祭囃子が響き渡る。
賑わいを見せる祭会場。
そこから少し離れた人通りのあまりない柳の木の下で、俺は辺りを見渡していた。
しかしなかなか待ち人は見つからない、何かあったのだろうか…。
ポケットから携帯を取り出し、通話ボタンを押そうとしたとき、自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。
「那央ごめんっ!」
自分が見ていたのとは反対の方向を向くと、小走りで俺のもとに駆け寄ってくる浴衣を着た女の子。
「遅いぞ、凛」
身に纏った黒地の浴衣には、赤と黄金色で鮮やかに描かれた大きな花。
彼女が待ち人である凛だ。
「ごめんごめん、着るのに時間かかっちゃって」
「あ、そんなことだろうと思った。とりあえず行くぞ、花火始まる。ほら」
左手を差し出すと、そっと重なる右手。
それをぎゅっと握って人ごみの中に入っていった。
向かうのは溢れかえるここを通り過ぎていくらか歩いたところにある静かな小川。
そこに架かる小さな橋の上で一緒に花火を見よう、そんな約束をしていた。
「そういえばその浴衣、」
「え?」
「すごく似合ってるよ」
「っ…あ、あり、がと…」
自分の手が熱くなっていくのを感じてちらりと横を向くと、顔を真っ赤にしている彼女の姿があった。
それがすごく可愛くて、思わず唇にキスを落とす。
「ははっ、顔真っ赤」
「なっ…那央がキスなんてするからでしょ!!」
くすくすと笑っていると、繋いでいた手を無理やり離して距離をとられた。
「ごめん、凛があまりに可愛くてつい」
「もう……あ、」
背を向けていた凛が振り返る。
その直後、大きな音が鳴り響き、空がふわりと明るくなった。
「わ、始まったね!」
色鮮やかな花火が次々と咲き誇るのを嬉しそうに見上げる凛。
夏休み最後の思い出を彼女と作れてよかった、なんてクサいことを頭の中で考えてみる。
だけどそれ以上の思い出は俺にはなかった。
「来年も、また一緒に来れるといいな……凛?」
ぽつりとそう零したとき、背中に感じるぬくもり。
「どうした?」
「那央、このまま聞いてね?」
花火の音にかき消されそうになる彼女の声に、静かに耳を傾ける。
「私ね、今日那央と一緒にここにくるの、すっごく楽しみにしてたんだ。綺麗な着物着て、慣れないお化粧も頑張って、可愛い姿で那央に会いに行こうってずっと思ってた。だから那央が似合ってるって言ってくれて、すごく嬉しかった…」
「おい、どうしたんだよ…」
必死に声にした彼女の言葉はまるで別れの言葉のようで、振り向きたいのになぜか自由が利かなくて、ただ無力に立ち尽くしていた。
「最後がこんなに幸せだなんて、嬉しいはずなのに、なんか寂しいや…」
「なんなんだよ……行くな…行くな凛っ!!」
「ごめんね那央…ばいばい…」
背中のぬくもりが、徐々に消えていく。
「凛っ!!」
魔法が解けたかのように体が軽くなった。
だけどその時はもう遅くて、振り向いた先に彼女の姿はなかった…。
呆然と 立ち尽くす俺を現実に引き戻す一件の着信。
ディスプレイには幼馴染の名前。
「何、」
(那央、落ち着いて聞けよ)
「だからなんだよ」
(凛が事故で死んだ…お前に会いに行く途中…)
花火の音がうるさくて、微かに聞こえる祭囃子が耳障りで…
彼女の声以外
全ての音が雑音にしか聞こえない
最後に彼女の顔を見たのは、花火のような笑顔で
最後に俺が彼女の声を聞いたのは、悲しい悲しいばいばいで
最後に見たのは
誰もいない橋の上だった…
その日から俺は、夏が嫌いになった…
Fin.
*-*-*-*-あとがき-*-*-*-*
ありきたりなネタかとは思いますが、どうしても書きたくて
季節はずれなものを書かせていただきました。
以前書いた物より暗くなったかも…
最後まで読んでくださってありがとうございました。
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