1.
あ、どーもどーも。鏡音リンです。
名前だけで分かるかなぁ? え、分かる? わー、どうもありがとう! 私も最近になってようやく、ミク姉ぇに負けないくらい認知されるようになってきたかなー、なんて……わーウソウソ、今のなし!
チョーシこいてると思われるのもアレなんで、一応説明しとくと。
双子の姉の方です。白くてでっかいリボンの方です。よろしくお願いします。
さて、そんなこんなで大ピンチです。主に私が。
今日はミク姉ぇの誕生日なんだけど、私、誕生日プレゼントが用意できてなかったりします。
何とか夜のパーティーまでに用意しとかないと。でも、ミク姉ぇに何をあげたら良いかなぁ? ネギだけじゃ余りにもお約束だし、う~ん……。
悩んでいても仕方ないんで、みんなが用意してるプレゼントを参考にしようと思います。今日はレッスンもお休みだから、みんな家のどこかにいる筈。
じゃ、ちょっと行ってきまーす。
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「ねえミク。この洗濯機、洗剤は入れた? ぜんぜん泡が立ってないみたいなんだけど」
廊下を歩いてると、お風呂場の方からルカ姉ぇの声が聞こえてきました。
さらにミク姉ぇの声も聞こえてきます。
「ちゃんと入れたよ。心配しなくても、何回か回ったら泡立ってくるって。それよりお姉ちゃん、洗濯機の中をのぞき込んでたら危ないよー?」
どうやら2人で洗濯してるみたいです。
うむむ、ミク姉ぇ本人が居るんじゃ訊きにくいけど、何とか隙を見てルカ姉ぇに話を聞かなきゃ。
様子を伺おうと、私が壁際からそっと首を伸ばしかけたら。
「きゃー」
「ああっ、お姉ちゃん!? だから言ったのに!」
……なんかトラブったみたい。
巻き込まれるのも面倒なので、回れ右して早々にその場を立ち去ることにしました。
やっぱりミク姉ぇ本人がいたんじゃダメだよね。ルカ姉ぇの話はまた後で。うん。
お風呂場の方からドタバタ音が聞こえてくるのを背に、私はそのまま歩いて行きました。
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「ようし、行くぞー、レン!」
「いつでも来ーい」
廊下を歩いていると、外からカイ兄ぃとレンの声が聞こえてきました。
窓からそっちを見てみると、家の前の道路でキャッチボールしてるみたい。
ああ……そう言えば今日、午後から町内野球大会の決勝戦でした。「ミク(姉ぇ)に優勝をプレゼントするんだ」とか言って、2人してやたらと燃えてたっけ。
まったくもう、パーティーの準備ほったらかして、これだから男は。
「この日のために血の汗流して編み出した、俺の新魔球! 名付けてカイトスペシャル1号!」
「おお!」
「食らえ、場外大暴投!」
カイ兄ぃはレンがいる方向とは全然違う方を向いて、あらぬ方向へ思いっきりボールを投げ飛ばしました。
白球が青空の彼方へと吸い込まれて行きます。
ああ、それはまるで、甲子園決勝の劇的なサヨナラアーチのようで。
……で、ボールはそのままどっか行っちゃいました。
「すげえ、すげえぜカイ兄ぃ! こんなの誰も打てっこねぇよ!」
レンは目を輝かせて興奮してます。
うん、確かに打てっこないね。
ただしストライクも取れないけど。
と言うか、そもそも試合にならないんじゃない? それって。
