タグ「野良犬疾走日和」のついた投稿作品一覧(19)
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列車が減速をしはじめた。間もなく停車をすることを機械音声が伝えてきた。
「どうする?」
と、メイコが窓の外を窺いながら言った。
行く先にはこじんまりとした停車場があるのみで、周囲には水辺が広がり、ぽつぽつとあちらこちらに水上の家屋が並んでいた。
「この辺りは大きな街ではないみたいだけど。一度降りよ...QBK・19~野良犬疾走日和~
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けらけら、けたけた、と誰も居ない列車の中2人の笑い声だけがこだました。笑いすぎて、むせて、それが可笑しくて又笑って。
ひとしきり笑った後、メイコは、そういえば。と笑いすぎて出てきた涙を拭いながら、皆は?と訊ねてきた。
「皆は、どうしたの?」
メイコの問いかけにカイトは笑うのを止めて、ほんの少し寂し...QBK・18~野良犬疾走日和~
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暗闇だった空が白みはじめ、周囲は次第に明るくなってゆく。撒くことができたのだろう、背後から追っ手の気配はもう感じられず、2人は歩を緩めた。
街外れが近いことを途切れなく聞こえてくる水音が示していた。目的地は近く、水辺から発生した霧が周囲に立ち込めて、白い闇が広がっていた。指先も見えないほどの濃い霧...QBK・17~野良犬疾走日和~
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メイコは襟元に手を伸ばして小さな壜を取り出しその蓋を手早く外して、誰も止める間もなく一息にその中身を呷った。
げほげほ、と咳き込むメイコに、一体何を飲んだのか。とカイトが駆け寄った。背を丸めて苦しむメイコの顔を覗き込み、メイコの押さえた口元から滴り落ちる赤い液体に、はっと息を呑んだ。
「、、、メ...QBK・16~野良犬疾走日和~
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「カムイとグミちゃんが研究所に潜入して爆弾を仕掛けてくれたんだ。」
「また、派手なことをしたわね。」
「発案者はルカさんだよ。」
「ああ、あの子は時々思い切ったことするからね。」
こみ上げてくる笑いを抑えきれず、メイコがくつくつ笑っていると、流石にメイコが居ないことに気がついたのだろう、人ごみの真ん...QBK・15~野良犬疾走日和~
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夏至の夜は一年で一番夜が短く闇が濃くなるので、この暗い帳の向こうから魑魅魍魎がやってくる、と言われている。だから人々は夏至の夜は面を被り、物の怪に扮して街を練り歩く祭りを行う。そうやって、本物の物の怪に仲間だと思わせることで、悪戯されることなく一夜を超えることが出来るのだという。
メイコが用意さ...QBK・14~野良犬疾走日和~
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紅く染まる夕焼けが、バラックが立ち並ぶ下町の向こうに広がる水平線に落ちてゆくのを、寝巻き姿のままでメイコは鉄格子越しに眺めた。
身を清められ清潔な着物を渡されて白い殺風景な部屋に通されて、数日がたった。食事はきちんと1日3回、合間にお茶の時間もある。ふかふかのベッドで眠ることもできる。飽きることの...QBK・13~野良犬疾走日和~
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レンとカイトが負った傷はミクが丁寧に治療してくれた。どちらも銃弾は体内から抜けていて、良かった。とミクは言ったが、全然良くない。とカイトは泣きすぎて朦朧となった頭でぼんやりと思った。
小屋の中は昨夜が嘘みたいに静かだった。ミクがかちゃかちゃと器具を使う音と、横たわるレンの傍らでリンがしゃくりをあ...QBK・12~野良犬疾走日和~
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雨は夜明け前に止み、しかし空は暗雲で覆われていた。カイトはその時、屋根の上に登って雨漏りの修理をすべくトンカチを握っていた。ルカは家の中でご飯の片付けをしていて、ミクは家の前で洗濯物を干し、リンとレンは子犬がじゃれ合うように少し離れたところで遊んでいた。
メイコが丁度、屋根の修理のために板切れを...QBK・11~野良犬疾走日和~
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夕方ごろ訪れた豪雨はそのまま一晩降り続き、ぼろぼろの小屋は雨漏りだらけで、あちこちで雨だれが音楽を奏でていた。
ふんふん、とメイコが鼻歌を歌う。その微かな赤く花開く歌声に、ミクが薬草をすり潰しながらもメイコの声に合わせて歌い、双子やルカもそれぞれ手仕事をしながらそれに続く。垂れた雫でいっぱいにな...QBK・10~野良犬疾走日和~
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大きな、二つの車輪を付けた鉄の塊が小屋の前に止められていた。こんなものを乗り回すなんて、どれだけ筋肉隆々とした子なのだろう。とカイトは思ったが、そんな予想に反してグミは本当に小柄な少女だった。
濃いオレンジ色のゴーグルを華奢な首に下げ、丈の短いスカートから伸びた足は細く、袖の無いシャツからむき出...QBK・9~野良犬疾走日和~
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温い空気の中、この街の南に広がる水面の上をすべるように列車が走る。どこに繋がっているのか定かでなく誰も使用することの無いこの列車は、それでも定刻どおりに出発して前へと進む。その列車の行く先に立ちはだかるモノが目に入り、じゃぶじゃぶと泡を飛ばしながら洗濯をしていたカイトは手を止めて、水平線を指差した...
