けらけら、けたけた、と誰も居ない列車の中2人の笑い声だけがこだました。笑いすぎて、むせて、それが可笑しくて又笑って。
ひとしきり笑った後、メイコは、そういえば。と笑いすぎて出てきた涙を拭いながら、皆は?と訊ねてきた。
「皆は、どうしたの?」
メイコの問いかけにカイトは笑うのを止めて、ほんの少し寂しそうに顔を曇らせた。
「ばらばらになって逃げたほうが良い。って。話になって。皆、それぞれの方向へ向かって街を抜け出したよ。」
双子は西、カムイとグミは東に、ミクとルカは北で、カイトとメイコは南へ。
ばらばらに逃げたほうが、追っ手も分散されるから助かる可能性が高い。そうカムイが言い、皆もそれに賛同した。もう会えないかもしれない。けれど、生きていればきっと会うことができる。そう寂しさと希望を抱いて皆は散り散りに逃げたのだ。
カイトの話に、賢明な判断だわ。とメイコは頷いた。
「あいつらも、あの場は信じたけど。でも落ち着いたら喉を潰したのは嘘だったと気がつくわね。喉を潰すほどの劇薬を飲んだ後に、あんなふうに全力疾走なんて出来るわけないもの。」
そう言ってメイコはうんざりする様に眉を寄せた。それは、常に追われる側の悲しみの表情だった。
追われて追われて。ずっと安心できる場所が無い。いつ相手に追いつかれるか、恐怖を感じながら、それでも必死に逃げることしか出来ない。
「きっと又、追いかけてくる。」
そして又逃げなくてはならない。そううんざりと呟くメイコの言葉に、カイトは一緒に逃げるよ。と言った。
「俺も一緒に逃げる。だから大丈夫だよ。」
そうカイトは必死の様子で言ってメイコの手を取り、握り締めた。
荒れた指先は温かく心地よく、このぬくもりを手放す事などありえない。追われる恐怖をメイコが負うのならば、カイトはその恐怖含めてメイコを背負って逃げてやる。
そう強く思ってカイトがメイコを見つめると、メイコは泣き出しそうな表情で見つめ返してきた。
「これは御伽噺みたいに、めでたしめでたしで終わらないのよ。終わらない夜の闇の中をずっと逃げるようなものよ。それでも、いいの?」
メイコの言葉に、カイトは何だそんな事。と笑った。
「メーちゃんが隣に居るんだよ。十分めでたしめでたし、じゃん。」
そう言ってカイトはあっけらかんと笑った。笑って、メイコの手のひらに、まるで犬が甘えて鼻面を摺り寄せるように、頬を寄せる。
「大丈夫。俺は脚、速いから。」
大丈夫。そう念を押すように言って、カイトはメイコの指先に約束の誓いを立てるよう、口付けた。
その甘やかな感触に、メイコの瞳が綻んだ。
「そうね。大丈夫ね、きっと。」
そうカイトに応えるようにメイコも言って笑った。
それは何の根拠も無い大丈夫だけど。けれど、メイコも大丈夫だと笑う。だから、大丈夫。
そう思ってカイトは笑った。
「でもさ。メーちゃんの声が潰れなくてよかった。俺、メーちゃんの声好きだから。」
そう笑いながら言うカイトにメイコが意地悪げに、声だけ?と尋ねた。
「好きなのは私の声だけ?」
その言葉に、カイトは慌てて首を横に振る。
「違う。メーちゃんの全部が好きだよ。」
慌ててそう訂正するカイトに、メイコは思ってもいなかった返事だったのだろう、驚き目を丸くして、次の瞬間、破顔した。
「ホント、あんたは真っ直ぐ突っ走ることしか出来ないのね。」
何故笑われているのか分からず、きょとんとした様子のカイトに、メイコはそうね。とくすくすと笑いながら言った。
「私も、カイトのことが好きよ。」
赤い声が、そう言ってカイトの胸の中に赤い花を咲かせる。
大好きな人から好きと言われる。これ以上の幸福は無い。カイトは喜びで胸をいっぱいにした。
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