「ただいま~」


そう言いながら、玄関で靴を脱いだ。

二、三歩部屋に入った所で奥の方から、とたとたと小さな足音が近づいてくる。


「マスター、おかえりなさい♪」


その言葉と共に現れ飛び付こうとする小さな少年の行動を、彼の頭を抑える事で阻止した。


「今は汚れてるから、やめとこうね?レン」


仕事から帰宅したばかりな為、今の格好は汚れている作業着を着けたままだ。

このまま飛び付かれたら、レンにまで汚れが付いてしまう。

不満そうな顔ではあったが、レンはこちらの言葉に従ってくれた。

ふと視線が一点を指したのに気付き、聞かれる前に先に答えた。


「ああ、これ?ちょっと切っちゃって」


言いながら、ティッシュペーパーで包んだ人差し指を示す。


「け、怪我したの?痛いの?」


あぁ…やっぱりね。

そんな顔をされたくないから、ホントは気付かれたくなかったんけどなぁ…。


「大丈夫。手は洗って殺菌したし、唾でもつけときゃ治るよ」


指に巻いてたティッシュペーパーを取りながら、そう言った。

すぐに傷口からは血がじわじわと溢れ、小さな血溜まりができる。

傷が出来て時間がまだ浅い為か、まだ血は止まってないらしい。


「唾つけたら治るの?じゃあつける!」

「え?」


レンは腕を自分の方に引っ張っり、怪我した指をくわえた。


「ちょっ、レンっ…!?」


レンは口の中で唾を付けようとして、舌で傷口を舐めている。

気遣ってくれてるようで、俺が痛がらないよう舌使いは静かなものだった。

痛くはないけど、傷口に舌が触れるたびに指にチリチリとした刺激が走る。

一生懸命に指を舐めるレンに、心配されてるという嬉しさを覚える反面、どこか背徳感が胸にささる。


(流石に、ちょっとこれは…!)


何だか色々と危ない気がしてきて「もういいよ」と言いかけたが、レンは何を思ったのか口を大きく開けた。

言葉を遮られ油断していた次の瞬間、レンは先程までくわえていた指を力一杯吸った。


「…ーーー~っ?!」


指に走った激痛に、声にならない叫びをあげた。











「…レン、何故そんな思い切り吸ったん?」


前屈みで痛みに体を震わせながら、弱々しく質問した。


「ご、ごめんなさい…。血が全然止まらなかったら、吸ったら止まるかなって思って…。そ、それで勢い余って…」


そう言ったレンを見れば、今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「あ…いや、別に責めてる訳じゃないよ」


考えややり方はあれではあるが、気持ちが嬉しかったんだ。


「もう大丈夫だから、絆創膏持ってきて欲しいな」


そうお願いすると、レンは「分かった!」と言って部屋に取りに行った。

なんとか気をそらせた事に、ホッとして胸を撫で下ろす。

直ぐに戻ってきたレンの手には絆創膏が握られていて、「ありがとう」と言って受け取る為に手を差し出した。

だがレンは絆創膏を渡してくれず両端に持ち直して、目で何かを訴えるかのようにこちらを見ている。

どうやら、貼ってくれるつもりらしい。

そんな姿に笑みを零し、怪我をしてる指を差し出してその申し出に甘んじた。

たどたどしい手つきで絆創膏を貼りそれを終えたレンの顔は、一仕事したあとのように満足気だった。

その顔に何だか可笑しくなって、ついつい笑ってしまう。


「もう痛くない?」


そう顔を覗き込んでくるレンは、自分が笑われている事には気付いていないようだ。


「うん、ありがとう。レン」


そう言ってあげれば、彼は満面の笑顔を見せてくれた。







(キミの笑顔が、一番良く効く薬なのかもね)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

怪我に効く治療法

過去の思い出を元に、色々飛躍し過ぎた…orz
暑さでぶっ壊れてただけです、うん←
しかも仕事中に何考えてんだよ、って話ですよ(・ω・`)


昔指切った時に血が出て「唾を付けたら治る」って話を従兄弟にして、「治るの?」って聞くから「舐めてくれる?」って冗談で言ったんですよ。
嫌がる反応を期待してたのに何を思ったのかこの従兄弟、突然指をくわえて手加減なしに吸いやがりまして………ホント痛かった(゜_゜川;)

本人には悪気が無かったから、怒ることはありませんでしたが…未だにあの時の行動は謎です(・_・;)


で、出来たのがこれ…もう何も言うまい(ぇ


追伸
どなたか指を舐めてるレンくんのイラスト、書きませんか?(・ω・`)

閲覧数:433

投稿日:2010/08/01 18:20:40

文字数:1,543文字

カテゴリ:小説

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