[5月28日(土) 夜 俺サイド]
俺は風呂に入りながら妹のことを考えていた。
よく考えると以前に会ったのは桃の節句の日。すなわち二カ月以上会ってなかったわけだ。
今までのブラコン度合いからして、二か月は相当辛かったに違いない。
モモのこともあってなるべく遠ざけようとしたが、あれでも一応俺の妹だしな。
明日は日曜だし、なんかしてやってもいいかな。
そ-いやあいつ、彼氏とか作んねーのかな。
いや俺も人のこと言えない気がするけどよ。
学校での様子を見てみたい気はするが……学校では完璧人間だろうな。俺と違って。
だとしたら。
そんな毎日をあいつは独りで過ごしているとしたら。
それはきっと少なからず、いやかなりの孤独を感じているだろう。
ブラコンなのは、一種それの表れなんだろ。
……って、「明日なんかしてやろう」っていう俺もシスコンだな、おい。
******
俺「あがったぞ。早く入ってしまってくれ。お前長いだろ。」
リ「はーい。あ、お兄ちゃん。」
俺「ん?何だ?」
リ「……覗かないでね?」
俺「誰が覗くか!」
モ「大丈夫です。マスターは全力で抑えますから。」
おー怖い。この性格って相当だな。ベッドの下の本捨てといて正解だったぜ。
俺「あ、ちょっと待て。」
リ「なーに?」
俺「どうせ明日暇だろ?外出ねーか?」
リ「ホント?約束だかんね?いやーん、もっとおしゃれな服もってくればよかった~?」
大はしゃぎで風呂へ向かった。単純でよかったよ。
とか考えてたら、後ろから声をかけられた。
モ「マスターって、実は妹さん思いなんですね。」
俺「…うっせえ。あいつには黙っとけよ、その言葉(ワード)」
[5月28日(土) モモサイド]
リ「あれ、お兄ちゃん寝ちゃったか。」
モ「明日のために力を蓄えとく、だそうです。」
リ「そっか。あ、そだ。私なんかのために豪華な夕食にしてくれてありがとうね。」
モ「豪華って、ハンバーグを作っただけですよ。」
リ「他にも色々あったじゃん。ま、それは置いといて、家で作ってくれたってことを言ってるの。お兄ちゃんも手伝ったんでしょ?」
モ「ええ、思ったより包丁の扱いが上手でした。」
リ「今までは私が来たら大抵外食だったの。お兄ちゃんが料理してくれるのって何カ月ぶりかなあ。」
ズボラな性格なのはここ一週間でつかみました。
でも、私が知らない間に棚が整理されていたり、このように料理ができたり。実は生活に困ってない。
ならば、私は何のために生まれたのでしょう。
……と思っていると。
リ「何でお兄ちゃんはお姉ちゃんみたいなメイドロボを造ったんだろうね。」
モ「!!??」
リ「あ、ごめん。本人にそういうこと言うもんじゃないね。」
モ「い、いえ。大丈夫です。」
リ「でもいいよな、お兄ちゃんは。独りじゃなくなったんだから。」
モ「一人じゃなくなった?」
リ「違う違う。独り。お兄ちゃんはあー見えて寂しがり屋さんだからね。」
モ「それは、妹だからわかること、なんでしょうか。」
リ「たぶんそう。私もそーだから。離れてても血は同じ。私が露骨にそれを表してるだけ。あーしかできないってのが本音だけどね。」
マスターは寂しがり屋。なんだか意外。
それなのに、私は冷たく接してきた。私は機械。与えられた性格・常識だけで物事を判断する。
そこへ「感情」は介入してはこない。
モ「では、リンさんは…」
リ「二人っきりでも『さん』はヤダ。『ちゃん』がいい。それと敬語もいらないよ。」
女の子は呼び方にもこだわるんですね。
モ「失礼し……ごめんなさい。リンちゃんは家では独りなんですか?」
リ「もっぱらそうだね。親は共働きだし、祝日とか長期休暇のときは大抵独り。」
モ「やはり、それは辛いことですか?」
リ「辛いってゆーか、こう、むなしくなる。一人でいてもすることなんて限られてくるでしょ?ゲームとかパソコンとか、たまには勉強もする。けど結局飽きて、することがなくなっちゃう。加えてやる気もなくなっちゃう。」
モ「どうしてですか?」
リ「どうして…っていうと難しいな。『私何してんだろーなー』って感じ。ぼーっとして何も考えられなくなるの。」
モ「すみません。私はロボですから、あまり理解できません。」
リ「そのうち分かるよ。いくらロボットって言っても、人間のような過ごし方をしていれば、そのうち分かるようになるって。」
モ「そういうものなのでしょうか?」
リ「そういうもの。だって赤ちゃんは『楽しい』か『辛い』かの感情しか持てないけど、私は違うでしょ?」
モ「そう…ですね。努力してみましょう。」
リ「応援するよ♪」
感情、か。感情が素直に(プログラム通りでなく)表せるようになったら、マスターと同様の生活ができるようになるのでしょうか。
リ「恋に落ちたりしてw」
モ「こ、恋?」
リ「だって一つ屋根の下だよ?何が起こっても不思議じゃないよ。」
モ「そ、それはそうですが……」
リ「まずは人を『好き』になってみようか。」
モ「『好き』?」
リ「何でもかんでも、自分の気にいったものは好きだ、と思ってみるの。そしたら、そのうち『好き』と『恋』との境界が分かってくるよ。」
モ「リンちゃんはお兄ちゃんのこと好きですか?」
リ「もちろん☆でもあれだよ?カップルみたいな『好き』じゃなくて、兄妹としての『好き』かな?」
モ「違うんですか?」
リ「あんまり変わらないケドね。お兄ちゃんはどう思ってるか知らないけど。うぁ、でもお兄ちゃんてば突然私をデートに誘うなんて、いつの間に大胆になったんだろ?」
モ「デート、ってあのカップルがするというあれですよね。」
リ「言葉のあやだよ。私が好きでこういう言い方をしてるだけ。」
人ってよくこういう言い方で誤解が生じませんね。マスターも冷静でしたし。
リ「それでさ、明日の朝、一緒にお弁当作ってくれない?私、料理下手で。」
モ「構いませんよ。これでお互い、教え合うことができましたね。」
リ「いえいえこちらこそ。でもお兄ちゃんの一番は私だから。」
リンちゃんはマスターに一途みたいですね。これが『好き』なのでしょうか。
私にはまだ判りません。
でも。
リンちゃんの言うことが正しければ、私はいずれ人のような心を手に入れます。
そうなったとき。
マスターはどう思うのでしょうか。
リ「わー!!もうこんな時間!明日朝早くからお弁当作りたいのに!」
モ「起こしてあげますよ。私も充電モードに入ります。」
リ「あ、このことはお兄ちゃんには秘密ね。」
モ「どうしてですか?」
リ「そっちの方が面白いから。」
やはりこのお二人は兄妹なのですね。お互いのことを知りながら、お互いに秘密を持つ。
私にもこういう人がいたらいいなあ。
リ「それじゃおやすみ。」
モ「はい。おやすみなさい。」
******
******
******
俺「……全部丸聞えだっての、バカ。」
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