「ここが、鏡音の家か……」
ピアプロの敷地内の中でも「住宅街」と揶揄される、ボカロや一部のピアプロ会員たちが住むマンション群が建ち並ぶ一角に、どこか場違いの感すらある一軒家が幾つか建っている場所がある。初音ミクを始めとする、俗に言う公式ボカロ達が暮らしている家々だ。
その一つ、表札に「クリプトン公式」と刻まれた、一般的にもかなり大きな家の前で、俺は何気なく呟いた。
「別に、鏡音姉弟だけが暮らしてる訳じゃないけどね……はぁ……私やっぱり帰っていい?」
「ここまで来てまだ言うか……」
そして俺の横で溜め息を漏らしたのは、さっきから下手したら俺以上にテンションの低い雑音。
何故彼女がここにいるかと言えば、別に「雑音も招かれたから」とかそういう理由があった訳ではなく、俺の必死な土下座とびんぞこからの指示があっての事だった。それでも渋ったので、びんぞこの野郎が勝手に「不可能な事でない限り、一回だけ俺に言うことを聞かせていい」というメリットを持ち出し漸く頷いてくれた。
そこまでして連れて行く必要があるのかと思う人もいるかもしれないが何せ相手は大声を出そうとしただけでタックルを繰り出してきたバイオレンス少女だ。流石に向こうも殺そうとはしないだろうが、もしもの事を考えて制止役を連れて行くのは間違いではないだろう。
……と思ったのだが、この有り様で本当に役に立つのか。心配になってくる。
「……つうか、なんでお前そんなに初音ミクに会いたくないんだよ?」
確かに元々彼女は初音ミクに敵対する存在という設定だが、あくまでそれも設定に過ぎず、似たような立場の外れの方はプライベートではむしろ初音ミクとは仲がいいという話も聞いた事がある。
とすれば、彼女がポスターを見るだけで不機嫌になる程初音ミクを嫌っている理由はなんなのだろうか。
「嫌いって言うよりはなんていうか、苦手なのよね本家は……あ、でも量産化祭が接近してる今なら本家もきっと忙しいわよね……だとすればいないかも……!うん、きっといない!!」
「いや、俺も会える確率の方が低いとは思うが……」
そこまで会いたくないのか……
「よし、じゃあさっさと行ってさっさと済ませるわよ!さあ早くチャイムを押して!!」
「いや、お前が押せばいいだろ……」
急かされドアの横のチャイムを押すと、その上のモニターに鏡音レンの顔が映し出された。
『おお、アンタか。あれ?雑音も来てるのか?』
「ああ。入っていいか?」
『ちょっと待って、雑音もゲスト扱いにするから』
「ゲスト扱い?」
意味が分からず聞き返すと、レンは作業をしながら説明した。
『ああ、そうしないとセキュリティに引っかかっちゃうんだよ……よし、これでもう入っていいよ』
「そうか、わかった」
この家、見た目的には分からないが……実際はかなり頑強なセキュリティが張られているのだろう。考えてみれば、超有名アイドルが6人も暮らしてる場所なんだからそうでない方がおかしいというものだ。
レンに案内され、俺と雑音はリビングらしき部屋の前までフローリングの床の上を歩いた。
「リンー、ミク姉ー、シグと雑音が来たー」
「ミクゥ!?」
レンの呼びかけを聞いた雑音が、なんだか形容しがたい表情になる。
……ドンマイ。
「ちょっと待って、今ムリ!」
「ムリって……あ、入っていいよ二人とも」
「あ、ああ」
リビングに入り、レンの上からリビングを覗くと、テレビゲームをする二人の少女の姿が見えた。
やっているのは最近人気の対戦型リズミカル格闘ゲーム「シンガーソングバトラーズ フォルティッシモ」のようだ。
初音ミクの操るキャラ「ポップマスター ミライ」がリンの操る「エレクトロクイーン リンメル」を巧みに追い込み、やがてHPを削りきった。
「ぐあー、また負けたぁー……ミク姉上手すぎー……」
「リンはリズムコンボを狙い過ぎなんだよ。確かにフルコーラスを完成させられれば強いけど、隙が大きい旋律技を連続するよりは敢えてワンコーラスに留めたり、通常技を混ぜてハミングにしたりする工夫をしないと……」
「うーん、難しい……あ、シグに雑音久し振りー」
「あれ?誰か来てるの?」
「……」
なんかすっごいどうでもいい感じの声のトーンで手を振るリンに、もはや気づいていなかったらしい初音ミク。
急激に危機感が殺がれていく。
「……私帰る!!」
「だめー」
雑音が逃げようとすると、背後のドアがいきなり閉じた。雑音がドアノブを掴んでガチャガチャやっているが、動かせない。
……どうやら俺達にはここから出る事すらできないらしい。
「もう、リンちゃん!それは犯罪者対策なんだからあんまり起動しちゃ駄目だよ!!……ごめんなさい雑音ちゃんに、えーと……」
「語音シグだ」
「あ、はい、すみません、ゆっくりしていって下さい」
リンを叱ると初音ミクはぺこりと頭を下げた。
そういえばボカロから敬語を使われたのは初めてだ……なんだか感慨深い。
「……なんであんたがいんのよ。この時期忙しいんじゃないの?それとも仕事が嫌になっちゃった?」
「いえ、前一回暴動が起きてから、祭の前は活動を自粛してるんです。怪我人が出るといけないので……」
雑音の明らかに良い感情を抱いてはいないと思わせる一言に、ミクはたじろぎもせず答えた。表情も軟らかいままだ。
う……といった感じで雑音は押し黙る。なんというか、苦手と言っていた理由がわかった気がする。
「よし、じゃあ二人も来た事だし……ゲームやろうか!!」
リンは楽しそうに言った。ドライブのドの字も出す気配はない。忘れているのだろうか……いや、その方がありがたいんだが、そうなると本当に雑音に来て貰った意味がない。
なんか、本当ゴメン、雑音。
「家の人以外と戦うなんて久々ー♪あ、操作方法分かる?」
「勿論だ……言っておくが、俺は、強いぜ?」
カーペットの上にあぐらをかき、使われていなかった3Pコントローラーに手を伸ばす。
雑音には悪いが、ロードローラーで追い回される心配が減ったのもあり、俺は一気にモチベーションが上がっていた。
(かつては不撓不屈の重戦士と呼ばれた俺の実力……見せてやろう!!)
コメント1
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ご意見・ご感想
絢那@受験ですのであんまいない
ご意見・ご感想
おおっ、ミク!
ていうか雑音!ミクに会ってその反応私はあり得ないと思うのだが!
クリプトン公式の家…行きたいなあ。おいシグ、連れてけ←
行くにはまずは2次元に行かなければ…よし、液晶を割るぞ!(冗談ですすみません)
2011/05/26 21:52:20
瓶底眼鏡
はい、なんだか最近自分が読んだ小説ではなぜか悪役な事が多い彼女です←
雑音さんだからこそできる反応ですな……ていうかシグもあんまり驚いてないが自分が実体化初音さんにあったら卒倒しそう←
シグは「連れてけって言われても……」と困惑していますが←
ダメですよ液晶を割っては!くぐり抜けなくては!!←
2011/05/26 22:24:53