暗闇だった空が白みはじめ、周囲は次第に明るくなってゆく。撒くことができたのだろう、背後から追っ手の気配はもう感じられず、2人は歩を緩めた。
街外れが近いことを途切れなく聞こえてくる水音が示していた。目的地は近く、水辺から発生した霧が周囲に立ち込めて、白い闇が広がっていた。指先も見えないほどの濃い霧に、カイトが慌てて見失わないように隣で歩いているメイコの手を握る。握り締めた相手が、ふと笑うような気配が伝わってきた。握り返される手の暖かさを感じながらカイトとメイコが歩を進めると、白くけぶる視界の中、四角い影が見えた。
「列車だ。」
水の上を渡る、今では誰も利用しなくなった、けれどそれでも律儀に定刻どおりに運行する、列車。
その四角く大きな車体が連なっている姿。こんなに近くに見ることは初めてで。意外と大きなその姿にしり込みしたカイトをぐいと引っ張り、メイコは全く恐れる様子も無く、列車に乗り込んだ。
乱れた着物の裾をなおし手に持っていた草履をきちんと履いて、緑色の布が張った長いすにメイコはすとん、と腰をかけた。つられてカイトもその横に緊張した面持ちで座り、しかし、意外にも座り心地の良いその椅子に、直ぐに緊張は解けてしまいゆるゆると目を閉じた。
時間が来たのだろう。ぴー、と甲高い音を立てて発車時刻を知らせ、かたん。と扉が閉まり、列車は進みだした。かたんかたん、かたんことん、と列車は次第に速度を上げてゆく。硝子のはめ込まれた窓の外、夜が明けた空は薄紅色に染まり始めていた。
一晩中走った疲れがどっと2人に押し寄せる。カイトは目をつぶり、メイコはどこかうつろな眼差しで、夜が明けて刻一刻と移り変わる景色を見つめていた。
「カイト、水。」
不意に、メイコがそう呟くように言った。その掠れた声に、え。とカイトが目を開けると、メイコは双子に貰ってたでしょ。と言った。
「まだ捨ててなかったら、頂戴。」
「あ。うん。」
そう言ってカイトはまだ持っていた水筒をメイコへ手渡した。よほど喉が渇いていたのだろう。蓋を取って、ぐびぐびとメイコはそれを一息に飲んだ。
あれ。とカイトは首をかしげた。確かメイコは薬を飲んで喉を潰したのではなかったか。声はもう出ないはずなのに。確かに掠れてはいるけど、何で喋れるんだろう。
「あー、美味しい。生き返った。」
そう感嘆の声を上げて水を飲み干したメイコの声は既に、掠れてもなく。
あの、赤い、花開くような声だった。
「メーちゃん、声。」
そうカイトが驚いて尋ねると、メイコはにやり。と笑った。
「演技よ、演技。飲んだのはミクの薬。前に、一時的に声を枯らす薬を作ってもらっておいたの。」
本人も忘れているかもしれないわね。とメイコは楽しげに笑う。
「でも、でもメーちゃん血を吐いてたじゃん。」
そう、まだ信じられない様子でカイトが言うと、あれは薬の色が赤かったの。とメイコは苦笑した。
「あまりの不味さに全部飲み込めなかったのよ。あれは声を枯らす薬じゃなくて、あまりに不味過ぎて声が枯れる薬だわね。」
そう言ってけらけらと大声で笑う。メイコの笑いの発作につられてカイトも、なんだ。と弾けるように笑った。
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