第四章~白き科学者~





蒼い女騎士は村人に、科学者の場所を聞いていた。
気はのらないのだが、王に対する忠誠――それと恋心のため、此処まで赴いてしまった。
こんな手紙を渡さなければならないのか。
やはり断ったほうが良かったのではないか。
そんな事を考えている間に、目的の家に辿り着いてしまった。
「あの、科学者の家というのは此処であっていますか?」
軋む木製の扉をノックして言う。
――それにしても、今にも崩れそうな家ね…
――科学者なのに、研究費はどうしてるのかしら…
――次に地震があれば崩れてしまいそう…
そうやって割と失礼なことを考えていると、ギィと扉が鳴った。
その――崩れそうな――家から白い男が顔をのぞかせたのだ。
「はい。そうですがどちら様で?」
この男が科学者か。なるほど、本当に髪と肌が白い。しかも若かった。白い髪などと言うから老人を想像していたが、齢20過ぎほどではないか。
「あのー…何か…?」
あんまり彼女がボーっとしているので、科学者は首を傾げた。
「あ、すみません。つい…」
「いえ、構いませんよ。で、ご用件は?」
「はい。国王が貴方に此れを」
彼女が手紙を渡すと、科学者はひどく驚いた。
「国王陛下が私のような者に手紙を…!?」
『国王陛下からの手紙』ということで緊張しているようだ。少し手が震えている。
機械油のべっとり付いた手は、強張りながら手紙の封を切った。
その手紙を読むと、彼は首を横に振った。
「申し訳ありませんが、この件はお断りさせていただきます。私はこんなもの造りたくはありませんから…”沢山の命達を瞬く間に滅ぼせる武器”なんて…」
「分かっています。私だってこんな手紙、渡したくもなかった。あのお方――陛下は、人の道を違えてしまったようなのです…」
「ええ。あんなにも平和を愛していらっしゃったのに…」
科学者は手紙に視線を落とした。
「陛下には…お断りしますと、それだけ伝えてください」
「はい。それでは…」
帰らせていただきます、と言おうとしたとき、家から赤ん坊の泣く声が聞こえた。しかも二人分。
「あ、すみません。家内だけでは双子をあやすのは大変ですからちょっと…」
と言って、科学者は家の中に戻って行った。
――お子さんがいたのね…
壊れそうな扉は彼の押さえる手がなくなっても、開いたままだった。その隙間から部屋の様子を覗き見る。
科学者は、妻らしき女性と我が子をあやしていた。
美しい真紅の瞳の彼女は、あたふたとする夫を見てクスクスと笑う。
部屋の様子からしてけして裕福とはいえないが、今まで幸せに暮らしてきたと言うことが手に取るように分かる。
しかし王はきっと、この幸せを壊そうとするだろう。
蒼い女騎士は、ゆっくりと扉を閉めてその場を去った。
軋む扉の音に気づいた夫婦は、憂いを含んだ瞳でしまる扉を見つめた。
悲しむ気持ちも、悪寒がするのもお互い同じ。
ただし違うのは、ある決心が付くかどうか。
夫婦は王に逆らい、逃亡を決心した。女騎士は、逆らうのを決心できずにいた。
確かに、結果に満足しないであろう王の恐ろしい行動などいくらでも思いつく。
それは止めなければならない事。でも、騎士の彼女にとっては逆らってはいけない事でもある。
科学者に凶行を強要させたくない気持ちと王への忠誠心は、秤にかければ釣り合う。
心が揺れる彼女は、せめて彼らには何も起きないことを祈った。
この先、彼らと自分の間に何が起こるかも知らずに。
ただただ、祈った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

【小説】或る詩謡い人形の記録

第4章突入です!
夫婦の初登場なのです。
「けして裕福ではないけれど」という歌詞から、
私の脳内では、夫婦の家はおんぼろになりましたww←

王様も大変なことになってますけど、もうそろそろ、雪菫の少女も…

前のバージョンで2ページ目です。

アドバイス等あればお願いします。
今後の参考にさせていただきます。
あまりにも文才が無いので…;;

閲覧数:591

投稿日:2009/03/07 20:54:46

文字数:1,455文字

カテゴリ:小説

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