むかしむかし、森と平野の間にある小さな村に、綺麗な声で歌うぜんまい仕掛けの女の子が住んでいました。
 女の子は見た目だと普通の少女なのですが、白い肌の背中には大きなネジ巻きをさすための大きな穴が開いていました。女の子は一日に1回ネジを巻かないと、歌をやめて止まってしまうのです。
 女の子は、自分のカナリヤのような高いソプラノの声が好きでした。なぜなら、皆が女の子の歌声で笑顔になってくれるからです。女の子は毎日村の広場で歌を歌い、村人を楽しませていました。その時は女の子にとっても至福の時でした。


村人は、機械できた女の子が壊れてしまわないようにと、女の子が歌わない時は部屋に入れて大切に女の子を護っていました。女の子は普通の『女の子』のように扱われないことを不思議に思うこともなく、幸せに過ごしていました。


 或る日の朝、小さな村に、一人の旅人がやってきました。
 旅人は首に青い布を巻いた、まだ若そうな青年でした。世界中を歩いて旅している旅人は、色々な町や国を見てまわるのが大好きなのでした。そして小さな村の近くにある海辺の国で、ぜんまい仕掛けの女の子の話を聞いて、その歌声を聴こうとはるばるやってきたのです。
 その話を聞いた村人は、喜んで女の子に会わせました。女の子はただでさえ歌う時以外に人と接することがないのに、初対面の旅人と会話するのでとてもドキドキしています。
 女の子を一目見た旅人は、一番初めにこう言いました。
「なんて綺麗な子なんだろう。草原の色をした髪、健康な身体、そして澄みきった空のような瞳。こんなに可愛いだなんて、誰か教えてくれたらよかったのに」


 それを聞いて、驚いたのは女の子です。なんせ皆、褒めてくれるのは歌声だけ。いつしか女の子は、歌うこと意外に自分には価値が無いとばかり思っていたのです。
 女の子は、この時から歌声以外の自分も好きになりました。そして、そのことに気が付かせてくれた旅人がもっと好きになりました。


 女の子は旅人の前で歌を歌いました。最後まで歌うと旅人は、「とても歌が上手だね」と笑顔で褒めてくれました。その笑顔を見て、女の子はさらに旅人が好きになりました。
 女の子は村人にお願いをして、ほんの少しだけ旅人とお話をしました。女の子は、歌を歌うと皆が喜んでくれること、そしてその笑顔がなによりも一番大好きなのだと旅人に話しました。このことは、村人にもしたことが無い話でした。
 旅人は女の子が慣れない会話のためたどたどしく話している間、優しい面持ちで頷いていました。女の子が話し終わると穏やかな笑みを浮かべて、「君の歌はすごいね。それに、君は綺麗な心を持っているんだね」と頭を撫でてくれました。そして旅人は、旅をしてきた色々な町や国の話を女の子にしてくれました。女の子は、ますます旅人が好きになるばかり。

 いつしか女の子は、旅人と一緒に旅をしたいと思うようになりました。


 日もすっかり落ちた夕方、女の子は部屋へと案内する村長に、思い切って胸の内を明かし
ました。もちろん、繊細な機械でできている彼女には無理な事だと女の子にも分かっていました。でも、女の子はそれを言わないと胸がむずむずして仕方が無かったのです。
 それを聞いた村長は、激しく怒り狂いました。そして、恐ろしい勘違いをしてしまったのです。
「女の子はあの男に懐柔された。あの男は、我々から女の子を奪い取る気なのだ」
 女の子は顔を真っ青にして、そういう事で言ったのではないと、もうそんな事は言わないから許してほしいと、何度も何度も村長に謝りました。しかし、村長は聞いてくれません。
 そして村長の命令で、旅人は村人の手で引き渡されました。旅人は逃げられないように、ロープでぐるぐる巻きにされています。
「何か言い残すことはないか」と、村長は言いました。
その言葉で全てを察した旅人は、それでも穏やかな笑みで、村長の後ろでカタカタ震える女の子に言いました。
「君のせいじゃないから、君は君が望む世界で生きなさい」
 旅人の胸に刀が刺さり、旅人の胸を真っ赤に染めました。


 それから数日後、女の子は海辺の国に向かう道の端に座って、いつも通り歌っていました。ただいつもと違い、今日は歌を聴いてくれる人はいません。それでも女の子は楽しそうに歌っています。
 女の子は、旅人が話してくれた町や国を見てまわる事に決めました。町や国のあちこちで大好きな歌を歌って、たまに町行く人にネジを巻いてもらって、旅人が好きだと言っていた世界を見て生きていくのです。
 もう動かなくなった身体で、女の子はそう夢見て歌っていました。
 地平線から注がれる太陽の赤い明かりが、冷えてしまった女の子の身体を温めます。女の子は、とてもぽかぽかとした暖かい気持ちで綺麗に歌を歌っています。するとあまりに暖かいせいでしょうか、女の子は眠たくなってきました。
 女の子が眠気に負けてまぶたを閉じた瞬間、たくさんの知らない人々と青い布を巻いた旅人が、拍手をして喜ぶ姿が見えました。
 そして、歌声は聞こえなくなりました。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

夢見る女の子の話

 初めての方も顔見知りの方のこんにちは。
 参加しているコラボに出させていただいた作品です。
 お題が『二千文字に挑戦』ということで・・・。とても短い仕上がりになりました。話が鬱鬱としている気がします。
 今回は短編で、若干分かりづらいところがあればご一報ください。もちろん「ここが良かったよ」や「全然駄目だね」といった感想も書いてくれば嬉しいです。
 読んでいただき、ありがとうございました。

『小説家同士の技術レベル向上のためのコラボ(実力者用)』http://piapro.jp/collabo/?view=collabo&id=11640

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閲覧数:575

投稿日:2009/08/11 10:35:39

文字数:2,115文字

カテゴリ:小説

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  • 秋徒

    秋徒

    その他

    時給さんへ
     こんにちは。読んでくださって嬉しいです。あと、カイトのやつの続きじゃなくてすみません; 続きは少々お待ちください;;
     本当は旅人と女の子が一緒に村を出て、楽しく旅をする話を書こうと思っていました。思っていたのですが・・・深夜のテンションと両手がえらい展開に捻じ曲げていました。世の中恐ろしいものです。
     ネジを巻きに行ってくれるとは、時給さんの優しさに感服しました。その時は私もお供いたします! 『え、受験は?』とかは訊いてやらないで下さい!←
     読んでいただきありがとうございます。
     
     

    2009/08/14 15:09:23

  • 時給310円

    時給310円

    ご意見・ご感想

    こんにちは、時給です。コラボ要員じゃありませんが、読ませて頂きましたのでコメントをば。
    いつもの作風とは一線を画して、おとぎ話風に仕上がってますね。起承転結が綺麗にまとまっていて、とても読みやすかったです。
    内容は……これは何と言えば良いのか、悲しいけどすごく綺麗なお話だと思いました。村長や村人への恨み言を言い出せばいくらでも言えそうな気がしますが、そんな毒吐くより女の子の純粋さや旅人の優しさに目を向けたい、と思わせるようなお話だったと思います。
    「夢見る女の子のお話」、何ともメルヘンチックな可愛らしいタイトルだと思ってたら、その夢というのがこんなに切ないものだったとは・・・。もし行けるものなら、例え場所が地球の裏側であろうと、今すぐネジ巻きに行きますよ、俺が! ←困ったことに本気
    心のこもった良いお話でした、ありがとうございました。

    2009/08/13 18:42:17

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