クリプトンの暗部ともいえる、クリプトン・フューチャー・ウェポンズ。いわゆる兵器産業を専攻する子会社に、試作兵器実験部隊、なるものが存在する。
自社が独自開発した最新兵器類の性能を実証するため、各国の紛争地帯へ国籍を隠し秘密裏に入国し、紛争へ参戦することを目的とした、現時点では日本防衛軍を上回る戦闘能力を持つ部隊である。
主に、遺伝子操作で生産されたゲノム兵士、自社製戦闘用アンドロイドなどで構成されている。
初音ミクオ。彼は製造されると同時にそこに配備、そして同じく同時期に完成した巨大空中空母、ストラトスフィアへ実動部隊隊長として就任。
そして、当時日本に対して脅威であった隣国、興国の全軍事戦力を数日の内に葬り去った。とある計画の最終段階も兼ねて。
ここまでは全てが順調だった。
ストラトスフィアは着陸し、ミクオには試作兵器実験部隊隊長に昇任する、筈だった。
ウェポンズの上層部、それによって恩恵を受ける軍部は、既に達磨の両目に墨を入れた気分だっただろう。
しかし、反逆の狼煙は上がったのである。
彼、初音ミクオの手によって。
彼に何が起こったのかは明らかにされていないが、突然彼は反旗を翻した。
ストラトスフィアのクルーを全て殺害し、量産型アンドロイドの管制システムを奪い、我が物にした。
そして日本防衛空軍の興国へ対する最前線基地であり水面都の盾である、水面空軍基地を攻撃し、更に水面都へストラトスフィアを突入、自爆させる計画を企てた。
いち早くそれに気付いた水面基地は、全戦力を持ってこれを阻止しようとした。
結果は水面基地側の勝利に終わるが、基地の被害は甚大、ストラトスフィアは無事だったもののアンドロイド部隊は全滅した。
その中に、ミクオがいた。
驚異的な戦闘能力持っていた彼すらも例外ではなく、当時水面基地に所属していたアンドロイド、ソード5、いや、雑音ミクの手によって破壊された。
彼女自身の報告によると、彼は急所をそれたものの、その後自らの手によって自爆した。とのことだった。
そして、彼女は最後に付け加えた。
彼は、死を望んでいたと。
だが彼の頭部が無事だったため、後にクリプトンの手によって回収された。
そして現在に至ったのだろう。
尚、当時雑音ミクのほかに水面基地に所属していたアンドロイド三体も同じく破壊され、後に回収されたと風のうわさを耳にした。
謎なのは、その回収した人間が何者なのかということだ。
クリプトンの最深部のデータベースにも、その情報は存在しなかった。
情報が無ければ、それ以上の追求は不可能。
これは、時間と共に明らかになるものかもしれない。
あの反逆事件にしても、ミクオ自身にしても、その回収した何者についても、未だ解明されていない謎は複数存在する。
今は、現状みのを見つめるとしよう。
それが、「監視者」である俺の役目なのだから。
「♪~♪♪~~♪~~♪うん。ネル、いいセンスだ!」
「ホント?!」
ここは防音室。二人でユニットを組む彼女達の、言い方は気に食わないが調教の場である。
あの夜から一週間。一時はどうなるかと思ったが、どうやら二人の関係がこじれずに済んだことは不幸中の幸いだろう。
むしろ二人の絆は深まっており、何もかもが滞りなく進んだ。
今向こうして仲睦まじく活動に励んでいる。
逆に言えばネルが益々俺達の家に帰りづらくなった、ともいえるが、俺はもうネルを雑音さんに任せることに決めた。
今、俺の目の前で二人は作詞をしている。
基本的に作詞は俺の仕事なのだが、二人がどうしてもというので、彼女達のセンスに任せることにした。雑音さんのスケジュールは少しだけ削ってある。
ライブツアーから帰ってきたファーストシリーズは今しばらく休暇中であり、今は準備期間としてメディアに登場することは少ない。
既に発売したアルバムなどが、繋ぎ、となるだろう。
いずれにしろこの二人が新たにユニットとして登場すれば、大きな反響を生むだろう。
ネルの人気が、これで戻ってくれれば・・・・・・。
「敏弘さん、できたぞ!」
雑音さんが俺にルーズリーフをよこした。
「どれどれ・・・・・・。」
そこには、彼女達が苦心して書いた、二人にぴったりな歌詞が綴られていた。
「凄いじゃないですか!」
俺は驚きの余り声を上げた。
それほどに感動を受ける内容だからだ。
「ネルもがんばったんだ。」
「ですよね。」
ネルを見ると、恥ずかしがったのか、視線が合った途端にそらしてしまった。
「では、すぐに作曲に取り掛かります。ジャンルなどはどうします?」
「わたしも行く。」
「あたしも。」
以外に、ネルも乗り気のようだ。
「それでは、作曲室に行きましょう。」
俺とネルと雑音さんは、揃って防音室を後にした。
向かうは作曲室。
