はらりひらりと雪が舞う、寒い冬の夜だった。白が降りしきる中、一台の馬車が山道を走る。
馬車の中には12、3人程の子供が、怯えた目で周囲を見渡していた。皆10にも満たない女童ばかりで、薄汚れた着物を着ている。
「ねぇ、」
声を発したのは、淡い茜色の着物に緋色の帯をした少女だった。黄金色の髪も空色の瞳も服も薄汚れているが、その瞳は明るく笑っている。
彼女の名前は花凜。飢饉に喘ぐ村の口減らしのため、自ら身売りした少女だ。彼女はにこりと笑いながら、すぐ隣の少女に声を掛ける。
「あたし、花凜っていうの。貴女は何て名前なの?」
膝を抱えて顔を埋めていた少女が顔を上げた。浅黄色の着物に萌黄色の帯。碧の髪に翠の瞳が美しいが、その瞳は深い憂いの色を湛えて俯いている。
「私は・・・美久」
口の中で転がすように答える声に覇気はないが、きちんとすれば美しい声なのは確かだろう。彼女は父の酒代のために売り飛ばされた少女だった。彼女は半ば睨むように花凜を見ると「どうして・・・貴女は笑っているの?」と聞いた。
花凜はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに顔を輝かせた。
「あたしの村は貧乏でさ、この間、とうとう大凶作になっちゃったの。口減らしに子供を殺すしかない!って大人達が決めたらしくて殺されかけたんだけどね、せめてって身売りしたんだ。行く先は女の苦界かもしれないけど、生きていればいい事があるもの!」
花凜は立ち上り、叫ぶように誓う。
「あたしは誓う! 生きて生きて、泥水を啜ってでも生き抜いて、24に故郷に帰るんだ! あたし、聞いた事がある! 24になったら、遊廓から出られるって!」
少女達の顔に、希望の色が浮かんだ。一度入ったら、二度と出られないと言われる遊廓から出る方法がある、と。
だが、美久だけが憂鬱な表情を崩さなかった。
「私は・・・待てない。24になるのを待つより早く、戻りたい・・・」
怨むように、美久は低い声で言う。花凜は美久の顔を覗き込み、そこに疵を見た。花凜は美久の瞳を見つめて言葉を紡ぐ。
「私の村に元花魁の人がいて、その人が教えてくれた。誰よりも美しい華になれば、24よりも早く外に出られるって」
「ホントに?」
美久の顔が希望に輝く。美久の瞳に花凜が映り、美久はそこに疵を見た。
きっと彼女も、上辺を取り繕っているだけで疵付いているのだろう。殺されかけて、売り飛ばされて。
「ホント。私は、一番の華になる。故郷の村に帰るんだ!」
花凜は小指を立てた。美久は躊躇わずに小指を絡める。
「私も、一番の華になる。」
私は、生きる。生きて、私を売ったあの男に復讐してやる。
「当然。私だって負けないよ?」
私は、生きる。生き抜いて、故郷に帰ってみせるんだ。
「「だから、約束―――」」
それは、後に『牡丹の鏡音・椿の初音』と謳われる二人の始まりの物語。生きる事を誓った二人は、小さく笑いあった。
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Re:sui
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