!!!Attention!!!
この話は主にカイトとマスターの話になると思います。
マスターやその他ちょこちょこ出てくる人物はオリジナルになると思いますので、
オリジナル苦手な方、また、実体化カイト嫌いな方はブラウザバック推奨。
バッチ来ーい!の方はスクロールプリーズ。
いくら制止の言葉をかけようとも、竜一さんが止まる気配はない。一歩踏み出すたびに錘が増えていくような感覚が身体を襲う。
竜一さんにはわかっているはずだ。今から自分がやろうとしていることがどれほど愚かなことなのかを。それが逃げるということになるということも気付いているはずだ。竜一さんにわからないはずもない。それなのに・・・それなのにその道を選んだのは、どこかで自分に甘い部分があるからなのか。それとも、もう逃げ出したいと心のどこかで願っていたからなのか。
自分はそれでいいのかもしれない。許されたような気がするのかもしれない。だが、その選択はきっと何よりも愚かだ。自分の大切な人を泣かせてまで、進むべき道ではない。
「竜一さん・・・ッ!」
誰もそんなことは望んでいないとあなたなら理解しているはずなのに、何故そんな道を選ぼうとするんだ。
竜二さんも竜二さんで何がしたかったのか結局よくわからない。あの人なら、俺たちが駆けつけるまでに律を立ち直れないほど徹底的に打ちのめすことも容易かったはずだ。何故、そうしなかったのか。何故、俺たちが駆けつけるのをわざわざ待っていたのか。
走るにつれて、体にまとわりつく空気が熱い肌のほんの薄皮一枚程度だけを冷やす。体の中は徐々に熱くなってきていたが、頭は外気によって冷静さを取り戻してきたらしい。今まで熱くなっていたせいでよく考えていなかったが、竜二さんが突然竜一さんに体を明け渡したことがおかしいような気がしてくる。
そうだ、考えれば考えるほどおかしい。あの人のやり方は、そうと決めた相手以外には手を出さないやり方だ。それなら・・・律を壊すということが目的だったとしたなら、律と二人で俺たちが追いつけないような・・・誰の邪魔も入らないところへ行けば良かっただろうし、竜二さんなら誰にも見られることなく失踪することもできたはずだ。あれだけの準備期間があったのだから。それなのに、何故逃亡しているということをわざわざニュースで流させたのか。何故、あんなにも簡単にNoirさんやクーさんに見つかったのか。何故誰かに見つかるようなところで律を攫ったのか。
(まさか・・・そうなるように計算していた、のか・・・?)
そこまで考えてはっとした。もしかしたら、これは竜二さんが自分自身で抑えきれなくなってしまった自分の中の感情を止めるために用意したシナリオだったのかもしれない、と。
もしも、竜二さんが本当は律を心から壊したいと思っていなかったのだとしたら。あの日以来、外れてしまった歯車がどこか妙なところに引っかかってずれたまま動き出してしまい、自分が進もうとしていたはずの道から外れてしまったのだとしたら。そうだったとしたら、自分自身を制御できないまま律を傷つけ続けるのが嫌で、自分ではなく他の人の手で終わらせようとしたのかもしれない。例えば俺やカイトや竜一さんの手で。まだ、律を助けたいと、そう考えることができたとすれば・・・。
(だからって、何でこんなことを・・・)
もしも竜二さんが、本当は昔と何も変わっていないというのなら・・・本当は、自分が取り返しのつかないことをしているのだとちゃんと理解していたのだろう。ああして俺から憎まれるような振る舞いをして――いや、それ自体はおそらく自分で止めようのないものだったのだろうが、それまでもを計画に組み込んで――後腐れなく終わるつもりだった。冷静に考えれば、そうだったのではないかと思えてくる。
あの人も、竜一さんと同じように律を大切に思っていた。それはまだ変わっていない。きっとどこかで道がずれてしまっただけで、まだ律を助けたい気持ちがあったのだ。
もしそうだとしたら、何て残酷なことだろう。
「竜二さんも竜一さんも・・・馬鹿じゃないのか・・・っ・・・!!」
鼓動に合わせてズキズキと痛みが走る。
竜一さんの後ろ姿が遠い。手を伸ばしても届かない距離。俺は律の泣き顔を見ないためにも、カイトのこれからを守るためにも、俺自身悔しい思いをしないためにも・・・どうにかして止めなければならないというのに、俺のこの足では追いつけないのか。
(くそっ、もっと、もっとだ・・・! もっと動け!!)
