その後、ほかの隊員達にも手伝ってもらい、リュウトは助け出され、病院へ運ばれた。
レンは救助活動をしながら、リンを探し、そしてカイトの情報も集めた。
意外にも、カイトの姿を目撃した人物は多かった。口を揃えて皆、「いつものカイト様じゃない」と言う。
なにより気になったのは『不思議な力』を使っていた、という事だ。
剣を掲げ、何かを呟いたかと思うと、突然建物が破壊され、火の手が上がったという。
「あれはまるで……そう、魔法のようだった」
「魔法? 神の力といわれる、あれか?」
とある若者の言葉に、レンが訝しげに問う。
古代の人々はかつて、神々と共に暮らしていたというのは、歴史で誰もが習っている。神々は人間とは違う力、魔法を操りその権力を示していた。しかし、その力を恐れた人間達は、やがて神々と全面戦争をすることとなり、二百年近く続いた結果、神々が敗れた。
それ以来、魔法は見なくなったという。
「そうとしか考えられないよ。手品ってレベルじゃないんだ。辺りの建物みんな一瞬にしてドーン! だぜ?」
「……それが本当だとしても、魔法は歴史上の話だし、人間には扱えない力だ。きっと、なにか仕掛けがあったんだろうな」
「仕掛けなんてする暇なかったぜ? 来ていきなりだったからな」
話を信じてもらえない事が不服なのか、やや口を尖らせて言う。
「……そうか。情報ありがとう」
笑顔でそう言うと、レンは手持ちの荷物から甘芋一個と金貨一枚を取り出し、若者に渡す。
「ああ、どういたしまして♪」
それだけで機嫌が治ったようで、若者はそれを受け取ると嬉しそうに去って行った。
それに反して、レンの表情は冴えなかった。相変わらずリンは見つからない。それどころか、リンに関してはまったく情報が入ってこない。
加えて、カイトの情報ばかりだ。しかも理解しがたい話だらけで、正直レンは参っていた。
「実はカイトは生きていて、インタレア軍に寝返って、しかも魔法のような不思議な力でノルクトンの街を破壊していってるだって……?」
まとめるとそんなところだろう。思わず首を振る。カイトが生きていたとしても、この国を攻撃するなど、あり得なさすぎる。とても信じられない。
レンはふらふらと、歩き出した。
(今日はもう戻ろう。王宮へも行かなきゃ……)
考えるのをやめ、レンは隊員達の待機場所へ足を向けた。
ドゥゥン……!
「!?」
それはレンの後方から、聞こえた。音だけでなく、悲鳴も混じっている。
すぐにその方向へ走り出す。そう遠くはなかった。
ドガガガァァンッ!
何かが砕け散る音と共に「うあああ」「逃げろぉ!」「きゃー!」とあちこちから悲鳴が上がる。
逃げてくる人々とは逆の方向へ走るレン。
ひとつ角を曲がると、あちこちに火の手が上がっている。倒れ、瓦礫に押しつぶされてる人間もいた。
「……っ」
思わずレンは顔をしかめる。
「カイト様! やめてください! ぐあぁっ!」
近くで、男性の声が響いた。レンのいるすぐ裏手のようだ。
急いでそちらへと回る。
しかし、そこには倒れ伏している男性が一人。カイトの姿はない。
「大丈夫か?」
駆けより、男性に声をかける。
「……れ、レン様……カイト様が……」
男性は前方を指さし、そのまま力尽きた。
「おい! ……くそっ……」
舌打ちをして、レンは立ち上がる。動かなくなった男性に、簡易的な祈りをささげると、彼が指さした方へ向かった。
「カイト!」
どこにいるかも分からない親友の名を呼ぶ。
「本当に、カイトが……」
