Rin side.


広場から人が引いていく。

血だらけになった断頭台を前に一人の少年…、いや、少女が座り込んでいる。

リリアンヌ=ルシフェン=ドートゥリシュ。たった今処刑されたことになっている人物だ。

しかし、残酷にも彼女の目の前で生涯の幕を下ろしたのは…。

彼女の一番大切な存在であり、弟のアレン=アヴァドニアである。

彼女たちの関係は『リン』『レン』と愛称で呼び合うだけでなく、姉弟以上の関係になっていただろう。

ショックが大きすぎるのか、全く体を動かさず一点を見つめ、ただ涙を流している。

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・

彼女の身にいったい何が起こったのか。

それは三日前までさかのぼる。

ルシフェニア王国では革命が起ころうとしていた。

革命軍が王宮に押し寄せてから二日が経とうとしていた。

リリアンヌもアレンももう長くはないことは分かっていた。

大勢の人が14歳の彼女を捕えようと押し寄せているのは、彼女にとって今まで味わったことの無いほどの恐怖だった。

そのため、ずっとリリアンヌはアレンに抱きついていた。

「レン?」
「何?大丈夫?」
「怖いよ」

アレンはリリアンヌをより強く抱きしめる。

「…リン、最後に僕のお願いを一つだけ聞いてくれないか?」
「なあに?」
「服を交換しよう?」
「え?こんな時に何を言っているの!?しかも、交換って…」
「時間を稼ぐためさ。僕が王女になって民衆を説得する」
「いつも、面倒なことはアレンに任せたものね…」

