「がんばるね、ミク姉は」
ここは、カナデンジャーの秘密基地、通称『オクトパス』の中にあるトレーニングルーム。素手での戦いを得意とする初音ミクは、今日も欠かさずトレーニングに励んでいた。鏡音リンは、ミクに付き合って、トレーニングを行っていたが、ミクのペースに付いていけず椅子に座って見学をしていた。
シャドーボクシングの要領で、敵に囲まれたことを想定し、ミクは、リングの上で『戦い』を行っていた。
「やあ、えい!!」
正拳突きの後、体をひねって回し蹴りをし、今度は、裏拳を入れる。技の切れもスピードも申し分なかった。動きを止めると、ミクは休憩のためにリングから降りてきた。
「ミク姉、よくあれだけ動けるね」
ずいぶん前にギブアップしたリンがミクにスポーツドリンクを手渡した。
「まあね、メイコには負けられないし、私はルカみたいに、歌で人を癒したりはできないけど、ピアノやエレクトーンを演奏するのは好きだし」
「でも、ミク姉、この前、私に歌を披露してたじゃない」
「あれはあれ。とにかく、私はこの拳とピアノグローブで戦わなきゃいけないんだから」
すぐにベンチから立ち上がると、再びリングの上に立った。
「……ミク姉の体力に付いていけないなんて……」
そう言いつつも、「自分はまだ成長期だから」と心の中で言い訳をして、リンはリングの上のミクを見ていた。
「メイコ、やはり貴方の声が奪われた事が関係しているようです」
巡音ルカはここ数日、連続して起きていた歌手の誘拐事件について、調査を行っていた。その途中経過を咲音メイコと雅音カイト、弱音ハクに説明を行っていた。白衣を着たルカは、目撃情報や協力者からのレポートや声の分析などの資料をタブレット端末に表示して3人に見せていた。
「私の声を使って、狂音獣を作り出しているって……」
さすがにショックだったのか、メイコは肩を落とした。
「いいですか、これが、昨日現れた狂音獣の声です」
メイコはヘッドホンをしてその声を聞く。その表情は、みるみる暗くなってしまった。
「私の声によく似てる……でも、なんだかヘンだわ」
「まだ、完全じゃないみたいね」
カイトもその声を聴いたが、あまりのひどい声にヘッドホンを外してしまうくらいだった。
「…………あの、マッド・レコーダーが貴方から奪った声を、拉致した歌手の卵に植え付けて、狂音獣に仕立て上げているみたいです。いわば、貴方の分身と戦わなければならない……しかし、普通の人間に、貴方と同じソング・エナジーを植え付けたとしても、100%の力を出すことは難しいはずです。現にこの狂音獣はこの後、メイコの力に耐えられず、自爆しました」
「なら、そこまで心配する必要は」
「問題は、メイコの力が私達の中では一番強力である事です。メイコ以外のカナデンジャーのメンバーが束になって戦っても勝つことは難しいはずです。出来損ないでも、暴れたら手を付けられません」
ルカの説明に、カイトも顔をしかめた。
「でも、ミクはこれから鍛えれば必ずメイコに匹敵するくらいの力を引き出せるはずです」
「へぇ……あの子がね」
メイコは生意気な少女の顔を思い浮かべ、苦笑を浮かべた。
「……でも、俺達のソング・エナジーを結集すれば、何とかなるんじゃないのか」
「ええ。そこです」
ルカは後ろにいかにも作りかけとわかる巨大なバズーカを3人に見せた。
「……まだ、完成までには時間がかかりますが、一撃必殺の武器を作成中です。これができれば、もう少し戦いも楽になるはずですが」
「へえ……6人のソング・エナジーを集めれば確かに……」
弱音ハクは未完成のバズーカに目をやる。同じ科学者として、興味を引かれたのか、設計図を手に眺めていた。
「でも、これも貴方一人で?」
「いいえ。秘密の生産工場があって、そこで組み立てたりしてます。私がしたのは、理論と設計図を作っただけです」
「なるほどね……ここ以外のどこかに、協力者がたくさんいるわけだ」
「はい」
ルカはバズーカの先端に手を伸ばした。
