同期たちの楽器がさっと上がる。後輩たちがじっと見守っている気配がした。
ふわっと時間が止まるような瞬間とともに、演奏が始まった。そして、あたしは悟った。
あたしのつみあげてきた三年間が、最後の最後で、崩れ去っていたことに。
楽器に、息は入る。しかし、響き出るはずの音が、そこには無かった。
……続く。
【短編】リンちゃんでブラバン小説!「風の唄」~Real Side~ 3【二次創作】
吹奏楽小説やマンガでトランペット主人公は結構いるのに、なぜ、またこのリンちゃんもトランペット吹きなのか。
……それは作者がラッパ吹きだから♪
あの恐ろしくも輝かしい、王者の楽器を愛しているから☆
素敵曲はこちら↓
「風の唄」
http://piapro.jp/t/DITG
歌詞引用させていただきました^^
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