曲が完成し、二人がそれをデュエットすることを想像するとプロデューサーとしても腕が鳴るというものだ。
俺達はこの通り順風満帆の調子であるが、気に掛かることが無いわけではない。
あの夜から、初音ミクオと雑音ミクが接触しないよう、俺は注意を払うようになった。
同じ職場であるからにはそれは不可能と思っていたが、明介の協力もあり、どうにか接触することは無かった。
それだけではなく、今の俺は雑音さんとネルに付きっ切りのため、ハク、アカイト、カイコ達は明介に頼んであるということ。
しかも、俺は、
何故だか明介が信用できなくなっていた。
同じ「監視者」でありながら・・・・・・。
このごろ鈴木君が職場に顔を出さない。
上司や同僚に訊いても、分からない、と言う。
噂では上層部に呼び出されたと耳にしたことがあったけど、僕は自分の仕事で大忙しで、それを確認する術はなかった。
今はもう、皆が先に帰ってしまった勤務時間外。
またもや僕は、暗い研究室の中で、一人仕事に没頭していた・・・・・・。
そのとき、研究室の入り口のドアが開く音がした。
振り返ると、そこにはここ数日僕の前に姿を見せなかった、鈴木流史君の姿があった。
「博貴さん・・・・・・また遅くまで残業ですか。」
僕は彼の名を呼ぼうとしたが、一瞬その言葉を喉に滞らせた。
彼の姿は、最後に見たときと間違いなくやせ衰えていたのだ。
頬が扱けており、髭も剃っていないようだ。
「や・・・・・・やぁ、鈴木君。久しぶりだね。今までどうしていたんだい。」
動揺こそ隠せないが、なんとか訪ねることはできた。
彼は疲れきった様子で口を開いた。
「いえ・・・ちょっと、地下のほうへ・・・・・・。」
「地下?!」
その言葉に、僕は驚きを隠せなかった。
僕が今いるのは、クリプトンタワー十階の特殊研究室。そこにはクリプトン・フューチャー・ホームズという子会社が丸々入っている。僕はここで新製品等の開発、研究を行っている。
ここの構造はあらかた理解しているつもりだが、地下は言ったことがない。 地下と言う場所が存在することさえ、確かな証拠は何所にも無いのだ。
僕の同僚も全く知らないと言っている。
無論、そこが何のためにあり、何が行われているかも。
「地下へ行ってきたのかい?一体、何をしに?」
「残念ですが、それは・・・・・・。」
彼は顔を背けた。
「そうか・・・何があったかは知らないけど、やりすぎは体に触るよ。」
「そう・・・・・・ですよね。あはは・・・・・・。」
その笑顔は、疲労の中に造ったものだった。
「だいぶ疲れているね・・・・・・座りなよ。」
僕は彼に椅子を差し出した。
彼は倒れるようにどっかりと腰を下ろした、
「地下に言ってきたって言うけど・・・・・・誰の命令なの?まさか部長?」
僕は笑顔交じりに尋ねたが、彼はそれどころではないと言ったように首をたれている。
「いえ・・・・・・それも・・・・・・ちょっと・・・・・・。」
「そうか・・・・・・何か知らないけど、でも、それはよっぽど君が信頼されてるって事だよ。」
「・・・・・・。」
彼は答えない。
体よりも、精神的に疲れているように見える。
「博貴さん・・・・・・。」
「ん?」
「あなたにもいずれ地下に来てもらいます。」
「え・・・・・・?」
今度は、驚愕だった。
「僕が今、地下で行っていることは、まだ多くは言えませんが、軍事関連です。」
その言葉に、一瞬背筋が固まった。
「軍事関連と言うと・・・・・・まさか、ウェポンズかい?!」
「はい・・・・・・。」
彼は首を縦に振った。
「で、何をやっているんだい。そこで・・・・・・。」
「直に、博貴先輩も・・・・・・。」
彼がそれ以上語る様子は見られない。
「あ、そろそろ僕、失礼しますね。戻らないと・・・・・・失礼しました。」
彼は椅子から立ち上がると、弱々しく立ち上がった。
「また、地下へいくのかい?」
「・・・・・・はい。」
「無理しないでね。」
「・・・・・・有難うございます。」
彼は背中で僕の言葉を受け止め、そのまま研究室から出て行った。
彼が残していった言葉が気になって仕方が無い。
彼が地下に行っていること、そして、そこで軍事関連の何かを行っていること。
そして、僕が近いうちに、それに加わると言うこと。
軍。それだけで、恐怖を感じる。
今の軍は何をするか分からない。
ウェポンズは、まさにクリプトンの暗部であり、極めて危険なことを平気で実行してしまう。政府の力を借りてさえ。
それは、過去に思う存分思い知った。
そんなものに、僕は再び協力すると言うのか。
背中に寒気を感じ、体が震えた。
僕は、彼の居た空間に、何か悪寒のようなものを感じていた・・・・・・。
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想