さて、人類というものはその歴史が始まった当初から、アルコールとの長い付き合いが始まったそうです。お酒を初めて作った人間は誰かという問いに答えるだけの知識を我々は持ち合わせてはおりませんし、文字が生まれるよりも遥かな過去から人間はアルコールに手を出していたのですから、そもそも探ろうということが不毛というものです。
一応、考古学では七千年前にお酒の痕跡を発見していますけれど。
ともかく、こうして世の中が厳しくなるとついつい、アルコールに手が伸びてしまうもの。
いや、それは言い訳かもしれませんね。どれだけ幸せでも、お祝いと称してついついお酒に手を出してしまうのですから。
なんだか言い訳がましいことを敢えて言わせて頂くと、人類とお酒とは切っても切れないパートナーなのではないかとすら思ってしまいます。
何しろ、もう何千年という長い間のお付き合になるのですから。
そう言えば、乾杯という言葉は読んでそのまま、杯を乾かすという意味だそうですよ。そう言われて学生時代に何度飲まされたことか・・。
あのような飲み方はお勧めしませんし、私も二度とはやりたくないとは思いますけれど、ゆっくりと味わうお酒はまた格別なものです。
さて、それでは仕事も終わりましたし、行きつけのお店で一杯・・。
「いらっしゃいませ。」
可憐な乙女の声が小ぢんまりとした店内に響いた。カウンターだけの、小さなお店だ。
「今日は空いているね。」
僕はそう言いながらマスターの目の前の席に腰を降ろし、ジャケットを椅子の背もたれに掛けた。照度を落とした店内は心なしか落ち着く。
「給料日前なのかしらね。」
そう言ってマスターは肩を竦めた。見渡す限り、自分以外の客は外れの席でオンザロックを楽しむ初老の男性の姿しか見えない。
「今日はどうします?一杯目はビール?」
続けてマスターが僕にそう訊ねた。まだ若い、しかも女性である。推測でしかないが、まだ二十代ではないだろうか。名前はミク、というらしいけれど、彼女のプライベートに関して僕はそれ以上の知識を持ち合わせていない。
「そうだね。ナッツも頂けると嬉しい。」
「分かったわ。少し待っていてね。」
マスターは・・ミクはそう言うとジョッキを用意し、慣れた手つきでサーバーに手を掛けた。最後の泡まで気を抜かずに、真剣な表情のままでビールを注ぎ終えると、キンキンに冷えたそれを僕の目の前に置いた。
「頂きます。」
僕はジョッキを掴んで、乾杯とばかりに軽く持ち上げた。その行為に、ミクは楽しげな笑顔で応えてくれた。
何とない幸福感を覚えながら、僕は冷え切ったビールを喉の奥へと流し込む。夏の盛りに火照った体温と、少し乾いた喉に心地の良い苦みと炭酸が身体を刺激した。
うまい!
「やっぱり、仕事終わりはビールが一番美味しいよ。」
すっかり満足して、僕はそう言った。
「本当に美味しそうに飲むのね。私も飲みたくなっちゃった。」
ミクはそう言いながら、ナッツが盛られた小皿を僕の目の前に差し出した。このお店はミク一人で切り盛りしている様子で、フードメニューには少し期待できない。
その分、用意されているお酒はどれも最高のものであった。
「それはいい。一度ミクさんと飲んでみたかったから。」
つい調子に乗って僕がそう言うと、ミクはもう一度楽しそうに微笑んだ。
「お店を閉めた後でよければ、少しだけお付き合いするわ。」
その言葉に思わず胸を高鳴らせた時である。
「すまんが、もう一杯頂けるかな。」
カウンターの奥に陣取っていた男が、ミクにそう声をかけた。
「ええ、同じものでいいかしら?」
「うん。」
見ると、薄暗い店内にいても一目で分かる程に男の顔は赤い。少し飲み過ぎているような、そんな印象を僕は受けた。
「今日は随分と飲むのね。」
ウィスキーのボトルを手に取りながら、ミクは男に向かってそう言った。どうやら男も馴染みの客であるらしい。
「うん、まあ、な。」
少し言いにくそうに、男がそう言った。
「お祝い事かしら。それとも、嫌なことがあったのかしら?」
