#「雨にも負けず、風になりたい」【前編】
未来(ミク)……それは両親が私にくれた名前
未来を強く歩めるようにと……
私は子供時代を、この小さな田舎の村で育った
私が小学校に入ってすぐ、両親が離婚し、母親に引き取られた私は、母の実家のあるこの山奥の村で暮らすことになった
その家には、母の母……つまり、私のおばあちゃんが1人で暮らしていた
私のおじいちゃんは……よその国と戦って亡くなったと母からきいた
そして、母は、その時、あばあちゃんのお腹の中にいた子だともきいた
だから、母に兄弟はいない
おばあちゃんは、女手ひとつで母を育てたのだ
間もなくして、母は生活費を稼ぐために、都会に一人で出て行った
幼かった私は、一緒には連れて行ってもらえなかった
だから、私はいつもおばあちゃんと一緒だった
おばあちゃんは、毎日、家の家事をして、畑に出かけ、私の面倒を見てくれた
おばあちゃんは、いつも笑顔だった
父親がいなくなり、母親ともなかなか会えなかった私は、よく寂しくて泣いていた
そのたびに、おばあちゃんは、笑顔で私をなぐさめてくれた
どこかに行きたいとわがままを言ったりもした
おばあちゃんは、近くの山や川に連れて行ってくれたが、子供だった私は……
「こんなところやだ!遊園地がいい!!」
そんなことを言って、おばあちゃんを困らせていた
おばあちゃんは、騒ぐ私に一つも文句をいわずに「はは……ごめんね」とだけいった
ある日、私は畳の上で寝転びながら、おばあちゃんにきいた
「おばあちゃんは、私がここに来るまで、一人で寂しくなかったの?」
特に意味はなかった
ただ、母親になかなか会えなくて、寂しいという気持ちが、自分だけじゃないと思いたかったのかもしれない
すると、おばあちゃんは家事を一旦やめて、私のほうを向いて笑った
「さみしくなんてなかったですよ。だって、ここにはあの人や、未来ちゃんのお母さんとの思い出もありますからね」
そういうと、棚の上に置いてあった写真を、私の下に持ってきて見せてくれた
「これ……だれ?」
すらっとしていて、かっこいい男の人と、お腹の大きな女の人が白黒の写真の中に笑顔で立っていた
「これはおばあちゃんの旦那さん。つまり、未来ちゃんのおじいちゃん」
私はこの時、初めて祖父の顔を知った
「この後すぐに、おじいちゃんは徴兵されちゃって、二度と戻ってきてはくれなかったけど……未来ちゃんのお母さんが生まれてくれた。あの人にそっくりだったわ……」
おばあちゃんは目を細めて笑っていた
「ねぇ……おばあちゃん?」
「なぁに?」
私がおばあちゃんを呼ぶと、いつもの笑顔で私をまっすぐ見てくれていた
「おばあちゃんは、いつも笑ってるね?なにがそんなにたのしいの?」
私の質問に、おばあちゃんは、さらに笑った
「あははははは!未来ちゃんは面白い事をいうねぇ」
「ねぇ!何がそんなにおかしいの!」
笑われたことに腹を立て、大声で私が怒鳴った
「ははは、ごめんね。」
おばあちゃんが私の頭をなでた
「人間はね、楽しい時も笑うけど、悲しい事や、辛いことがあった時ほど笑うんだよ」
おばあちゃんはそういったが、私には理解できなかった
「うそだ!だって、私、悲しい時は泣くってことくらい知ってるもん!」
いくら小学生の私でも、それくらいは知っている
「そうだねぇ。泣くことも必要かもしれないねぇ。でもね、最後には笑うんだ。そうしないといつまでたっても、前に進めないからねぇ」
「前?」
おばあちゃんの言っていることがよくわからない
「そう、前。未来(みらい)ともいうのかもしれないねぇ。泣いているばかりじゃ、何も解決しないの。笑って、前に進まなきゃね」
その時の私には、完璧には理解できなかった
でも、なぜか、おばあちゃんが正しい……そんな気もした
そして月日が流れ、私が大学生になった年、遠くの大学に通うため1人暮らしをすることになった
「おばあちゃん、行ってきます。夏休みには帰ってくるから」
私は荷物を持って、おばあちゃんに小さく手を振った
「いってらっしゃい。笑顔を絶やさずに頑張るんだよ!」
おばあちゃんは、そういって、私の背中をぱんっと叩いた
私はおばあちゃんに後押しされ、歩きだす
振り返ると遠くに小さくなったおばあちゃんが手を振っている
私は泣きだしそうになったが、ついさっき、「笑顔を絶やさず」って言われたばかりなので、必死で我慢して、前に歩きだした
いざ、大学生活が始まると、忙しい毎日だった
1人暮らしにもなれていないというのもあったが、知らない街で暮らすというのが私にとっては、なかなか大変だった
それでも、大学で友達ができて、アルバイトなんかもして、食費くらいはなんとかできるようになったころ……
気がつくとと夏休みまで、あと少しというところまで来ていた
もうすぐ、おばあちゃんに会える
御土産は何にしようと、良い歳ながら、夏休みが待ち切れなかった
そんなある日、私の携帯が鳴った
電話の相手は母だった
「未来……落ち着いてきいてね……あのね……」
『おばあちゃんが……亡くなったって……』
母の言葉をきいた私は手から携帯をすべりおとしてしまった
雨にも負けず、風になりたい【前編】
しるる、第七作目のテキストは、前後編のショートストーリー
題材は、こまにさんに作ってもらった曲で、私が歌詞をつけさせていただいた、同名の曲から
しるるフィルターを再度、通して、テキストとなった結果がこの作品
こまにさん http://piapro.jp/comani
同名の曲 http://piapro.jp/t/-pRD
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イズミ草
ご意見・ご感想
わああ……私が好きな感じの奴だ……
おばあちゃん……
たぶん、後編で泣きます。
2012/12/26 20:23:40
しるる
好きな感じのやつかぁw
私も、こういうのをもっと書きたい
2012/12/29 07:27:31