財政や軍事関係などは、全てアレンがリリアンヌになりかわって執り行っていた。

「だから、今回も僕が」
「今回は命に関わるかもしれないわ。それに、方針は主に私のわがままd…」
「『悪ノ娘』は僕だ。命令を下したのも僕。さあ、早く服を」

アレンは自分の服をリリアンヌに渡した。

それはリリアンヌはためらいつつも受け取った。

廊下で「王女はどこだ」と叫ぶ声がこだましている。

革命軍は城の中まで入ってきたようだ。

着替え終わったリリアンヌは心配そうにアレンを見つめる。

「大丈夫。うまくやり過ごすよ。早く逃げて」
「…逃げる?」
「さあ、早く!!」

アレンはリリアンヌの腕をつかみ、クローゼットに押し込んだ。

ドアをたたき、開いく音が近づいてくる。

「ねえ、アレン。大丈夫なの?」
「静かにしているんだ」

ついに、二人の居る部屋のドアをノックする音が部屋に響き、革命軍の一部だと思われる9人ほどの男女が乱暴に入ってきた。

「いたぞ!!」
「王女!よくも我々の税金を!!」
「私の夫を返して!あんな戦争さえなければあの人は死なずに済んだのよ!!」

アレンに次々と手が伸びてくる。

アレンはそれをふり払い

「この無礼者!!私に気安く触れるな!私を捉えに来たのであろう?抵抗するなどという無様なまねはしない。連れていくがいいわ」

ここで飛び出せば私が王女だということが言える。

「私が王女だ」と言おうと少しドアを開いたとき…。

アレンが見たこともないような形相でこちらを睨んでいた。

その目は出て来るなという意味なのだろう。


しばらくしてからリリアンヌはクローゼットから出た。

廊下に出てみる。

家臣の一人がいたので、アレンのふりをして

「リリアンヌを知りませんか?」

と聞いてみた。

「おぉ、アレン殿。先ほどの革命軍の会議によって王女は広場で公開処刑されることになりましたぞ。やっとあなたも暴君王女から解放される」

家臣は喜んでいるようだった。

頭に来たリリアンヌはその家臣の腹に蹴りをお見舞いしてやった。

腹を押さえて座り込んでいる家臣のところをあとにした。


王宮の広場に着くと、ちょうどアレンが断頭台に連れて来られているところだった。

私――。いや、アレンに罵声を浴びせる民衆の波を掻き分け、やっとの思いで最前列へ出た。

アレンの首は固定され、もうすぐ鐘の鳴る時間だ。

「ただいまから王女の公開処刑を執り行う!!」

民衆が歓声をあげる。

アレンはリリアンヌの存在に気が付いた。

ずっとこちらから目を離さない。

「王女、何か言い残したことはないか?」
「お前ら愚民どもにかける言葉などない。さっさと殺せ」
「フン。最後まで『悪ノ娘』でしたね」

ついにアレンの首に刃が向けられた。

―――『笑って』―――

彼の声が聞こえた気がした。

「―あら、おやつの時間だわ」


そして冒頭へ戻る―――。という形だ。




―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・

ジェルメイヌ=アヴァドニア。彼女は革命を起こす元となった人物だ。

たった今、アレンを――。

彼女は真実を知らぬまま、自分の義弟と知らぬまま――。

処刑した。

広場に出てみる。

一人の少年が断頭台の前で座り込んでいる。

――まあ、自分の姉が目の前で処刑されたのだから、無理もないか。

ジェルメイヌはアレンだとすぐに分かった。

かけてやる言葉が見つからないが、何とか慰めてやりたい。

そう思い、『アレン』の肩に手を置いた。

「アレ、n……!?」

思わず手を離した。

明らかに肩幅が小さい。

アレンではないのか。

しかし、どう見てもアレンだ。

…もしかして――。

「リリアンヌ…、王女……?」
「…そう。私がリリアンヌよ」

ジェルメイヌは怒りを覚えた。

自分の弟を身代わりにさせるなんて…!と。

しかし。

「なんで…。なんでアレンが殺されなくてはならなかったの?悪いのは、私なのに…。私が、私が『悪ノ娘』なのに……!どうして…、どうして……!!」

ジェルメイヌはここで理解した。

王女が身代わりにさせたのではなく、アレン自らが身代わりになったのだと。

いくら悪逆非道な行いをしてきたといえども、彼女にはあまりに残酷すぎる運命ではないか。

ジェルメイヌはいくらか彼女が可哀想になった。

「王女……」

リリアンヌは、ジェルメイヌが腰にさしている剣に手をかけた。

「お願い。私を殺して。本当なら、あなたとレンがここで会っているはずだったの。私は生きていてはならないの。…ねぇ、早く。早くあなたのその手で……!」
「王女!!」

リリアンヌは突然の怒声にびっくりした様子で剣から手を離した。

「…王女。アレンがどんな思いであなた様の身代わりになったかお考えください。きっと、アレンはここで王女が殺されるのを願っていないはずです。自らが犠牲になってまであなたを守りたかったの。そうでしょう?」
「…!!」
「さあ、その涙をぬぐって」

リリアンヌはブラウスの袖で涙をぬぐった。

「…。私はレンのために、今までの罪を償うために生きていきます。人間として、恥の無いように。いつか、立派だと言われるように」

彼女の目には、決意の炎が燃えていた。

弟が目の前で殺されて数分しか経っていないのに、もう立ち直ったのだろうか。

いや、弟『アレン』のおかげで彼女は強く、人間らしくなれたのではないだろうか。

「その決意と、今の瞬間を忘れないで。アレンもあなたを見守っているはずよ」

「はい!」

リリアンヌは胸ポケットに何か入っているのに気が付いた。

入っていたのはメモ紙だった。

書いてあった内容を読むと――。

目の前の風景が涙でぐにゃりとゆがんだ。

再び込みあがってきた涙をぬぐい、胸ポケットにしまった。

―願いを書いた羊皮紙を小瓶に入れて、海に流せばいつの日か想いは実るでしょう――。

いつか毎日レンと一緒に海へ小瓶を流しに行ったものだ。

リリアンヌはそのうちやらなくなっていったが、アレンだけは毎日午後4時に海へ向かった。

「そんなになにをお願いすることがあるの?」と聞くと、「お願いは一つだけだよ」と返ってきたので、「そのお願いは何?」と聞いた。

すると、彼は「教えられないけど、いつかいやにでも分かる日が来るんじゃないかな?」と苦笑いをした。


その願いはリリアンヌに対するものだったのだ。

「ジェルメイヌさん」
「何?」
「私、海に行ってきます」
「あら、どうして?」
「少し……。きっと戻ってくるので」

アレンの想いと一緒に私の想いも海に届けてもらおう。

私は海へ向かった。





ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

悪ノ娘と召使 Rin side. 前篇

衝動的に書きたくなったので。

全4話の予定なので、脱走姫様はこれを全て書き切ってしまってから再開します。

本家様↓
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2916956
悪ノ娘

http://www.nicovideo.jp/watch/sm3133304
悪ノ召使

閲覧数:1,612

投稿日:2012/06/30 20:57:05

文字数:3,505文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました