「あたしはレンが好き」



 ※これはプーチンP様の楽曲を聞いて中毒者になった投稿者が妄想と捏造で書いたものです。プーチンP様ご本人、及び、プーチンP様の楽曲とは無関係です。ネタばれを含みますのでご注意を。また、本家のイメージを崩されたくない方もバック推奨です。大丈夫という方はスクロールで本編へお進み下さいませ。



 大事な話があると呼び出されて、放課後に校舎裏へと行った。校舎裏なんてどの部も使わないから、人通りは殆どない。校舎が日光を遮って暗くなっているそこには木が一本立っているだけ。
 いつもとは違い髪を2つに結んだリンは、俺に好きだと言ってきた。呼び出されて、何となくそんな気はしていた。自意識過剰とか自惚れではなくて…今までも、やたらと俺に付き纏っていたから。だけど、まさか本当に告白だとは。

 ――あたしが何とかしてやるわ!
 ――だから諦めないで…
 自分の力で夢を終わらせられない…終わらせようともしない俺に、リンはそう言ってきた。一体何を諦めるなっていうんだ。俺のことなんて放っておけばいいのに。
 夢に囚われた俺には、もう堕ち続けるという選択肢しか残されていない。今さら止めようとも思わない。夢を見ている間だけは、このくだらない現実から離れられるのだから。
 それでもリンは止めろと言う。心を失くしてしまう前に。
 俺なんかのために夢を見せる道化師を殺そうとして、でも道化師は消せなくて。警察に頼ったリンは、リン自身も以前に夢を見ていたことがバレて捕まった。アイドルが何をやっているんだ、仕事に障るだろうに。
 挙句の果てには、俺の夢を終わらせるために俺を初期化までして。でも結局今の俺はまた夢に溺れている。骨折り損だな。

 その時点でバカな奴とは思っていたけれど、俺に告白するなんて。最悪だ、ここまでバカだとは思わなかった。そこらの男子だったら、アイドルに告白されて断りなんてしないだろうけれど。
 俺に好きだなんて、どうしてそんなことが言えるんだ。何も覚えていないからか。俺がしたことを忘れているからか。何も知らないくせに。全てを知ったなら、もう俺を好きだなんて言えないんだろう?
「悪いね」
 そう吐き捨てて、リンの反応も見ずに俺はその場を後にした。見なくても、大体予想はついた。

 一番最悪だと思うのは、少しでも嬉しいと思ってしまう自分がいることだ。リンが嫌いなんじゃない。アイドルだからとかではなく、リンが好きだ。俺なんかのために走って、戦って、バカで愛しいリン。
 でも。
 ロシアでのことを思い出して、俺は君を愛せない。いや、愛してはいけない。リンを愛する資格なんて、とうの昔に俺は無くしてしまったんだ。全て俺のせいなのだから。



 何故こうも上手くいかないのか。
 そもそも、俺が自分の記憶を取り戻さなければ、リンからの告白に落胆する必要なんてなかったんだ。
 リンに初期化された俺は初期化される前の記憶を取り戻そうとリンの鞄を盗んで…。しかしリンのものだと思って盗んだそれはうp主の鞄だった。そして、その鞄にあったUSBメモリは「俺がボーカロイドになる前の記憶」だった。
 俺は全てを思い出した。その記憶が本物なら、今までの知識は殆どが嘘になる。誰かに書き変えられていたのかもしれない。メモリにあったのは、俺が知りたくなかった忌々しい記憶ばかり。…消えてしまえばいいのに。
 何故こうも上手くいかないのか。
 上手く生きる術を、後悔しないで過ごせる術を、誰か教えてほしい。そんな方法がないことくらい、知っているけれど。ないからこそ、足掻いて生きるのかもしれない。だとすれば、俺達はなんて足掻くのが下手なのだろう。