私が何とも言えない気分で見守っていると、高らかな笑い声が響き渡りました。
「ふはははは! そんな子供だましの球で、我らに勝利しようなどとは笑止!」
「何ィ? 誰だっ!」
「天が荒ぶる、地が吠える、風林火山が轟き叫ぶ! 神威がくぽ見参ッ!」
あ、お隣さんだ。
さらにその隣には、なぜかすっごく申し訳なさそうな顔して立っているグミさんの姿も。
「がくぽ!? まさか貴様、ひまわり商店街チームに寝返ったのか! おのれ勝負だっ!」
「許せねえ、カイ兄ぃ殺っちまえ!」
「よかろう。貴様らの淡い希望など、拙者が粉々に打ち砕いてくれるわ!」
……あ~……。
一応この2人の意見も聞こうかと思ってたんだけど、なんか盛り上がってるみたいだから、もういいや。
元々あんまり期待もしてなかったしね。
私は何も見なかったことにして窓を閉めます。
「妹よ、花吹雪だっ!」
「は、はぁ~い……」
窓を閉める間際、グミさんがメチャクチャ恥ずかしそうにしながら、花咲かじいさんみたいに花びらをまき散らしているのが、チラリと見えました。
グミさんも大変だなぁ……。
・
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・
そんなわけで、ここまで収穫ゼロのまま、最後の1人のもとへ。
メイコ姉ぇはキッチンで孤軍奮闘中でした。
「え~っとぉ、次にチキンナゲット揚げて、そのあとコーンスープを……いやいや、その前にこっちの塩抜きやっとかないと、後でタイムロスになっちゃうからぁ~……」
うわぁ~、マジで大変そう。
後ろ姿だけでも分かるくらいに殺気立ってます。
こういう時のメイコ姉ぇに話しかけるのって、あんまり気が進まないけど、でもこっちだって切羽詰まってるし。
私は意を決して声をかけました。
「あのぉ~、メイコ姉ぇ?」
「リン! ちょうど良かった、卵と牛乳買ってきて!」
ヒュン、と風を切って何か飛んできた!
「わっ!」
私はとっさに右手でそれを弾きました。
硬質な音を立てて壁に当たり、床に転がったのは500円玉。
何という銭投げ。あんた江戸の岡っ引きか。
「あ、危ないじゃん! 今の顔面直撃コースだったよっ!?」
「ゴチャゴチャうるさい! いいから買ってきなさい、卵と牛乳! 今すぐにっ!」
私の抗議は、全く意に介されずに一蹴されちゃいました。
うう、さすがのパワーボイスだ、迫力が違う。
私もどっちかって言うとパワーボイス系なんだけど、年季の違いかなぁ?
圧倒されてしまって、しぶしぶ500円玉を拾い上げたその時でした。
「うぅ~、髪がびよびよになっちゃったわ」
「それだけで済んでラッキーだったと思わなきゃ。動いてる洗濯機って危ないんだから、次は気をつけないとダメだよ? ……メイコお姉ちゃん、お洗濯終わったよー」
ミク姉ぇとルカ姉ぇがキッチンに入って来ました。
頭から濡れ鼠のルカ姉ぇは、しきりに髪をいじりながら涙目になっており、ミク姉ぇがそんなルカ姉ぇに軽くお説教してます。
あ、2人とも今メイコ姉ぇに近づいたら危な……!
「ちょうど良かった! あんた達は醤油とみりん!」
メイコ姉ぇの右手が一閃しました。
この軌道は……ルカ姉ぇ!
「ルカ姉ぇ逃げて!」
「え?」
ルカ姉ぇが振り返り、私を見つけてのん気に微笑みかけてきました。
いや、こっちじゃなくって前見て前!
「あらリn 」
ゴッ!
