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2.初音ミクの生徒会―野菜ジュース


 溜息の三重奏。
 放課後の生徒会室。机にへばりつく二つの影と、椅子にもたれかかる一つの影。

「疲れたよぉぉ」

 情けない声を出し、グリグリと机に額を擦りつけるのは、今年度生徒会長、初音ミク。

「休憩にしましょう。カイト、ジュース買って来なさい」
「え、俺?」

 落ちてきたピンクの髪を掻きあげて、斜め向かい、生徒会長の隣に座る男子生徒にそう言いつけるのは、生徒会会計・書記の巡音ルカ。
 一方、名指しされたのは、青い短髪の人の好さそうな顔した生徒会副会長、始音カイトだ。

「そう。ホラ、行って。お金はあなた持ちね」
「えぇ! 何で!?」
「いいから早くしなさい」
「ちょ、今月小遣いがピンチなんだけど……!」
「あら、今月が始まって一週間しか経っていないのにお気の毒様ね。じゃあ、行ってらっしゃい」
「ああ! そんな殺生なっ!」

 嘆くカイトを構うことなく外に放り出し、自分の席に戻って来て頬杖をついて、溜息を一つ。

「それにしても、本当に忙しいわね」
「だね」

 向かいで、生徒会長が同意を示す。

「まだ今年度も始まったばかりなのに、一年の活動計画表に、各委員会の委員長選抜。部活動の活動費の割り当て案に、毎月のボランティア活動の呼び掛けと実施計画の作成。入学式が終わったばかりなのに、ハードだよねぇ……」

 はふ、と息を吐いて、上げていた頭がまたまた机に逆戻り。
 ミクが挙げた仕事内容に、ルカはうんざり顔で窓の外を見やった。

「生徒会役員三人ってキツイわね。早いとこ、手伝い役員を入れた方がいいわ」
「はぇ?」

 柔らかい頬をべったりと机にくっつけていたミクが顔を上げる。一緒に引っ付いて来た紙が、パサリと軽い音を立てて床に落ちる。

「何よ」

 ルカが問う。

「あのね、手伝い役員って何?」
「あら、知らないの?」

 こくり、頷いて答える。
 ルカは呆れ顔を張り付けて、

「あなた、まさか生徒会が三人だけ、なんて思ってないわよね?」
「違うの?」
「違うわよ。前の生徒会、何人居たかも忘れたのかしら?」

 そういえば、とミクは指を顎に添える。
 ミクたちの生徒会へ引き継ぎを行った前生徒会は五人居た。しかもそのうちの一人は、今目の前に居るルカだ。しかし、ルカは前生徒会において生徒会長でも会計・書記でも、副会長でもなかった。

「ルカは、前生徒会では、その手伝い役員っていうのをやっていたの?」
「ええ。全校生徒の投票で選ばれる生徒会三役に、立候補か生徒会が選抜するかで先に選ばれた三役の仕事を手伝う役員―――庶務、というのだけれど、それを二人加えて“生徒会”なのよ」
「ほえ~。そうなんだ。ルカは立候補したの?」
「いいえ。選抜よ」

 ルカは、二年生の間常に成績はトップをキープしていた優等生。帰国子女ということもあって、彼女は先輩にも後輩にも名が知れていた。生徒会が彼女を選ぶというのも分かる。むしろ当然とも言えた。

「やっぱスゴイねぇ、ルカは」
「それはどうも」

 聞き慣れているとでも言うように、ルカは頬の一つも赤らめることなくミクの賛辞を受け止める。そんな彼女に、ミクは「えへへ」と嬉しそうに笑った。

「ただいまぁ」

 そこに、フラリと帰って来たのは、ジュースを買いに出ていたカイトだった。

「何がいいかわからなかったから、適当に買ってきたよ」
「わぁ、ありがとう!」
「御苦労さま」

 ゴトン、ゴトン、と缶ジュースを三つ並べる。
 リンゴジュースとミルクティ。そして、もう一つの缶を白く小さな手が掴み、

「はい!」

 カイトに差し出す。

「あ、え?」

 戸惑いがちに受け取ったカイト。その手に収まる缶には、緑やオレンジ、赤と色鮮やかな印刷が施されている。刻まれた名を読み上げると、

「野菜ジュース……」
「好きでしょ? 野菜ジュース」

 どこからやって来るのか、その自信。
 小指の先ほども疑問に思うことなく言い切るミク。彼女の手には、すでにリンゴジュースが収まっている。

「えー……っと……。正直、嫌いでもないけどそこまで好きってわけでもないっていうか……」
「好きでしょ?」

 いや、だから、と言い募ろうとするカイトを遮って、

「決めた! 今度から、好きなもののところに野菜ジュースって書いて。ね、いいでしょ?」

 その顔は電話を発明したエジソンにすら勝る輝きを放っていた。
 キラキラと純粋な眼差しを向けてくる上司であり後輩である彼女に、「NO」という勇気を、青い彼は持っていなかった。

「うん、そうだね。とてもいいと思うよ。うん、ホント。俺、野菜ジュース大好き」

 少し遠い目をするカイトを放って、ミクとルカ、二人の手元でプシュっと軽い音が鳴る。




 それから二日後。
 生徒会庶務を募集するポスターを貼った翌日。
 早速生徒会庶務に立候補して来たのは、真新しい制服に身を包んだ一年生。それも、性別こそ違えどそっくりな顔立ちをした二人に、ミクは大きな目をパチクリと瞬かせた。
 自己紹介の時に、カイトは言う。


「好きなものは野菜ジュースです」




※イメージ:作詞・作曲ラマーズP様 「ぽっぴっぽー」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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初音ミクの生徒会 2.野菜ジュース

初音ミクをはじめとするボーカロイドたちが生徒会として高校生活を送るパラレル小説第2話です。※名前を変えました。作者名を記入の際は現在の名前でお願いします。

閲覧数:311

投稿日:2010/06/24 18:13:14

文字数:2,209文字

カテゴリ:小説

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