ぼそっと、ひとりごちる。信じたくない気持と、カイトの生存を確かめたい気持ちとで、複雑な焦りがレンを襲う。
「カイト! いるのか!? オレだよ! レンだ!」
破壊され、あちこちが燃え盛っている街中を駆けながら叫ぶ。
[……レン、帰ってきていたのか。思ったより早かった]
「!?」
反響して、どこからか聞き覚えのある声が響く。レンは思わず足を止めた。
辺りを見渡すが、その姿は見えない。
「カイト! 本当に、カイトなのか!?」
今にも落ちてきそうな黒い空に、レンは叫んだ。
「一体、どういうことなんだよ!? 特別隊はどうしたんだ? なんで姿を見せてくれないんだ!」
[特別隊は、俺が全滅させた]
「――!?」
間をおかず即答され、レンは目を見開く。
「――な、なん、だって……?」
[全ては、メイコの為だ]
その声に感情はない。さらっと言ってのける。
一方、レンは動揺を抑えられない。
「まさか、メイコさんはインタレア軍に捕らわれているのか? それで、インタレアの言いなりになってるのか?」
[……]
レンの質問に、カイトは答えない。
「そうなら、本当の敵はインタレアじゃないか! なんで、こんなこと……」
[俺はインタレアのおかげで神の力を手に入れた。これで、全てを手に入れる事が出来る]
「神の力だって……? 何言ってんだよカイト? どうしちまったんだよ!?」
頭の中が、ぐちゃぐちゃになりそうだった。レンには正直、カイトが何を言っているのか全く理解できないでいた。
[信用していないな? ここからでも、俺はお前を攻撃できる]
カイトの言葉が途切れた、その時――
ガガガァァン!!!
「――っ!!」
レンのすぐ右の建物に、雷が落ちる!
思わず腕で顔を覆うが、爆風に吹き飛ばされ、倒れる。
瓦礫の破片が、レンの身体のあちこちに傷をつけた。
[すごいだろう? 今はわざと狙いを外した。もちろん、直接当てることもできる]
脅しともとれる発言をしてきた。レンはふらふらと立ち上がる。
「……本当に、ノルクトンの、敵になったのか……?」
グッと胸が締め付けら得るのを感じるレン。憤りよりも、悲しみが強かった。
そんな少年の気持ちなど知らず、カイトは変わらぬ口調で答える。
[この国は、他の国にとって脅威になりうる。それは即ち、俺の脅威でもある]
「だからって……ここは、カイトの故郷だろ!? なんでこんなことできるんだよ!?」
声が裏返り、それでもレンはその想いを響かせる。
「レン様ー!」
カイトの返事が来る前に、レンの後方から声がかけられる。振り向けば、一番隊の隊員数人が駆けよってきていた。騒ぎを聞きつけてきたのだろう。
[――ここまでか]
それに気づいたのか、カイトの声。
「ま、待ってくれ! まだ話は――」
[レン、次に会う時は、覚悟するんだな。それから、リン達の事は諦めろ。もうここにはいない]
「!!」
全身から、血の気が引いていくのが分かる。レンはその場に、膝を落とした。
その言葉を最後に、カイトの声はもう聞こえなくなっていた。
どうしてこんなことになってしまったのか。
きっと、それを知る者はいないのだろう。
神様くらいだろうか?
しかし、その神の力を手に入れた者がいる。
なら全てを知っているのだろうか?
噂なのか真実なのかはたまた嘘なのか。
何を信じて、何を疑えばいいのか。
元の孤児どころか、何もかもがなくなった、真っ白な状態にリセットされたような気分だった。
一体、自分はなんだったのだろうか?
何かもが分からない。分かっても、何が出来るんだろうか?
