8-2.
身体をベンチに抑えつけられ、口にハンカチを押し込められた。私は、逃げ出すことも悲鳴を上げることもできなかった。
「おい、暴れてんじゃねーよ。もっと抑えろ。服が脱がせねー」
金髪の手が私の身体をはい回る気持ち悪い感触がした。
「……んんっ。んっ! んー!……」
イヤだ。
止めて。
海斗さん。
海斗さん!
瞳には涙が浮かぶけど、三人が手を止めるわけがない。
でも、届くわけがないって思ってた声は確かに届いていた。
私はもう一度、信じていなかった神様に本心から感謝した。
「俺は……優しすぎたんだな。あんたらに対してどうすべきか、俺はわかってなかった」
「なんっ……ゴハッ!」
私には、何が起きたのかよくわからなかった。
わかったのは、あの人の声がした瞬間に、金髪の男が文字通り吹き飛んでいったってことだけだった。
「んだ? テメェは」
いかつい男とホストの二人は、突然金髪が倒れ伏したことに動揺していた。すごんでみるその声が、少し震えている。
「答える義理はない。もうすぐ警察もくる。あきらめな。あんたらは逃げられない」
「逃げられねぇだと?」
「ああ」
そのときになって、暗がりにいる海斗さんの顔がやっと見えた。
その瞳には、今までに見たことがないほどの怒りが見てとれる。気迫に負けた二人が一歩下がったのも、仕方なかったと思う。
海斗さんは、二人に何か言う暇も与えずに、鋭い蹴りで二人をあっという間に昏倒させてしまった。
――三対一じゃ、喧嘩しても勝てそうにないしね。
初めて会ったとき、この三人組から助けてくれたときに、海斗さんがそんなことを言ってたのを思い出した。
全然そんなことない。こんなに――強かったんだ。
三人を片付けると、海斗さんはすぐに私にかけよってきた。
「未来、ごめん」
ベンチの上に倒れたままの私に手をのばし、乱れた私の服を整えてくれる。
身体に力が入らなくて、私は海斗さんにされるままになっていた。
「未来、大丈夫? 立てる?」
抱き起こされて、すぐ目の前に海斗さんの心配そうな顔があるのを見てから、私はようやく自分が助かったんだと実感した。
「か、いと……さん。海斗、さん。海斗さん……!」
安堵とともに、涙があふれてきた。海斗さんの名前を何度も呼びながら、私は海斗さんに抱きついた。海斗さんが力強く抱き締めてくれるのが、こんなに安心できるものだなんて知らなかった。
「海斗さん……ごめんなさい。ごめんなさい!」
やっと、その言葉をしぼりだす。
私が勝手に出て行かなければ、こんなことにはならなかった。
私のせい。自業自得なんだ。
でも、なのに。
海斗さんは探しててくれた。しかも、それだけじゃなくて助けにきてくれた。
嬉しい。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
「いいんだ。未来、謝らなくていい」
「でも……」
海斗さんは、また強く抱き締めてくれる。
「大丈夫だから」
「……ありがとう、ございます……」
私がわがままだっただけなのに、海斗さんはそんなことを言う。
なのに、私は。
……私は、海斗さんに何も返せてない。こんなに海斗さんに優しくしてもらってるのに、私は自分勝手で、図々しくて、海斗さんのことなんて何も考えてない。海斗さんの気持ちをちっともわかろうとしてない。
……ごめんなさい。ありがとう。
これからいったいどうなるのなんかわからない。私が海斗さんと居られるかどうかも、まだわからない。
でも今だけは。
今だけはこの胸の中で泣いていたい。
海斗さん。ありがとうございます。
遠くにパトカーのサイレンが聞こえてくる。海斗さんは本当に警察を呼んでいたらしい。
そして、警察を呼んでいたのが実は誤算だったと気付いたのは、警察署についてからだった。
ロミオとシンデレラ 38 ※2次創作
第三十八話。
先日、久しぶりにipodをPCにつないでみると、doriko様の原曲「ロミオとシンデレラ」の再生数が200回を超えてました。
ipod内での再生数も文句なしのトップ。ちなみに2位はryo様の「ワールドイズマイン」で、再生数は128回。1位と2位の間に約70回もの差がありました。
……我ながら、「ロミオとシンデレラ」ばっかり聴きすぎだな、と(苦笑)
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