―今日行われている全人類のアンドロイド化計画は、50年前に行われた国際連合の人類再興企画案によるものである。将来的に起こるであろう化石燃料の不足に対応すべく提出されたこの企画案には、当初から倫理上の対立と一部の人間によって可決されたという事実から批判も多かったが、現在の計画の進行状況を見る限り、この企画案が間違っていなかったことは周知の事実である。―
僕はここまで読んで、現代社会の教科書を閉じた。ここは学校、時刻は夕暮れ時である。夕日に染まる教室で、僕は人を待っていた。
僕はまだアンドロイドではない。50年前に決議されたにも関わらず、一向に人類のアンドロイド化は進んでいなかった。そもそも元々の計画で行けば、僕が生まれる前にアンドロイド化は終わっているはずだった。(つまり僕は生まれなかった。)行政の体たらくとは恐ろしい。
ただ、それももうすぐ終わる。この学校も今週で廃校となることが決まっている。なぜなら、全校生徒のアンドロイド化が完了するからだ。データを入れれば、何でも分かるアンドロイドに学校など必要ない。僕達のアンドロイド化も、明日の午前中に行われるはずだ。
さてと、そろそろ来てもいいはずなんだけど…
「レン~!!ごめんごめん。先輩が片付けやってけってうるさくて!」
来た来た。僕が待っていたのは、この異様にテンションの高いリンと言う級友だ。イチオウ、彼女とは、その…つき合わさせてもらってる。つまり、…リンは僕の彼女だ。
部活をやっていない僕は、こうして教室で彼女の部活が終わるのを待っていることが多い。
「あれ?レンったら、また社会の教科書読んでたの?この歴史オタク♪」
そう言って、リンが僕に飛びついてくる。
「いいだろ、好きなんだから。ほら、遅くなるから帰るぞ!」
「うん!!」
僕とリンは仲良く手を繋いで校舎を出た。
「ねぇー、レン。」
歩きながら、いつもハイテンションのリンが珍しく低い声で、そう切り出す。
「ん?」
「明日なんだよね。うちらの番。」
「ああ。」
「私、怖いんだ。」
「どうして?」
「だってアンドロイドになっても、レンとこうして一緒にいられるのかなって…」
リンの僕の手を握る力が強くなる。
「いられるよ。絶対。」
「なんで、そう言い切れるの?」
「国連や学者の人が、人格はアンドロイドになっても変わらないって言ってるだろ。」
「その人たちが正しいってどうして言えるの?」
少し、ヒステリーに叫ぶリン。
「どうして間違ってるっていえるんだい。」
「…もし、アンドロイドになって…レンが、レンがレンでなくなっちゃったらどうしようって…」
リンの目に少し涙が浮かぶ。
「僕は、いつだって僕だよ。今までも、アンドロイドになっても。」
「でも、わたし嫌だよレンと一緒にいられなくなるなんて、もし……」
「あ~もう、しつけーな!!」
僕はリンの手を力強く離した。
「イッタ!」
弾みで、リンが転んでしまった。
脚を押さえている。
「ワリィ…」
僕はそう言って、リンを背負った。
リンはその後一言も話さなかったが、背中でないているのが分かった。
リンの家に着き、僕がリンをおろすとリンはまた明日とだけ言って、家の中へと入っていった。
リンの言いたかったことも分かる。もしかしたら、僕も怖いのかもしれない。
でも…
そんな風に望むからいけないのだ。そもそも欲しがらなければ…
全ては、科学が補ってくれる。
それが僕の向かう理想郷だ。
終末史episode1―理想郷①―
初投稿です。
囚人Pさんの楽曲理想郷(http://piapro.jp/t/3Won)の世界観を、小説にしてみました。
続きはこちらhttp://piapro.jp/t/pxyR
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