正直、俺は『普通』じゃないと思う。
 毎日何もせずにただぼうっと桜の木の下に寝転がって、綺麗に咲いた桜花と果てしなく広がり続ける青い空を眺める毎日。誰でも生きるために働き、金を稼いで汗水たらしているというのに、時折自分が何のためにここにいるかのすら忘れてしまいそうになる。
 最近、毎日のように来る自分とよく似た少女がいる。金髪と青い目、白いリボンで、自分を女にして少し幼くしたら、あんなふうなのだろうと思う。
 ――あの少女は、まるで、『君』みたいだね――
 馬鹿みたいに純粋で、人のことすぐに信じるお人よしで、綺麗な物が大好きだった。
         リン

 今日もまた、リンは走って学校を駆け出そうとしていた。
「ねえ、リンちゃん」
 後ろからリンを呼び止める声に、リンは一度立ち止まって声のするほうを確認するように、振り返った。
「あ、ミク先輩」
「ちょっと、話、聞いてくれない?」


 全く、無駄な時間を食われてしまった!
 先輩の失恋話になど興味はないというのに、長々と告白までの武勇伝を話して、それから告白した相手の悪口に発展していた。つまり、先輩は振られた腹いせに後輩に愚痴って、相手の印象を悪くしてやろうと言うたちの悪いタイプの女生徒だったわけだ。
「レン、今日も来たよっ」
 そう呼びかけてみても、レンからの返答は得られず、リンは桜の木に近づいていくと、後ろに当たるところにレンは眠っていた。やはり、今日も転寝をしているらしい。
 いつもの通りに顔に小説を被って眠っているレンの整った顔が見えるように、文庫本をとってやると、レンは…泣いていた。
「…レン…?」
「…ん、あれ、また来てたの。お茶、淹れるから――」
「レン、泣いてたの?」
「え?」
「涙…」
 そういわれてやっと気がついたようにレンはあわてて涙をぬぐうと、笑ってどうにかごまかそうと見え透いた嘘をついた。
「ほら、眠る前に欠伸とかしてたら、涙が出ただけ。泣いてたわけじゃないよ」
「…そう」
 納得したわけではない。どうせ、レンは案外強情な奴で、最初に聞いたときにごまかそうとしたのなら、追求したって無駄なことだ。ならば、ここで一旦ひいておいたほうがいい。あまり深く追求してレンの機嫌を損ね、ここに来るのが気まずくなるのはリンも嬉しいわけがないからである。
「――紅茶、だよね」
 そういって、レンは無理に笑った。
 痛々しいような笑顔だった。

 少し、笑う練習。
 少しだけ、ハニカム真似。
 ほんの少し、過去を忘れるように泣いてしまいそうになるのをこらえて、君と過ごした日々の記録を、また一つ、ゴミ箱に押し込んだ。放り込むことなんてできない。もう少しで、君とのことを忘れられそうなのに、毎日やってくるあの少女がそれを拒まんとする。
 忘れたくない。けど、忘れなければ俺はずっと過去から、『あの時』で立ち止まったまま、進むことができなくなってしまう。
 君が、まだ、ここにいてくれたなら、こんな風に夜中に窓の外の桜を見て涙を流すこともなかったというのに、君はそんなに俺のことが嫌いだったのかな。俺はひねくれてるから、それが愛情の裏返しだとか、愛の試練だとか、そんなふうには受け止められなくて、いつも君を傷つけていたことに気がついている。なのに、笑っていた君がいとおしいのと一緒に襲ってくる、憎たらしい気持ち。
 ダイスキだったのに、君は俺を裏切った。もう、俺に一生会うことのできない世界に、旅立ってしまったのだから、俺は永遠に君を抱きしめることはできない。
 もっとわんわん泣ければ、少しはすっきりするかもしれないのに、子供のとき無感動な子供だったからだろうか、不思議と涙は出てこなかったんだ。
 
「リン」
「なぁに、レン?」
「…いや、別に、なんでもないよ。呼んでみただけ」
「何よ、気持ち悪いっ」
 怪訝そうな顔をするリンを見て少し笑うと、レンは紅茶のカップを片付けた。
「…桜、散ってきたね」
「うん。綺麗だよ」
「…そうだね」
「あんなふうに、人もあっけなく散ってしまうんだ」
「――?」
「リン、そろそろ帰らないと塾に遅れるんじゃないの?」
「あ、もうそんな時間か。じゃあ、この辺で。じゃねッ」
 笑顔を作った。お互い、下手な作り笑顔。
 手を振りながら、相手の姿が視界に入らなくなってから、深く安堵のため息をついてその場に座り込んでしまいそうになった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

またいつか、桜の木の下で 2

こんばんは、リオンです。
ちょっと位自虐的でネガティヴなレンが好きなんです。
暗いですね…。
リ「ねえ、レン、どうしてレンのほうが年上なの?」
レ「設定だから」
リ「でも、一般的には私がお姉ちゃんだよ?」
レ「設定だから」
リ「でも…」
レ「設定だから。意見は一つも認めない」
リ「…」
そんな今日の双子です。レン君はちょっとご機嫌斜めなのですね。
それでは、また明日!

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閲覧数:576

投稿日:2010/02/04 23:13:07

文字数:1,833文字

カテゴリ:小説

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  • 癒那

    癒那

    ご意見・ご感想

    ポニョがリンとレンだったらどうなるんだろう?と思っていた癒那です♪



    そして


    わーい!明日ですよ!ついに♪明日札幌に行けます♪
    でも栄町って遠いですね・・・(/Д)


    フィギュアとか、ウィズユーカード手に入るかな・・・。

    それでは明日早く起きなければいけないので

    それでは♪

    2010/02/05 23:05:50

    • リオン

      リオン

      こんばんは、癒那さん。ポニョ…足が鳥っぽいな、と思っていたリオンです♪

      明日ですか!
      栄町は少し遠いかもしれませんね…。

      グッズも手に入ったら最高でしょうねぇ!
      明日、頑張って起きてください(何
      健闘を祈っております!

      2010/02/05 23:51:26

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