<You and beautiful world ,after>
それから、彼に会うことはなかった。
彼との接点は音楽室だけだったから、学校を卒業した後どうしているのか、何をしているのかを知る術はなかった。
歌を歌うことはなかった。
彼の為に歌っていたわけではないけれど、この声を誰かの為に紡ぎたくなかった。
私の中にそっとしまっておきたくて。
ただ音楽は好きだった。
奏でられる音を耳にすると心地よかった。
ある日、音楽雑誌の端っこに小さな記事を見つけた。
もう随分と会ってない彼の横顔があった。
ピアニストとして活動をしている彼の姿に驚いた。
随分と表情が柔らかくなった彼に、なんだか不思議な感覚さえ覚えた。
私の知っている彼は、もうちょっと表情の硬い人だった気がするから。
あの苦しい思い出も、今ではこんなに冷静に見られるようになった。
それくらいに、時は過ぎていた。
紹介されていたのは、彼が作った曲。
そこに書いてあった彼の言葉に、その小さな曲に。
私は息を呑んだ。
歌い手のいない、伴走曲。
『これは僕にたくさんのことを教えてくれて、たくさんの音を伝えてくれた人のための作った曲です』
『歌が好きな彼女のために、僕が出来る唯一の贈り物を作っていました』
『ただ、その所為で彼女に寂しい思いをさせて、傷つけてしまったんです』
『彼女にこの歌を届けることは出来ないかもしれないけれど』
『これは彼女のためのものです』
『だから、歌はないんです』
涙が止まらなかった。
あの時、彼がずっと何かを考えるように音を奏でるのをしっていた。
私の知らない、でも私の好きな音を奏でているのを知っていた。
でもあなたは何も言わなかった。
だから知らなかった。
どうしよう、声が溢れてくる。
あなたの為に紡ぐ歌が。
あなたのそばで歌いたい。
あなたの為に、この歌を紡ぎたい。
酷いことをいってごめんなさい。
あなたの音を傷つけてごめんなさい。
あなたの音がとても好きだったから、独り占めしたかった。
誰にも聞かせたくなかった。
でも今なら、彼が私の為に作ってくれたこの音をすべての人に聞かせたい。
この溢れる思いを、歌に乗せて。
もう一度だけ届けさせて
【小説書いたよ】You and beautiful world ,after【前の続き】
http://piapro.jp/t/0Qai の続きです。
元作品はこちらの動画です、http://www.nicovideo.jp/watch/sm10745754
続きっていうか、Happyendにしたかった私のしたたかな希望です。
本当卒業式とか考えてたんだけど、また力が尽きないときに書きたいです。
小説:エノモト
Special Thanks to
ゆよゆっぺ様、こまん様、meola様
私の作品を見てくださったすべての方々
最上級の感謝を込めて。
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