疲れている体に鞭打つように命令をとばしながら走り続ける。何度呼びかけても振り返ることすらしない竜一さんは、きっと竜二さんの策に気付いていながら、それに手を貸したのだろう。彼も償い方を考えていたはずだ。もしも半身とも言える竜二さんがその道を選んだのなら、自分も、と・・・その道を選択したのだろう。元は、竜一さんは関係なかったのだろうが、どのみち同じ体だ・・・無関係ではいられない。
走るたびに空気が体を撫でては通り過ぎる。嫌な風に思えるのを振り払って進むその先に、竜一さんが風のように駆けていく。
踏み外しそうな道を照らし続けた竜一さんが、今道を違えた。おそらくそれは、竜一さんや竜二さんにとっては自分たちの罪を償う上で一番の選択肢だったのだろうが、誰かの悲しみの上に成り立つ償いなど、何の意味も持たないじゃないか。身近にいる大事な人を完膚なきまでに傷つけてしまう正しさなんて必要ない。
後方から微かに聞こえるパトカーの音。クーさんが呼んでくれたのだろうか・・・・・・だが、それもおそらく追いつけはしないだろう。もう既に、竜一さんの終着点は目の前なのだ。
「行くな、マスター!」
後方から不意に聞こえてきたカイトの叫び声。一瞬だけ振り返ったその先に、カイトを置いて裸足で駆け出した律がいた。俺たちとの距離から見て、今までカイトと一緒についてきていたのか。距離はあるが、このまま追われ続けると律まで危ない。カイトが俺たちに追いつくまでに捕まえてくれれば問題はないが、どうなるかはわからない。
追ってくる律を視界から外すのと同時に、律が追ってきているという事実を思考から除外する。これ以上何かを詰め込むと今にも動けなくなりそうだ。一点に集中しなければ、竜一さんを止められる気がしなかった。今は、彼を助けることだけを考えていればいいのだと・・・俺は、俺自身に言い聞かせて走り続ける。
赤く点灯を始める、踏切の警報機。竜一さんが一足先に線路の上で足を止めた。
ここの踏切はやってくる電車側からはほとんど見えなくなっているが、今回はそれがこの終わりを呼び寄せる。ざわざわと木々が嫌な風を運んでくるようだ。電車は、あの木の陰からやってくる。
間に合わないかもしれない。だが、必死で足を動かしながらもう一度だけ振り返る。
ずっと鳴り続けていたサイレンを止め、パトカーが律と俺たちとの間を裂くように現れて止まった。これで律はここへは来れないだろう。少しばかり安堵して視線を元へ戻す。
ゆっくりと流れる時間の中で、竜一さんの両肩が下がるのが見えた。それが安堵からだったのか、自分が傷つけてしまったものへの謝罪からだったのかはわからない。ただ、俺の目に映ったその人の表情はすごく穏やかで、胸が痛くて泣きそうになった。全てを終わらせると決意して空を見つめる目が、穏やかすぎて。本当にこの人は決着をつけるつもりなのだと否が応でも思わされた。
遮断機が竜一さんの顔を一瞬遮って、俺の行く手を阻むようにおりてくる。よく響く、カンカンという警告音。
徐々に迫る遮断機の下をどうにか滑るように潜り抜け、竜一さんの元へ。
「――っ!! ――!」
遠くで律の叫び声と思しきものが聞こえてくるが、それはものすごいスピードでやってきた電車のブレーキ音で掻き消える。
急停止という突然の命令を拒みながら、甲高い声を上げて突き進んでくる電車。それが見えてからは、世界がスローモーションになった。時間が止まりそうなほど遅く、断末魔の悲鳴のような叫び声を上げながら走ってくる電車でさえ、ほんの少しずつしか進まない。
俺の気配を感じたのか、竜一さんは振り返り様驚いたように俺を見て、ふっと笑みを浮かべた。それは聞き分けのない子どもを優しく諭すような表情。
電車があと数メートルと迫る(いや、実際はもっと遠かったのだろうが)。
竜一さんや竜二さんから見れば、確かに俺なんてまだまだ子どもなのだろう。だが、譲れないものはある。
「隆司くん、駄目だよ。君は律を守ると約束しただろう?」
近付く悲鳴の中で鮮明に聞こえた優しい声に、視界が滲んだ。
電車が尚も迫る。竜一さんが俺の胸を強く押して線路から遠ざけようとするのを、その腕を何とか掴んでバランスをとり、ぐっと一度唾を呑んだ。
「なら・・・! 竜一さんがいなくなったら困る!
律を一番守りたいと思ってたあなたがいなくなったら、
律が一番そばにいてほしいと願ったあなたがいなくなったらっ・・・」
いなくなったら、の後は何が何だかわからなかった。確かに叫んだはずの言葉は衝撃と視界が真っ暗になるのとで消え去る。そして、間近で鼓膜を突き破りそうなほどに響いた甲高い声。重なって聞こえる律の悲鳴。
鈍痛。
咄嗟に手を伸ばして引っ掴んだものは、一体何だったのだろうか。その後、何故だか温かだったのは覚えている。
世界が回って、痛みが全身を襲っていた。わかったのは、その程度のことだった。
何故だろう――カイトがまた迷宮に入り込み、律が・・・泣いているような気がした。
→ep.39 or 39,5
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