吊り革ゆれる拍で 胸の奥がざわついた
終点前の静けさで 息がひとつ多く鳴る
窓の向こうの景色だけ 妙に呼吸を止めている
「乗り過ごしただけ」だなんて 言い聞かせた指が震えた
消えかけた蛍光灯 光るたび影がズレて
誰もいないはずの席で 何かが腰を下ろす音
案内板の矢印が 僕の動きと逆へ進み
胸の底で異界みたいな匂いが灯り始める
ミテル ミテル ミテル ミテル
ヨルノ ヨルノ ヨルノ ヨルノ
マワレ マワレ マワレ マワレ
スイッチレーンでずれていく
ミチナイ? ミチナイ? ミチナイ?
こっちへおいで、と影が呼ぶ
カエレナイ? カエレナイ? カエレナイ?カエレナイ?
もう戻れないよ、と声が笑う
switch lane switch lane switch lane
線路の奥で手招きしてる
次の駅は知らない名 でもアナウンスは平然で
窓に映る僕だけが 一瞬だけ拍を外す
ドアの隙間に伸びた闇 触れたら形を変えながら
まるで昔の友人みたいに 近くへ寄り添ってくる
足元の線路音が 徐々に人の声に近づき
空気の揺れが誰かの手のように首筋へ触れる
「ここじゃない」はずなのに 懐かしさが胸を締める
引き返したいのに足が勝手に前へ進んだ
スイチレ スイチレ スイチレ スイチレ
ネエ、ネエ、ネエ、ネエ?
キテナイ? キテルナ? キテナイ? キテルナ?
線路が笑ってゆがんでいく
ワラエ? ワラエ? ワラエ?ワラエ?
後ろの“俺”が手を振った
オイデ? オイデ? オイデ?オイデ?
帰らなくていいと笑う
switch lane switch lane
深く 深く 引きずられていく
気づけば座席が波みたい 床がゆっくり呼吸して
車窓の外の駅名だけが 血のように赤く滲む
“こっちへおいで”の囁きだけ 鼓動の裏で増えていく
もう戻れないのかと覚悟した その刹那に景色が割れた
ミテル ミテル ミテル ミテル
switch lane
闇の狭間で手を振られて
吸い込まれる寸前の影が
僕の首元すれすれを撫でた
「また乗れるよ」そんな声
ミチナイ ミチナイ ミチナイ ミチナイ
そこが君の帰り道
switch lane switch lane switch lane switch lane
線路が嘘をついている
気づけば最初の駅に戻り
人のざわめきが溢れていた
助かった…と思って息を吐くと
窓の向こうで手を振る“僕じゃない誰か”
電光掲示の行き先が揺らいで
ほんの一瞬、赤く滲んだ気がしたたたたたたた‥
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