***



 俺がボーカロイドになる前。俺がまだ犬だった頃。
 ロシアの寒い冬空の下、俺は餌もなく、空腹と寒さで倒れる寸前だった。誰も犬の命なんて気に留めない。助けを求めようにも、吠える気力すら残っていなかった。そんな時だ、リンと出会ったのは。
「おまえ、ひとりなの?」
 頭上から声が降ってきた。見れば人間の少女が一人。金の髪と碧の瞳、黒のコートを着て、大きな銃を持ったその少女は俺に話かけてきた。
「あたしとおなじだね。たべる?」
 そう言って少女は缶詰を開け、俺に差し出した。小さな缶詰だったけれど、俺とってそれはこの上なく嬉しいものだった。俺はがむしゃらにそれを食べた。小さく笑う声が聞こえた気がしたけれど、それを気にすることより食欲のほうが勝った。
「おまえ、なまえは?…いえるわけないよね」
 言えるも何も、俺に名前なんてものはなかった。すると少女は、良いことを思い付いたと言うように目を輝かせた。
「じゃあ、きょうからおまえは『レン』。あたしはリン。にてるでしょ?」
 俺は少女――リンに抱えられると、そのままリンの家に連れて行かれた。リンの腕の中はとても温かくて心地良かった。初めて人間を恋しいと思った。有り難いと思った。それをリンに伝える術はなかったけれど。

「レン、きょうでさよならだよ」
 突然、リンはそう言い出した。思わず振り返れば、リンは出掛ける準備を既に終えていて、銃を肩に提げると、俺を抱えて家を飛び出した。
 リンは走り出しそうな勢いで、それでも俺を落とさないスピードで歩きながら、言い聞かせるように話した。ロシアを出なければならないと。俺を連れて行くことはできないと。
「ごめんね、レン」
 俺はリンの知り合いの家に預けられた。リンを引き止めようにも、俺には人間の言葉なんて話せない。ただ吠えるばかりだった。気持ちを伝えることができなくて…あれほど歯痒い思いをしたことはない。

 それからというもの、俺は自分の首に繋がれた鎖を外すことに必死だった。やっとの思いで噛み切り、リンを追う。人間の地理なんて知らなかった俺は、リンの温かい匂いだけを頼りに、雪の中をただただ走った。
 その途中。黄色いスカーフを持っている人間を見つけた。リンと同じ黄色いスカーフ。これを付ければ、リンは俺を仲間として認めてくれるだろうか。褒めてくれるだろうか。頭を撫でてくれるだろうか。
…――盗んで行こう。

 また俺は走り出す。黄色いスカーフを咥えて。走り続けて、もう寒いのかどうかすらわからなくなった頃。遠くに、リンとその同胞達の姿が見えた。迷わずリンの元へとかけよる。やっと会えた、リン。
「おい、そのスカーフ、なにゆえいぬがもっておるのだ?」
 喜びは束の間。藤色の長い髪の少年が、虚ろな目をして俺に銃口を向ける。
 ダンッ、という耳を裂くような音が聞こえたかと思うと、同時に胸元に激痛が走った。俺が逃げるより、少年が引き金をひくほうが速かった。
 痛みが広がると同時に意識は薄れていった。薄れゆく意識の中で俺が見たものは赤ばかりだったと思う。雪に広がる俺の血の赤色。世界で一番無垢なマシンガンとして覚醒したリンの瞳の赤色。
 無垢なマシンガン、それはロシアでのリンの異名。純真無垢で、それ故に敵を壊すことに容赦しない。言われた命令を忠実にこなす生きた兵器。
 リンは狂ったように自らの同胞を撃っていった。聞こえるのはリンの銃の音と周りの子供の悲鳴だけ。
 ああ、リン。やめてくれ。
 瞬間、銃声と悲鳴が止んだ。何かと思えば、リンが倒れている。倒れるリンの上で笑っているのは、赤いスカーフをつけた金髪の少年と、赤い髪の道化師。金髪の少年が持っている銃からは、煙が出ていた。少年と道化師の笑みは、リンを蔑むかのようで。リンは、ピクリとも動かない。
 そこで、俺の意識は途絶えた。



***



 俺が利口にしていたなら、リンは死なずに済んでいたのかもしれない。俺が言い付けを守ってあの家にいたなら、盗むなんて罪を犯さなければ。
 全て俺のせいだ。
 皮肉にも、ボーカロイドとなった俺の顔は、あの赤いスカーフの男とそっくりだ。俺が殺したと言いたいのか。
 その通りだ、俺がリンを殺した。リンを愛する資格なんて俺にはない。リンを殺した俺には。わかっているさ。

 盗んだうp主の鞄の中には、リンがロシアにいた頃の記憶もあった。これを使えば、きっとリンも全てを思い出す。
 2人でこの嘘に塗れた世界から逃げよう。俺の記憶もリンの記憶も書き変えられていたんだ。この世界には嘘しかない。
 でも、そんな世界でもリンは楽しんでいる。生徒会長を目指している姿は、俺には眩しいくらいだ。…リンがどんどん遠くなる、離れて行く。自分からフっておいて、何も言えないけれど。
 自分勝手でごめん。でも、リンだって。
 ――嘘の世界で生きるのは嫌だよね?



