第十六章   

彼と私との間に生まれた「恋人ごっこ」は何故かしら順調だった。
私の中では既に気持ち等無く、只の「恋人ごっこ」だったのだが、
彼の中ではどこかしら気持ちが私に向いている様にも思えた。
何時彼に対して「この関係を終わりにしよう」そう伝えようか迷い、
なかなか言い出せずにいた頃、唐突に彼に「俺ね、きっと最初から好きだった」
そう言われてしまった。
私は本当に薄情だな、そう突きつけられてしまったのである。
その矛先は私自身に向かい、自傷行為に至ってしまった。
心に残る痛みを身体へと残すかの様に。
私は一体何がしたいんだ、そう考えを廻りに廻らせ辿り着くのは
必ず、「人への興味が無くなってしまった」
なんて哀しい私の「結論」なのだろう。
人間不信を拗らせた私の極論とでも言うべきだろうか。
思わせ振りな態度をとるつもりは無かった。
それが故に、彼へと「関係を終わらせよう」と伝えるのに
そう、時間は掛からなかった。
いつも通りに日常を過ごし、私は私の時間を思う存分楽しんだ後に
訪れる「孤独」な時間。
パートナーはすっかりと夕食を済ませている様だった。
お互いの時間をお互いに楽しみつつ、私は彼へと「最後」になるであろう言葉を
送っていた。
「突然ごめん、この関係は続けられないや」
彼を傷付けてしまったかもしれないであろう私の「言葉」
彼は「どうして急に?」そう私に答えを求めた。
私にとっては簡単な話。
「恋人ごっこ」をしていても「恋愛感情が芽生えなかった」只、それだけなのだが
私の身勝手でこれ以上彼を傷付けてはいけない気がして、
私は考えに考え抜いた結果、「瑞希は若いし、きっともっと良い恋愛が出来ると思ったんだよね」
彼をこれ以上傷付けまいと吐いた「最後の嘘」
承諾してくれるだろうか、そんな事を考えながら、返事が来ないまま
あっという間に2時間が経ってしまっていた。
彼から「分かった…」と連絡が来る頃には深夜帯の3時を廻る頃だった。
私は正直心からの安堵感を覚え、「ごめんね、ありがとう」とだけ伝え
夜空を見上げたくなり、煙草を咥え外へと出た。
月の光が優しくも悲しく光っていた。
私は煙草を持った手で月へと伸ばし、「さよならだね」
そんな上辺の様な言葉を並べ、「幸せになってね」と願った。
身体は段々と冷えて行く。
私は自分の身勝手さを嗤い、「私は地獄に堕ちるんだろうな」と呟いていた。
寒さを纏った身体と共に家に入り、今日は紅茶を入れる事にした。
少しづつ温まった身体に一番お気に入りの香水を纏い
私はベッドへと潜り込んだ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

月は嗤い、雨は鳴く

恋人ごっこは何故か順調なのに、主人公の「人への興味がなくなっていく」事に心が痛む。

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投稿日:2024/06/23 01:48:50

文字数:1,078文字

カテゴリ:小説

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