あれから毎日、君の紙飛行機が僕の唯一の喜びだった。
・・・・それ以外は、“どん底”と言ってもおかしくない――いや、これ以上のどん底がまっているかもしれない。ただはっきりと言えるのは、確実に穴の底は近づいているということだ。
ここに来て、もう何ヶ月経っただろうか?僕の右腕に、“02”と赤く刺青してある。ここへ放り込まれてすぐ、“刻印”されたものだ。ここの囚人だと分かるように。家畜と同じ扱い、というワケだ。“刻印”された直後は、針でずっと刺されているような痛みが、“02”の文字をなぞっていたが、今はもうかなりの時間が経ち、痛みは無かった。・・・・どっちにしろ、“痛い”と感じることが少なくなっていた。体中には血がにじみ、傷やあざだらけだったが、今感じるのは“痛み”というよりは、“狂い”だった。自分で“狂い”を感じるほど、僕は感じることが出来なくなっていた。ただ僕が正気を保てていたのは、紙飛行機のおかげだった。
僕の数少なくなった感覚の中にあるのは、罪の意識だった。こうして毎日のように文通をしていたが、いつかは彼女を巻き込んでしまうのではないか。もし巻き込んでしまえば、それは全て僕のせいだ。その意識は日に日に高まっていた。しかし、彼女の笑顔を見ると、僕は都合よく罪の意識を忘れた。
僕は何ヶ月も切っていない、少し長くなった前髪をかきあげた。
そのときだった。笑い声がする――こんな中で笑うのは、ヤツらだけだろう。
「第二収容所の娘度もを“シャワー室”送りにしたんだって?」
“シャワー室”・・・・?ガス室送りって・・・・第二収容所は母さんや、カイトの妹のミクがいるところだ・・・・。
「ああ、そうだ」別の男の声だ。口調が、男の表情を思い浮かばせた。「あいつら、全然抵抗しなくてよ――ああ、まあ一人、逃げようとしたチビがいたな。緑色の髪のガキだ。“カイトお兄ちゃん!”だとよ」男はワザとらしく、声を高くした。笑い声がする。
「で?そのガキはどうした?」
僕は耳をすませる。さっきの男が、フンっと鼻で笑った。
「一発、バーンだよ。――まあ、その方がすぐ死ねて、幸せってモンだぜ」
男たちは大笑いした。僕は驚きと怒りで声が出ず、ぐっとこぶしを握った。
――そんな・・・・ミクまで・・・・。ミクはまだ小さかったのに・・・・それに、母さんもシャワー室で苦しんだのかもしれない・・・・!!
「ミク・・・・っ!」カイトの声がした。会話を聞いていたのだ。
「カイト・・・・?」僕は少し、カイトに近づいた。
カイトは無表情で、止めどなく涙を流していた。カイトがこんなに泣くのを、はじめて見た・・・・。
カイトは、ぱっと立ち上がった。今度は悲しみで、顔が歪んでいた。カイトはさっき声がしたほうへと、走り始めた。
「カイト!?」僕はカイトを追いかける。
・・・・そんな。カイトまで殺されてしまうじゃないか!
外へと続く、石畳の暗くて冷たい廊下に、あの声の主達が歩いていた。
カイトは2人のほうへ、全速力で走った。いつもは僕と同じぐらいの足の速さなのに、僕がいくら走っても、カイトには追いつかなかった。
「嗚呼アアあああっ・・・・!!」カイトが声を上げた。
「カイト!」僕は男たちにつっこんでいくカイトに向かって叫んだ。
「お前達、何をしている!?」男の一人が銃を構えた。
「・・・・返せ!妹を――ミクを返せ!!」カイトが叫んだ。カイトはいつものカイトではなかった。狂っているようだった。カイトが拳を握った。
「カイト、やめろっ――!!」
「・・・・“カイト”・・・・?そうか、あのガキの兄貴か」ミクを殺した兵士が、ニヤっと笑った。「妹御からの伝言だぞ。“カイトお兄ちゃんに会わせて!”だと」
ヤツらは、腹を抱えて笑った。
「・・・・この・・・・っ!」カイトが大声で言った。「殺れるモンなら、殺ってみろ!ミクにやったように、僕を殺せ!僕はそれで自由になれるだけだ!怖くなんかないぞ!!」
男たちの高笑いが、ピタっと止んだ。
「ほう・・・・そうか。それなら、お望みの通りに。これで愛しの妹御に会えますぞ」冷酷な声だった。
男はさっきより、銃をしっかり構えた。指に力が入った。
「やめろ――!!!!」僕は手を伸ばして叫んだ。
鋭い銃声。真っ赤な血。ドサっという音。
僕は伸ばしかけた手を、力なくおろした。
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限りなく進む夢々とこれから
廻りながら感じて内宇宙...天体スコープ
Re:sui
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