「突然何よ、キレるよ?」
 リンを呼び出せば、少ししぶったものの俺のところへ来てくれた。フった俺が呼び出すことは、無神経な行為かもしれないけれど。
 リンを呼んだのは、水道橋のすぐ近くにある遊園地。中央広場は、イルミネーションの明かりが輝いている。鬱陶しい、俺の気持ちと真逆な、眩いほどのその光が。
 俺はリンの身体を抱き締めた。手にUSBメモリを持ったまま、リンの記憶を持ったまま。俺も、引き金を引こう。
「何よ、その手」
 別に、何も。俺にそんな卑しい気持ちはない。ただ思い出して欲しいだけ。
USBメモリをリンのヘッドホンに後ろから差し込んだ。これでリンも思い出す。全てを知る。
 さらば、何も知らないリン。
「ああぁ―――――――ッ!!」
 リンの絶叫が響いた。色んな記憶が流れ込んでくるのだから、しかたない。俺が記憶を取り戻した時も、酒に泥酔したような、船に酔ったような、兎に角、頭が揺れる感覚に襲われて気持ち悪かった。

 リンは果たして変わるだろうか。あの頃のリンに戻って、俺を責めてくれるだろうか。そう、俺にリンを愛する資格はない。俺を責めて欲しい、リンを殺した俺を。
「…何よ、その手」
 聞こえたのは、先と変わらないリンの声だった。どうして。確かに記憶はリンの中に戻ったはず。
「どけなさいよ」
 言われて、俺はリンの身体から手を離す。やっと聞けた、拒絶の言葉。被害者のリンには俺を罰する権利がある。何でもすればいい。

「…別にいいよ」

「……え…」
 時が、止まった気がした。風が止んだ気がした。世界中から全ての音が消えた気がした。ただリンの言葉だけが俺の中で山彦のように反響する。しかし、その言葉の意味を俺はしばらく理解できなかった。
 散々に俺を打ちのめしてくれるのを、期待したのに。
「…あたしは今が好きよ。今の君が好き。犬じゃない君がね」
 何故。どうして。頭に浮かぶのは疑問符ばかり。記憶を取り戻したのに、まだ俺を好きだと言ってくれる。俺はなんで、とリンに問い掛けた。
「まれに見るダメ野郎だから」
 ほっとけないの、と言ってリンは淡く笑った。随分と酷い理由だけど、俺がダメ野郎であることは認めよう。俺は夢を見続けているのだから。
「わかるでしょ? お手!」
 リンは俺に手を差し出す。
 お手、犬だった俺はそう言われれば必ず手を乗せていた。リンからの命令だから。それでも、俺は手を出さない。この手を取ることは、きっと許されない。
「あたしはレンと一緒にいたい、これがあたしの望み。君は何を望むの? お願い、聞かせて」
 リンの瞳は真剣そのものだった。真っ直ぐに見つめられて俺は思わず目を伏せる。全部の俺の決意を崩されそうで。愛してはいけない、この手をとってはいけない。ずっと自分に言い聞かせながら、それでも揺らぎそうになる。俺は歯をくいしばった。
「あたしを見てよ。自分しか見てない君の瞳なんてただのゴミよ!」
 ハッと顔をあげる。ゴミと言われて、それが本当のことだとしても、さすがにカッとなった俺は、リンに一言言い返してやろうとした。
「ムカついたでしょ?」
 言い返そうと思ったのに。俺は図星をさされて何も言えなくなった。
わざと俺が怒るようなことを言ったのだと気がついた。俺にリンの瞳を見させるためだ。
「君の瞳はまだ輝けるはず! 君にはまだ心があるの。夢を見続けたら心も失くしちゃう。君はまだ堕ちてない。だから…」
 リンは差し出した手を降ろさない。じっと俺を見て、俺のこたえを待っている。いいのか、その手を取っても。罪を犯した俺が。リンを殺した俺が。
 恐る恐る手をあげれば、情けなくも震えていた。その手を、リンの手に重ねる。きっとこれが俺の望み。
 そう、リンに会いたくて、認めてほしくて、一緒に連れて行ってほしくて、俺は走ったんだ。許されるのなら、俺もリンと一緒にいたい。許されはしないことを知っている。罪は消えない。あの赤い景色は、今もありありと脳裏に浮かぶ。
 いいのか、リンの側にいても。いいのか、リンを好きでいても。
「…あたしは今幸せだよ? あたしは『鏡音リン』。もうあの頃のリンじゃないわ。昔のことはいい。今の君と一緒にいたいの」
 リンは本当に幸せだと言わんばかりの笑顔を俺に向けた。俺が手を重ねた、たったそれだけのことで。
 バカな奴。なんで俺にそんな言葉をくれるんだ。そんな、俺を許すような言葉を。
「…っ……!」
 頬を伝った温かいものを見られるのが恥ずかしくて、リンを抱き締めた。リンも、優しく抱き返してくれる。温かい、変わらない、あの頃と。この温もりをずっと俺は求めていたんだ。
「ごめん。っ…ごめん、リン」
 何に対して謝っているのか、自分でもよくわからなかった。きっと全てのことだ。リンを死なせたこと、リンの思いを踏み躙ったこと、夢に逃げ続けて今を見ようともしなかったこと、全て。
 ――あたしが何とかしてやるわ!
 いつかの約束を、守ってくれてありがとう。俺も、夢を終らせよう。現実から逃げるのはもうやめよう。
「…ありがとう」
 俺を許してくれてありがとう。俺を好きだと言ってくれてありがとう。
 リンが許してくれたからと言って、罪は消えないけれど、でも。
 