微笑みかけた、そのこめかみにクリーンヒット。
ルカ姉ぇは漫画みたいに笑顔のまま、床にのびちゃいました。
「ああっ、お姉ちゃん!? ちょっとメイコお姉ちゃん何するの!」
「忙しいのよ私は! 多少の犠牲に構ってられないわ!」
「何、そのテロリストみたいな発想!?」
その時、盛大に窓ガラスが割れて、男の人が飛び込んできました。
「ふははは! カイトスペシャルとやら、破れたり!」
と思ったら、お隣さんでした。
少し遅れて窓ガラスを破って飛んできたボールを、思いっきりジャストミート。ボールはまたガラスを破って、空の彼方へ飛んで行きます。
ひょっとしてカイ兄ぃの大暴投を追って、ここまで来たんでしょうか? すごい執念です。
ところで、うちの窓ガラス、ボロボロです。
「かかったな! そのボールは偽物だ!」
今度はドアを蹴破って、カイ兄ぃが飛び込んできました。
「こっちが……本物だーーーっ!!」
「な、何ィ!? うぐほぉっ!」
至近距離から投げつけたボールが、お隣さんの顔面に直撃。お隣さんはもんどり打って倒れます。
「どうだ、これが俺達の力だ!」
「ぐっ……なかなかやるではないか。だが拙者はまだ死んではおらぬぞ!」
……え~と。
これって野球だよね? 普通にデッドボールじゃないの? それって。
て言うか偽物って何? いつから野球はボールを2個使うスポーツになったんだろ。
「すげえ、すげえぜカイ兄ぃ! これで優勝は俺達のものだ!」
いつの間にかやって来ていたレンは、興奮してるばかりで何の疑問の抱いてない様子。
「あ、あの~……すいませんお邪魔します……」
グミさんも来たけど、こっちもひたすら申し訳なさそうにしてるばかりで、この状況を何とかしてくれそうにもない。
「ちょうどいいわ! あんた達スイカとトマトを買ってきなさい、でなければ死になさい!」
「何、その落差の激しい二者択一!? それよりメイコお姉ちゃん、ルカお姉ちゃんに謝ってよ!」
「カイトスペシャル2号! 食らえ、ピッチャーごと体当たりボール!」
「うおおぉーっ! シビれるぜカイ兄ぃ!」
「調子に乗りおって! 貴様ごとホームランにしてくれる!」
「すいません、すいません。ちゃんと後で弁償しますから……」
……もう、これ、どうしろと。
うちのキッチンがいつの間にか、何だかとってもカオス状態です。どうしてこうなったのか、誰か理路整然と説明して下さい。
「え~と。そんじゃ私、買い物に行ってくるね~」
とりあえず、笑顔でフェードアウトすることにしました。
三十六計逃げるに如かず。
昔の人はホント、良いこと言ったものです。
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秋徒
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こんにちは。もしかして大遅刻ですかね・・・orz 秋徒です。
今回のミク誕はリン視点ですね!レンが完全にボケキャラに回っている所を見ると、前のミク誕とは別のボカロ家なのですかね?本編に関係ないですが、相変わらず天然のルカ姉ぇに萌えました←
紳士ロリコンを筆頭とした新キャラの性格も面白く、今まで末娘だったリンがお姉ちゃんお姉ちゃんしたり、でもミクは相変わらず全てお見通しな良いミクだったりと、自給さんらしい心温まるお話でした。ただ、あえて言うなら、プレゼントを出すことが出来なかったリンが外へ買い出しに行く所あたりでオチが読めてしまったので、もう一転あっても良かったと思います・・・なんて、余計な事言ってしまってすみません(´・ω・`)
来年もミク誕出されるのですね!次は誰の視点になるのか楽しみです。
次回作も、首を長くして待ってます!
2010/09/13 19:34:17
時給310円
こんばんは秋徒さん、いつもながらコメありがとうございます!
しかし……正直なところ、今回の話ほどコメ頂けて偲びねぇと思った話は無いです。ミクはもちろんのこと、初めて主役を張ってもらったリンにも申し訳ないことをした……。来年こそはと再起を誓っておる所です。
ご指摘ありがとうございます! そういう率直な意見を待っていた、さすがは秋徒さんです! Σd(^^
みんな優しい人たちばっかりなのはホントありがたいんですが、逆に自分の欠点が見えづらい副作用。作家が読者様に気を遣われる様になったらお終いだと思うので、これからも忌憚のないご意見を宜しくお願いします!