QBK・8~野良犬疾走日和~
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「もういいでしょ。ルカ。」
そう張りのある赤い声が、2人の間に割って入った。
苦笑気味のメイコと心配そうな表情のカムイが裏口の戸を開けて表れた。
「半裸のカイトにルカが出刃包丁を突きつけてる図って、なんか倒錯的ね。」
浮気現場、発覚。と言ったところかしら。
そうくつくつと笑いながら言うメイコの言葉...QBK・7~野良犬疾走日和~
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何でもっと気の利いたことを言うことが出来ないのだろう。やっぱり俺って役立たず。と軽く落ち込みながら、カイトは家の裏に回り、井戸から水をくみ上げた。
服を脱いで下着一枚になり、盥に溜めた水をざばざばと頭から被る。水は冷たく、ひんやりと冷えた肌に触れる空気は温く心地よい。
ぽたぽたと頭から雫を落とし、...QBK・6~野良犬疾走日和~
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「よーい、どん。」
そう言った瞬間、カイトの体は弾かれたように前へと突進した。
え、と思った瞬間には、向かってきていた男の横をすり抜け突破し、カイトはリンを捕らえている男にその勢いのまま体当たりをしていた。不意を付かれた男は吹っ飛び、カイトも捕まっていたリンも地面に転がる。が、くるんと柔らかな身のこ...QBK・5~野良犬疾走日和~
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買い物、といってもたいした物は買わない。そもそもたいした物を買う金が無いのだ。拾ったり自ら育てたり採ってきたりして、大抵のものを手に入れている。だが、そうは行かない物、例えば、塩とか酒とか穀物とか、そういったものは買うのだそうだ。
そんなわけで、カイトが塩の塊を手に入れて、店で酒を瓶に詰めてもら...QBK・4~野良犬疾走日和~
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元の回復力が凄いのかミクの作ったネギ薬が凄いのか。カイトは死にかけていたくせに2、3日で元気になった。
働かざる物食うべからず。というメイコの言葉の下、元気になったカイトは買出しのお供として元気に歩く双子と一緒に歩いていた。
「料理はルカ姉で裁縫とか掃除とかの家のメンテナンスはメー姉とカムイの仕...QBK・3~野良犬疾走日和~
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女はメイコ、と名乗り、カイトは死にかけのところで拾われて、生き延びることが出来た。
実際、メイコはよくものを拾ってくるらしい。使えるものから使えないものまで、色々と。食べられるもの履けるもの被るもの巻くもの、有機物無機物、犬猫、人間。
そんなわけでメイコがカイトを拾って、彼女が仲間たちと一緒に...QBK・2~野良犬疾走日和~
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白くけぶる朝靄の向こう側に、青い空が見えた。オレンジ色の太陽光線が目を刺す。ぼやけた意識の中で、ゴミが山となった場所で足が動かなくなり気を失ったのだと思い出した。
気を失ってからどれぐらいが経っただろうか。たしか、気を失ったとき太陽は丁度頭の真上にあった。痛いくらい攻撃的な眩さからしてこの太陽は...QBK・1~野良犬疾走日和~