レンが全てを思い出した頃、リーリアは屋敷に帰り着いていた。
「つ、疲れた・・・」
喚く両親を無視してそのままぼすっとベッドに倒れ込み、ぼんやりと明るいランプに首飾りを翳した。
綺麗な銀色の光を見ていると、自然と思いはあの死神へと至る。
黒ずくめの、冬色の少年。
甘い物が好きなあの少年は、世に言う『死神』のイメージとは全然違う物だった。
自分とそっくり同じ顔立ちのあの少年は、きっと生前には女顔だとからかわれたのだろう。
リーリアは微かに微笑んだ。
もし、自分が死ぬ前に彼が全てを思い出したら、その時に聞いてみようと思った。

同時に、今は亡き兄を思う。
アレン=ド=クロエは、兄を忘れた妹を怒っているのだろうか。
それは、自分が死んで向こうの世界に行ったら本人に聞こうと思った。

視界がチカチカして、頭がじんわりと痺れる。
目の前を、緑色に光る何かが無数に舞う。
これは、もうすぐ意識が飛ぶという身体からの合図だ。
リーリアは主治医や両親に奪われないように、首飾りを握りしめる。
やがて視界を、黒が覆った。



相変わらずここでないどこかを見つめるレンを抱え、カイトはレンの家へと転移した。
「落ち着いた?」
彼を安心させようと微笑んだカイトを、やっと焦点が合ってまともに物を見たレンが見つめた。
「うん」
今までの丁寧は物腰は崩れているが、そのひたむきな様子は紛れも無いレンだった。
精神は死んだ時のままの彼に、カイトは簡単に現状を説明する。
レンが死んでから10年が経った事。
今まで、鎌と組んで死神を勤めていた事。
彼の罪を清算するためには、もしかすると世界が終わるまで死神をしなくてはならないかもしれない事。
「じゃあ僕は、リィを―――妹を殺さなきゃいけないの?」
レンの罪。カイトと交わした契約。
それは、自分の命と引き換えに、本来カイトが看取りに来た妹の命を伸ばす事。
死すべき者を取り替えるのは、特殊な条件故に犯した者は少ない。
だが、事実としてレンは妹の命を伸ばすために罪を犯した。
「後悔は、しているかい? 妹を現世に縛り付けた事も、自分が永久に死神でなくてはならない事も」
カイトの問いに、レンはきっぱりと首を横に振った。
「後悔してません。『私』が永久を耐える覚悟はもうできています。それに、『僕』が会った彼女は、笑っていました」
「そうか」
カイトはレンの頭をくしゃりと撫でた。
「実体化、疲れただろう? 今は休んでも、誰も君を咎めないよ」
アレン=ド=クロエは妹を、リーリア=ド=クロエを思って目を閉じる。
奇しくも、リーリアが意識を失ったのと同時だった。

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【白黒P】鎌を持てない死神の話・10

閲覧数:254

投稿日:2011/06/03 19:58:44

文字数:1,095文字

カテゴリ:小説

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