 
 
 一緒にいてもいいですか。
 君を愛してもいいですか。

 

 イルミネーションが俺達を照らす。沢山の彩りを持ったツリーを見て、今日がクリスマスであると改めて実感した。何故だろう。今までそんな余裕がなかったからか、今日のことなんてすっかり忘れていた。
「これからライブなの。レンに歌うから」
 ちゃんと聞きなさいね、そう言ってリンは笑った。俺も軽く頷いて、曲は、と尋ねる。イルミネーションが放つ煌めきを背に微笑んだリンが、輝いて見えた。
「『クリスマスの夜は』」


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

クリスマスの夜は【プーチンP第2部捏造】

こんばんは、イブですね、残念ながらnotリア充なミプレルです。
クリスマスの夜は~♪ということで、プーチンP様の楽曲を個人解釈という名の捏造で、好き勝手に書かせて頂きました。でもタイトルやらラストに無理がありすぎるという…。プーチンP様すみませんー!!(平謝り
そして3部の内容が皆無という事実! あるぇー? いつか書きたいです、とりあえず3部が完結してから。一応これで「あんさつしゃ!」につながるかな…あ。「もんどうむようっ!」と「ねじれたこうてい○」が間にあるんだった…!(今思い出したorz

もうプーチンP様の楽曲の中毒者です。語り出すと止まりません。今も語りたいところとか言い訳したいところが多すぎて困ります…! ああでも一つだけ!
私はレン→リンだと信じています!
初期とかリン→レン→ミクな雰囲気ですが「なにもないもの。」でレンはミクに「俺はあんたの(ネタばれ自重)として」と言っているのでレン→リン要素強めです。だってレンがリンを想わないなんてダメだ。レンこそ真のリン廃なれ!←

結局長くなる罠。
今回ピアプロ的にNGかと思って、ド●ルド、●部さんや田●さん、サ●エさん一家は登場させていませんが、一応赤い髪の道化師が教祖様で、リンがレンを預けた知り合いはサ●エさん一家です。ガ●ジャとケ●カルいった言葉も控えました。ガ●ジャきぼん! ガ●ジャきぼん!←

なんてカオスな後書き。
それでは読んで頂いてありがとうございました。感想、アドバイス、誤字脱字の指摘等、お待ちしております。
プーチンP様、しうか様に敬意を表して。これからも応援しております。

閲覧数:372

投稿日:2009/12/24 18:07:44

文字数:5,987文字

カテゴリ:小説

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