ぐるぐるとループする疑問と感情が、少年の精神を蝕んでいる。
王宮に用意されている、第一騎士団の施設内に、レンはいた。
レンは抜け殻のようになり、しばらく自室に籠り、寝込んだままだ。
その間、回復したリュウトがレンの世話をしていた。
話は、だいたいレンから聞けていた。話したくなさそうだったが、レンの様子があまりにもおかしいので、聞かずにはいられなかったのだ。
「……レン様、朝食をお持ちしました」
優しく話しかける。しかし、レンは起きてこない。
家族と、親友と、国の人々と。レンにとって全てと言える大切なモノたちがいっぺんに失われ、そのショックは相当なものだろう。
リュウトには、レンに与えられる言葉などなかった。だから、せめて傍にいてお世話をすることで、精一杯の気持ちを伝えたかったのだ。
「冷めないうちに、おあがり下さい」
小さなテーブルに、朝食が乗った盆を置く。そして、傍にあるイスに腰掛けた。
ちらっと、ベッドを見やる。レンはこちらに背を向けて布団をかぶっている。
普段は結ばれている長めの髪が、白い枕に投げ出されキラキラと光っていた。
視線をテーブルに戻す。その目が僅かに揺れる。
少しの間の後、リュウトは意を決したように口を開く。
「……レン様、昨晩、街の外を見回りしていた兵士から聞いた話なのですが……」
そこで、一瞬口ごもる。再びレンを見るが、先ほどと変わった様子はない。
現在は、インタレア軍からの攻撃はない。一番隊が戻ってきた事により、警戒しているのだろう。ノルクトン側も厳戒態勢を引いている。
その為、王宮内では様々な情報が入ってきている。リュウトも、それを耳にしたのだ。
「――カイト様の姿を、スラムで見たそうです」
レンの身体が、僅かに揺らぐ。
「この事をお伝えしようか、迷いましたが……お気を悪くされたら、申し訳ございません。自分は、カイト様を救えるのはレン様しかいないと、思っております」
伏し目がちに、リュウトはゆっくり話す。
「ですから、カイト様の情報はレン様にお伝えした方がいいかと、思いまして……」
テーブルに置かれた朝食は、まだ湯気が上っている。リュウトはそれを見つめながら、
「今はやや落ち着いていますが、いざという時は皆、レン様の力を頼りにされています。しっかりご飯を召し上がられて、ゆっくり御静養ください」
そう言って、リュウトは立ち上がった。すると、
「リュウト」
レンの声がかかる。見ると、レンは上半身だけ起こしていた。
「……ありがとう」
その表情は冴えていないが、瞳に宿る僅かな光を、リュウトは見た気がした。
リュウトは笑顔で会釈をし、レンの部屋を出て行った。
数日後。
レンはすっかり廃れてしまった街中を歩いていた。
あの日と同じ、どんよりとした天候。微かに小雨も降っている。
何度か、インタレアからの攻撃もあったが、勢力を整え始めたノルクトンはなんとかまともに応戦出来ていた。
そして、そのたびにカイトの情報も入る。どうやら、スラムに潜伏しているのは間違いがなさそうだった。
立ち止まり、腰に下がっている剣を徐に抜く。黒い雲を背景に、その白い刀身が映える。
「……」
渦巻く感情は、さまざまな絵の具を混ぜきってしまったかのように、黒く――しかし、穏やかに澄み切った綺麗な黒になる。
(この手で、カイトを――)
柄を握る拳に力が入る。
(裏切りの悪に染まった、親友を――)
はたして、出来るのだろうか?
「……全ての答えは、会えば分かる――」
ぽつりと、呟く。
そして、見えない壁を打ち壊すかのように、その剣を振り下ろした。
瞬間、雨が止む。
正面を見据えるその目は、どこか虚ろで、しかし覚悟に満ちていた。かつて宿していた、漆黒の瞳をのぞかせながら。
そして、再びゆっくりと歩き出す。
全てが始まったスラムへ、全てを終わらせに。
[二次創作小説] Lost Destination 「3.崩れゆく者たち」(2/2)
150P様の「Lost Destination」(レン&KAITO Ver)http://www.nicovideo.jp/watch/sm17436670 に聴き惚れ、PSP版DIVAでエディットPVを作成し、それに付属する小説も書いてしまいました。
※自分の妄想突っ走り小説なので、歌詞の本意とは異なります。
よろしければエディットもご覧下さい。http://www.nicovideo.jp/watch/sm18860092
長いお話ですが、よろしくお願いします。
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