「これ以上、『エビル・マニュピレーター』による攻撃を放置できませんし、強化された狂音獣が現れるのは時間の問題です。とにかく、私達も強くならなければ」
ルカの言葉にメイコとカイトは頷いた。
「いい汗かいた」
ミクはトレーニングルームから出た。それと入れ替わるようにメイコが入ってきた。
「ミク、長い間がんばってたみたいだけど」
メイコに声をかけられたミクは、少し不機嫌そうな顔を向け、
「まあね。私ももう少し努力しないと、狂音獣を倒せなくなっちゃうし」
と、言ってすたすたと廊下を進んでいった。
「……もう少し素直になればいいのに」
メイコはミクの後ろ姿を見て、そうつぶやいた。
「ミク姉、もう少し手加減してよ……」
情けない声を上げるリンがミクの後ろに続いた。
「あの子も、もう少し口が上品だったらかわいげがあるのに」
木刀を手にすると、メイコは一人で鏡の前に立ち、いつものように形の練習から始めた。
「……やっぱりこっちの方が落ち着くな」
カイトは弓を構え、目の前にある的を睨みつける。今までアーチェリーの訓練場がなかったため、リンに頼んで射撃用のターゲットを的にしていたが、ルカに頼んでアーチェリー用の的を調達してもらった。
「これで、拳銃の音に心を乱される事もないな」
突如として起きる派手な音に、調子を崩されていたカイトは、実戦でも少し命中率が落ちている事が気になっていた。
「さ、これで言い訳できないな。しっかりと腕を磨く事にするか」
マフラーをしたまま、右手に矢をとり、弓を引いた。
「強化された狂音獣が現れるのは時間の問題です。とにかく、私達も強くならなければ」
ルカの言葉が不意にカイトの頭に響いた。
「あまり時間はないということか」
矢を放った後、カイトは中心を貫いた的に向かってつぶやいた。
「不気味ね。すぐにでも狂音獣を繰り出してくるかと思ってたんだけど、これで2週間音沙汰なしよ」
夕食で全員が大広間に集まった時、ミクはわざとらしくつぶやいた。
「ミク姉は、どうしたいの? この際だから打って出る?」
レンは持ってきた大きな鍋をテーブルに置くと、すぐにミクの方に向き直った。
「打って出るのはいいとしても、どこに狂音獣がいるのかわかるのか」
「知らないわよ」
ミクの言葉にカイトは盛大に椅子から落ちた。
「カイト、あんたどこぞの大物落語家のまねをしないの。それにしてもミク、貴方、最近焦りすぎじゃないの?」
「なにを?」
生意気な返事をするミクに、メイコは少しムッときた。
「この前の、マッド・レコーダーとの戦いの時から、貴方は何かにつけて私に絡んでくるけど、そんなにあいつにとどめを刺したのが気に食わなかったかしら?」
「別に……声を奪われた貴方に譲ってあげただけで、悔しいとは思ってないわよ」
「そう。ならいいけど」
メイコは何事もなかったかのように、イスに座り、目の前に出された食事に手をつけた。
「……メイコ」
「いいの。少しくらい刺激してあげないと、あの子も腐っちゃうわよ」
ハクの問いかけに、メイコはそう答えて日本酒を一気にあおった。
「ミク……」
ルカはそんな二人の様子を心配そうに見つめていた。
食事の後、酔った勢いでハクの部屋にやってきたメイコは、そのまま酒盛りを始めてしまった。
「メイコ、もう寝かせてよ」
「だめ……ルカも、カイトも付き合ってくんないのよ。ハク、貴方だけなの」
確かに、付き合いという点においては、カナデンジャーのメンバーの中で一番長いのは、ハクなのだが、こうして飲むたびに絡まれるとさすがのハクもうんざりしてくる。
「でも、どうするの? 貴方、あのままじゃ、ミクに誤解されるわよ」
「どういう意味よ」
酔っ払ってあまりろれつの回らないメイコは、少しめんどくさそうに声を出した。
「貴方が、ミクを意識してるってことよ。それと同じくらい、ミクは貴方を意識してる」
「そう? あの子は、もう少し素直な性格だったら、かわいがってあげてもいいのに」
「……そういう問題じゃないわよ。いざというときに、協力できなかったらどうするのよ」
「…………」
「メイコ、聞いてるの? あ、あれ」