次回作はちょっと気合い入れて書いているので、遅くなるかもです。9月中は無理かも……って、遅筆はいつものことか (^ω^;
どうぞこれまでと変わらず、気長にお付き合い頂ければ幸いです!
2010/09/14 22:32:05
スコっち
ご意見・ご感想
こんばんは、時給さん。いつものごとく少し遅れて来たスコっちです。
ミク誕でリン視点というのがなんだか新鮮だと思いました。
なんだかこういうギャグ要素大目の作品は久しぶりな気がします。
そして最後にはいい話っていう…さすがですね!
個人的にアホな男性陣と申し訳なさそうなGUMIがちょっとツボだったり。
そしてまさかのリリィ登場!なんですかあのキャラは!かわいいじゃないですか!
…すいません、ちょっと興奮してしまいました。おちつけ自分。
とにかくいいものを読ませていただきました!
2010/08/31 23:38:42
時給310円
こんばんは、スコっちさん。ようやく帰りました時給です。もはや遅刻がデフォとなりつつあります(汗)。
ともかくにも、お読み頂いてありがとうございます!
正直、この話はボツにして、今年のミク誕は諦めようかと思ってたんですよ。やっぱり一発書きクオリティでは、どうにもこうにも…… orz
でも、リン主役の話って書いたことがなかったし、なにより「何も出さない」よりはマシだと思ったので、去年以上に恥をさらず覚悟でUPしました。来年こそ頑張りたいです、いやマジで。
温かいフォローありがとうございます、人の情けが身に沁みます (´;ω;`)
スコっちさんも完結編、UPされてますね。コメしに行きますので、よろしくお願いします!
2010/09/06 22:41:52
藍流
ご意見・ご感想
こんばんは! 新着メール見るなりすっ飛んできたら2ページ目から読みかけました、藍流です! ちょっと落ち着けって話ですねw
ボカロ総出撃とは、なんて豪華な! まさかテル先生達まで出されるとは思わず、嬉しい驚きでした。
今回はコメディ色強めで、ひとりニヤニヤしながら読ませて頂きました。完全に怪しい人です。良かった自室で。
ノリノリのがくぽとフルスロットルなKAITOが最高に笑えましたw ツッコミに回らず一緒に暴走するレンはちょっと珍しいのでは? 新鮮でした。というか誰かツッコもうよ、と内心叫びました。
今回のルカは『巡り過ぎ~』ベースな感じでしたね。おっとりのほほん天然系で、まさにマイナスイオン発生装置。和みます^^
そして早々にリリィ登場! リンが帰宅したところの描写で「お? もしかして?」と思ったら……! 意外に初々しいリリィ、いいですね。微笑ましいです。リンの先輩らしい気遣いも、その成長を喜ぶミクも良かったです!
って、やたら長くなってしまいました。書ききれないのですが、ひとまずはこれで^^
2010/08/29 23:08:53
時給310円
ちょっ、神速コメにも程がある Σ(゜д゜;)
ありがとうございます、すごく嬉しいです。
これは何としても早くレスを返さねばと思い、携帯から失礼します。
まずは早々にお読み頂き、ありがとうございます!
僕が投稿する時は、たいてい「前のバージョン」でページを重ねる作業をしているので、いつかはそういう事故が起こると思ってました!w
笑ってもらえて嬉しいです。お祝い事なんだから、やっぱ楽しく行かないと、と思ってました。でも女の子同士の楽しい会話ってのが、うまく想像できなかった……。なんでだろ、男同士のアホ話はあんなにサクサク進むのに?
急に仕事が入ったせいで31日に家に居られなくなり大急ぎで書いたので若干残念なクオリティだと思うのですが、気持ちだけはこもってます!
早々にお読み頂き、また記録的な超神速コメ、ありがとうございました! そしてミクごめんな、来年こそ期待してくれ!
2010/08/30 22:59:41