ぐす、と鼻を啜り、ミクは此方を睨んでいるルカと向き合った。
貴方のバッドエンドなんかに興味はない。
私は帰る。
愛した人の元へ。
♪☆♪
ナイフを逆手に握る。足元にある、短いナイフを拾い上げる。
ルカは動かない神威から刀を奪い取った。
私達は似ていた。
でも、全てが決定的に違う。
「ハッピーエンドを迎えるのは、私」
ミクとルカの声が重なった。
私は帰るの。
諦めなさい、悲劇のヒロイン気取りのお嬢様。
短いナイフ。
利き手に握って。
ミクと同時に駆け出してきたルカへ投げつけた。
♪☆♪
その細い刀身で、ナイフを弾くなんて所業は剣技も身に付けていない人間には到底狙ってすることなど出来ない。当然、初めて刃物を握るようなルカに出来る筈もなかった。
はっとルカが気付いた時には遅かった。
彼女は避けることも出来ずに目を瞑って踏み出していた足を止めた。
何も思わなかった。
痛みが来るのを覚悟していた。
それでも、何もこない。
おかしい…。
ふと、ルカは目を見開いた。
真っ赤な視界に、大きな黒い影。
全てを理解した時に、目は大きく見開かれた。
あ、と。
小さな。そして、それ以上は言葉にならない悲鳴をあげた。
ざくり、と金色のナイフは――…神威の胸に突き刺さって止まった。
感情の無い瞳が、ルカを見下ろして…――またぽろぽろと、透明な雫を溢した。
神威は何かを言いたそうにルカを見つめながら膝をついた。そして、前へと倒れ込み…――神威を飛び越えて突っ込んでくるミクの姿を見た。その両手にはしっかりナイフを握っている固定し、ルカの懐に飛び込んだ。
しかし、まるで音を失ったように何も聞こえなかった。
ミクは口を大きく開けて、明らかに雄叫びをあげている形相だった。ルカには、もう流せない美しい涙を流しながら。
突然、この世界そのものが無音になってルカの耳に届かなくなったのだ。
ルカが倒れる神威を見て、現実を見失ったからかもしれない。
胸に突き刺さる。
激しい痛み。
その痛みは胸から上へと引きあげられ、赤い赤い飛沫が噴水のように沸き出して舞い上がる。
世界が下へと流れて、天井で止まる。
真っ白な、天井が。
赤く、赤く…――。
この痛みに、ルカはふと気付いた。
彼にお見合い相手と幸せになってくださいと言われた時よりも、遥かに痛くなかったことに。
♪☆♪
ミクはナイフを引き抜いて、惨状を見回した。
ミクは神威を起こして身体をまさぐった。彼の死に様は、一番綺麗なものだった。
誰よりも損傷が少ない。
ミクは無言で漁って、目を見開いた。鍵らしきものは見当たらなかったのだ。
「ない…」
どうしてだ。
彼が持っているんじゃないのか? 執事なのだろう? 家のことは全部、彼やグミに任されているのではないのか?
「ない…ない…――! 鍵がない…!」
どうしてだ。
こんな奇妙な出来事が、本当に『ルカの為に作られた舞台』なら、ルカが死んだ時点でなくなったはずだ。
「帰れないの…? そんな…!!」
まさか、コレが本当の舞台の終わりではないからとでも言うつもりか。
「まだ、何かあるって言うの…! いい加減にしなさいよ!?」
ルカの首に突き立てておいたナイフを引き抜いて、振り上げる。その傷口から紅がドクドクと溢れ落ちた。
「アンタの事なんか知ったこっちゃないんだから! 何時までも引きずってたのが悪いんだからね!! 巻き添え食ってるのは私なんだから!! アンタのワガママなんか、聞かないんだからぁっ!!」
眼下のルカへ、もう一度。
我が儘で人をたくさん殺した。しかも、好きな人に殺させてきたのだ。愛を証明だのなんだの。報われない恋に憤激してこんなこのような空間で何度も何度も何人も何人も殺してきて…――!
ミクが再びルカに突き立てようとしたナイフは、彼女を刺すことなく床に転がった。
目頭が熱を帯びてポロポロまた涙が零れ出る。
私と、そっくり。
実兄が好きになった。
愛してると告げても、取り合ってくれなかった。
両親にも本当に好きなのだと言っても、分かってくれなかった。
でも、そんなのは分かっていたはずだ。
この想いは、通じることなどないことを。
そうして、生涯の伴侶を見つけ出した。
私は、大事に思われても愛されることは無かった。
「何時までもこんな薄暗い所に居るんじゃないわよ、バカっ…さっさと天国でも行って神威と幸せになって来なさいよ、バカバカバカっ! アンタなんか、私と違うんだからねっ!! 本当は幸せになれたんだから!!」
ごしごし、涙をぬぐう。
「そんな根性なし、好きになったのがいけないのよ! 何処が格好良いのよっ!! 私のお兄ちゃんの方がずっとずっと格好良いんだから!! 大好きになった女の子、幸せにしてあげられるぐらい格好良いんだから!! 神威なんかと一緒にしないで! 私のお兄ちゃんは、神威なんかより何百倍も、何千倍も格好良いんだからぁあー!!」
失礼しちゃうわ。
後ろから、ルカの声。
バカな、と振り向くと…――少し不満そうに唇を尖らせている、ルカだ。その姿は淡い金色の光に包まれている。
はっと見下ろすと、目の前にあったはずの彼女の遺体は無かった。
みるみるうちに、周囲が光を失って、汚れて荒み、廃退していった。綺麗な建物が、老朽化していった。
暖炉の炎も消えて…――ミクが作り上げたはずの惨状が嘘のように消えてなくなっていた。
ただし、時計の周りに夥しい量の血痕が付着していた。
‐ありがとう‐
ルカはスカートを靡かせながら…――その後ろにいた神威の胸に飛び込んだ。彼もまた、金色の光に包まれている。
‐物語が終わったの…だから、みんなで帰れる…――‐
ルカは、嬉しそうにニッコリと微笑んだ。
Bad∞End∞Night【自己解釈】⑩~君のBad Endの定義は?~
本家様
http://www.nicovideo.jp/watch/sm16702635
長い、長い。
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