ハクが彼女の姿を見た時には、メイコはすでに眠りに落ちていた。
「……よかったのか、悪かったのか……」
ようやくメイコの愚痴から解放されたという安堵と、一番聞いておきたかった事が聞けなかった不安がハクの心の中で渦巻いていた。
「メイコ、起きろ!! 早く!!」
突然の怒鳴り声に、まだ酒の残っていたメイコはけだるそうに頭をあげた。
「メイコ、目を覚まして!」
目の前には、カイトとハクがいた。まだ寝ぼけたままのメイコは、少し頭を左右に振った。
「狂音獣が現れたんだ。とにかく行こう!」
カイトはメイコの腕を引っ張り上げた。腕を引かれたメイコはしばらくフリーズしたような状況であったが、カイトの言葉を理解したのか、突然、
「狂音獣ですって!」
と、叫んだ。一気に目が覚めたのか、メイコはすぐにカイトの手を振り払い、部屋の外に飛び出していった。しかし、その直後、廊下から大きな音とともに、
「痛ったーい」
という、メイコの情けない声が響き渡った。
「大丈夫かしら……」
カイトとハクは一抹の不安を感じつつもメイコの後に付いていった。
「狂音獣が現れた場所は、旧市街地地区、今は再開発か何かでスラムになっているところよ!」
「了解。もうすぐ現場に付くわ」
『オクトパス』からの通信を受け、ルカはすぐに車を出し、朝焼けの美しい街並みを疾走する。
その風景を見る余裕もないのか、酒に酔ったメイコが気持ちが悪いのか何度もおう吐を繰り返していた。
「……肝心な時に悪酔いだなんて……うっ」
慌てて袋の中に顔を突っ込むメイコに、ミクは呆れた顔を向けていた。
「サイテー。狂音獣が出ないからって、油断してたの?」
ミクは、メイコにわざと聞こえるような声で言い放った。
「ミク、やめなさい。自業自得とは言え、苦しんでいる人を責めるのはよくないわ」
「…………」
ルカの言葉に、ミクは口をつむった。ルカは少しずつではあるが、リーダーとしての資質が備わってきているようで、最近では、彼女の言葉に少しずつではあるが、重みが増してきていた。
「メイコ、とりあえず今はここで……」
「行くわよ。私も……」
カイトの言葉をさえぎるように、メイコは車から飛び出した。
既にそこには、ザツオンが暴れていた。
「……行くわよ。コード……うっ!」
変身しようとすると、再び吐き気がメイコを襲った。
「あーもう! コード・チェンジ!!」
ミクが車から飛び出して行き、カナデグリーンに変身する。
「さ、私が相手してあげるわ」
ザツオンに向かって指を指し、ファイティングポーズをとる。そして、一目散にザツオンに向かっていった。
「ミク姉、抜け駆けはずるい!」
リンは変身もせずに車から飛び出した。その手に拳銃を握り、銃口をザツオンに向ける。その後ろで、ルカはカナデピンクに変身し、鉄扇を手にしてミクの援護に走っていた。
「! ルカ姉まで!ちょっと、私を無視しないで!!」
その後ろから矢が放たれ、ザツオンの胸を射ぬいた。車の中で変身を終えたカイトがカナデブルーとなって弓を引いていた。
「じゃあ、お先に」
カイトはそのままハイジャンプをして、近くのビルの屋上に上がり、弓を引く。
「リン、外に出るときは変身してから出ようね」
レンはブレイブ・ロッドを振り回しながらザツオンに向かっていった。もちろん、変身を済ませた状態で。
「オラオラ、近づいてくる奴は全員吹き飛ばしてやる!」
威勢の良い声を響かせながら、リンを置いてきぼりにして走っていった。隣で苦しそうに胸を抑えるメイコとともに残されて、拳銃を手にしたまま茫然と立ち尽くしていた。
「…………みんな大嫌いだ!!」
大声で叫んだあと、カナデイエローRに変身したリンは、腹いせにフルパワーのブラス・バズーカを放ち、ザツオンを吹き飛ばした。
光響戦隊カナデンジャー Song-10 メイコVSミク Aパート
光響戦隊カナデンジャー第10話です。
内容はコラボに上げた物と同じです。
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