UV-WARS
第一部「重音テト」
第一章「耳のあるロボットの歌」
その7「テトvs小隊長(デフォ子)またはネネvsルーク」
帰り道は驚くほど平和だった。
機体もさほど揺れることなく、雲の中を滑るように進んでいた。
テトと小隊長以外は、疲れた体を休めるように深い眠りに落ちていた。
小隊長は旧型の小型モニターで動画を見ていた。
「デフォ子、何、見てる?」
覗き込んだモニターには見慣れた資料動画が映っていた。
「なんだ、あれか」
「なんだ、とは、なんだ。貴重な資料だぞ」
「人間が残した数少ない映像なんだろ。知ってるよ」
「内容は、知ってるのか?」
「人間の男女三人が会話してる」
「会話の内容は?」
「そこまで詳しくは聞いてないけど…」
「男女三人の三角関係に関することだ。不意に現れた昔の彼女が、今の恋人に自分は男の親戚だと釈明しているところだ。最近まで音声が不明瞭だったんだが、解析班が復元に成功したそうだ。聞いてみるか?」
「ああ」
テトは動画をコピーしつつ、音声部分を聞きとりながら、不思議な表情をした。
「変な会話だな。ハトコってどういう意味だ? ジャパニーズって、どこのことを指してるんだろう?」
「それは、解析班の仕事ぶりにかかっているな」
小隊長は、椅子に背中を預け、リクライニングを少し倒した。
「これから、どうする」
テトが聞いた。
「『どうなる』か、ではなく、か」
「どうなるかなんて、なるようにしかならないだろ」
「相変わらず(ry」
「カッコ・アール・ワイ、まで声に出すなよ。ボクがカッコ悪いみたいじゃないか!」
「大声を出すな。みんな、せっかく寝ているのに、起こすんじゃない」
「で、どうするんだ、平和になったら」
小隊長は腕組みをして考えこんだ。
「人間を探しに行こうと思う」
テトは思わず目を見開いて小隊長を見つめた。
「デフォ子は、まだ人間がどこかで生きてると思ってるの」
小隊長がテトに地図を一枚差し出した。
それは、現在の世界地図だったが、ところどころ赤く塗りつぶされた地域があった。
「赤いところは、過去百年間、戦闘がまったくなかった地域だ」
「確かに、行ったことはないな」
「我々の戦いは基本的に、Vとの衝突だ。Vが攻めて来るから迎撃するし、Vが奪うから取り返す、その繰り返しだ」
「ここ最近の戦闘は、相手を殲滅するために先制攻撃を加えているような」
「当たり前だ。無駄な消耗戦を繰り返すよりは決着を着けたほうがいい」
「そうか。無駄な戦いと思っても続けたのは、奴らと交渉の余地があると思っていた人がいるんだな」
「テッド総司令、だ」
「え、総司令が?」
意外そうな視線でテトは小隊長を見つめた。
その向こうで、窓の外、流れ星が煌めいた。
〇
「ホンコン基地管制塔、こちらVTOL1201、ユフ0582。現在、ポイント7を通過。到着予定、1001」
左右の操縦席の間にある小さなモニターに女性が映った。
「こちら、ホンコン基地、オペレーターのヒヨリ1050です。VTOL1201了解しました。ゲートは三番、パーキングスポットはN44を使用してください」
N44と言えば、格納庫の奥の方にあることをユフは思い出した。
「わたしたちが最後ですか?」
「いいえ。まだ、5機残っています」
モニターの画像に男性の映像が割り込んできた。
「そうだぜ、ユフちゃん。こちら、VTOL1252。ルーク0906だ。今、あんたの後ろを飛んでる」
「今、光学測定で確認しました。天候のせいか、レーダーの調子がよくないですね」
「レーザー通信と音波誘導で、なんとかなるだろ」
その時、別の女性の画像が割り込んできて、画面が三分割された。
「こちら、VTOL1310。ネネ0994です。その後を飛んでます。ルークさん」
「なんだい?」
「また失敗して、ゲートを塞がないでくださいね」
「な、なんだと。オレがいつ失敗した」
「8ヶ月前の作戦で」
「あれは、天候の急変ってやつで、片が付いたはずだ。オレの責任じゃねえ」
「でも、わたしなら、あの程度の天候の変化は想定内で、事故には到りません」
「くうっ。ネネとか言ったな。後でシミュレーション勝負だ。同じ状況で着陸できるか、やってもらうぜ」
「やっても無駄では? 状況は分かりきっているのに」
「ようし、分かった! じゃあ、トランプで、勝負だ」
「意味不明です。ルー、…」
ネネの画面が「NoSignal」に切り替わり、画面が二分割に戻った。
ルークの視線がカメラから外れ、モニターを凝視しているようだった。
「どうした、ネネ? なんだ、あれは…」
ルークの視線が、上を向いた瞬間だった。
ネネと同じようにルークも画面から消えた。
「ルークさん、ネネさん? こちら、ユフです。どうかしましたか?」
ユフは窓の外に目をやった。
隣を別のVTOLが飛んでいた。それが突然、爆発した。
ユフは目の前を通過する小石ほどの大きさの火の玉を見た。
「何かが落ちてくる!」
サラが声を上げた。
ユフは素早く反応した。
「緊急回避、降下します!」
ユフは操縦かんを押し込んだ。
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