続けて、ミクがそう訊ねた。ネクタイを外しているから一見分からないが、どうやら礼服を着こんでいるらしい。
「両方、だなぁ。」
何かを噛みしめるように、男がそう言った。その言葉に、ミクは少し考える様な素振りを見せて。
「ご結婚されたのかしら。娘さん?」
そう訊ねた。
「良く分かったねぇ。」
素直に驚いた様子で、男がそう言った。
「だって、礼服を着て、お祝いと嫌なことが同時に来るなんて、それ以外に考えられないもの。」
ミクがそう言うと、男は少し遠い目をしながら、ぽつりといった。
「いい男を見つけたものだ、全く・・なんだろうな、本当に父親というものは。まさか衆目の前で涙するとは思わなんだ・・。」
男の声は、僅かに震えていた。
「素敵な娘さんなのね。」
ミクはそう言うと、ウィスキーボトルを一度棚に戻した。注文のグラスはまだ用意されていない。
「ロックで構わないが・・。」
その行動に拍子を抜かれた様子で、男がそう言った。その言葉にミクは軽くウィンクしてから、こう言った。
「いいお酒があるの。特別な日にぜひ飲んでほしいお酒よ。」
ミクはそう言うと、鈍い銀色に輝くシェイカーを取り出した。その中にレモンジュースとグレナディン・シロップにドライ・ジンを注いで、最後に卵を割って卵白だけを抽出すると、シェイカーの中に投入した。
一体何を始めるつもりだろう、と思いながら眺めていると、ミクはいつもよりも強い調子でシェイカーを振りはじめた。
「カクテルは久しぶりだね。」
興味深そうに、男がそう言った。何度も通っている僕ですら初めてみるレシピだった。男に取ってもそれは同じなのだろう。
やがて、シェイクの手を止めたミクがシャンパングラスに完成したてのカクテルを注ぎ込む。薄い紅色をした液体がグラスの中に注がれた。表面がほんの少し、まるでビールのように泡立っているのは卵白のお陰だろう。
「クローバー・クラブよ。」
「クローバークラブ?」
思わず、僕は声を上げた。何を隠そう、このバーの店名が『クローバー・クラブ』というのだから。
「私の一番好きなカクテル。特別な時にしか出さないことにしているの。」
ミクはそう言いながら、男の目の前にクローバー・クラブを差し出した。まるでルビーのように輝くカクテルを眩しそうに眺めてから、男はグラスに手を伸ばした。
「娘さんに。」
僕はそう言いながら、まだ残りがあるジョッキを男に向けて掲げた。
「・・乾杯。」
男もまたグラスを掲げながらミクと僕に笑顔を向けると、大切なものを扱う様に慎重に、クローバー・クラブに口を付けた。
「優しいお酒だね。」
やがて男が、そう言った。口元に卵白の泡をほんの少し残したままで、心から満足した様子で、小さな吐息を漏らしながら。
クローバー・クラブ
みのり「わー!皆さんお久しぶりです!元気でしたか?私たちは相変わらずですよ!」
満「最近お酒に嵌っているレイジが思い付きで書いた小説だ。」
みのり「ところでこのクローバークラブ、ご存じの方も多いと思いますがゆうゆP様の同名曲『クローバークラブ』をモチーフとしています。」
満「クローバークラブ自体はカクテルなんだが・・この曲でクローバークラブを知った人も多いのではないだろうか。」
みのり「レイジさんもその一人だよね。」
満「でもまだ飲んだことがない。普通のお店ではメニューに存在しない。。」
みのり「という事で皆様、お願いが。」
満「厚かましいことをお尋ねしますが、クローバークラブを飲めるお店をご存じでしたら教えてください。東京近辺ならどこでも行きます。」
みのり「宜しくお願いします!ではでは、またピアプロに書けるような作品があれば投稿しますね。ぜひぜひ宜しくお願いします。」
満「あと前回宣伝している『黒髪の勇者』も宜しく頼む。」
みのり「それでは皆様、またお会いしましょう!」
ゆうゆP『クローバー・クラブ』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1937053
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