夜の闇に、風花が舞う。
ひらりひらりと舞い踊るそれは、仄かな橙色の灯に触れられてふわりと融けた。
かじかむ指先に、風花と同じ色をした息を吐きかけて、彼女はひとり空を仰ぎ見た。僅かに傾げられた首を、肩の辺りで切りそろえられた髪がさらりと撫でる。簪のしゃらりと鳴る音が、微かに響いた。
「……姉さま」
小さく呟かれた一言が漂う外の夜闇に、七星は明るく輝いていた。
底なしの夜の静寂は、小さな足音に破られた。急いでいるらしく、心持速い足音に、夢うつつだった彼女の意識が急速に覚醒した。
乏しい灯に照らされて、朧な影が闇に浮かび上がった。
「姉さま……!」
「鈴」
姉姫が、上がった息のまま妹姫の許へと歩み寄る。それすらも待ちかねて、鈴が外へとまろび出た。自分より一回りほども小さな体を受け止めて、姉姫は優しく声をかける。
「ずっと待っていたの?こんなに冷たい手をして……風邪を引いてしまうわ。ほら、早くお上がりなさい」
そう言って促す姉姫に、鈴が必死の体で縋った。
「姉さま、もう今日は来てくれないのかと思った……!」
震える声が姉姫の耳朶を打つ。瞬間湧き上がった情動のままに、彼女はその華奢な体をかき抱く。
「鈴」
柔らかく耳元で名を囁かれ、鈴はびくりと体を震わせた。癖のない髪が、姉姫のうなじを一瞬だけくすぐって離れる。
「遅くなって、ごめんね。……怖かったでしょう?」
「……っ、姉さま……っ……!」
優しい問いかけに、鈴が堰を切ったように泣きじゃくる。懸命に抑えようとして、それでも押さえきれない嗚咽が、姉姫の腕の中で微かにくぐもって響いた。
「ごめんね」
ほとんど息だけでそう告げて、姉姫はその額に優しくくちづけた。
「来るから。……絶対」
ほんの僅かだけ身を離し、姉姫は鈴の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「約束する」
涙に濡れた瞳が、姉姫を見つめ返した。一瞬の後、こくりと頷く。
「待ってる。ずっと、待ってる」
一呼吸の間をおいて、再び小さな声が空気を揺らした。
「……信じてる」
だから、絶対だよ――そんな声なき言葉を察して、姉姫がはっと息を詰める。
「――鈴」
どちらからともなく固く身を寄せあい、目を閉じる。
降り来る風花を融かす蝋燭の炎だけが、重なりあったふたりの影を淡く照らしていた。
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