「やっぱり、二次元に限るわっ」
目元を真っ赤にしたリンは、勢いよく立ち上がるとそう叫んだ
隣で、携帯ゲームをしていた友人のミクはびくりっと肩を揺らした
「もー、突然叫ばないでよー!」
「もう恋愛は二次元に限るよねっ! ね? ねぇっ!?」
リンはミクの肩を力強く掴み、同意を求めようと鬼の形相で
ミクはぶるぶると震えながら何度もうなづいた
「だよねー、どうしてさー、もー」
「よしよしっ」
リンはつい数十分前に、今週で海外へといってしまう先輩に
二年間思い続けた気持ちをぶつけた
しかし、それは好みではない、という簡単でとても重いその言葉で打ち砕かれた
今まで恋愛ゲームに没頭、ゲームやキャラグッズについ混んでいたお金を
全て自分を変えようと、服や化粧代に替えた
それも全て泡になり無意味だと気づかされた
「ミク、それ貸せっ」
「ぇ、ってちょっと待って今愛しのガクトくんルートなのおおおおおおおおおお」
「いいじゃない! 目の前に心を痛める乙女!
そして心満ち足りてる貴方の手には癒しの二次元イケメン! 貸してよっ!」
「だぁめえぇ! お願いだから、ガクトくんルートだけは誰にも渡さない!」
「いーわよ、いーわよ! 自分で買ってくるわ! 二次元に引きこもってやるっ!!」
リンはうっすらと浮かぶ涙を勢いよく拭うとバックを引ったくると
廊下を走る音が聞こえ、それと同時に教師の怒声も聞こえた
「待っててーとか言っておいて、待たせておいたくせに、先に帰るとかひどっ
ってああああああああ、ガクトくんの萌えイベント見逃したああああああっ」
ミクは一人携帯ゲームを握りしめ、ぐずぐずと鼻を鳴らした
学校を飛び出した、リンの足取りは引き寄せられるように向かっていった
そこは久しく感じる行きつけのゲームショップだった
「いらっしゃいませ、って久しぶりだな、リン」
店に入るとすぐに、黄色のとんがり頭が視線に入った
今一番会いたくないっとリンは思いながら俯きながら、女性向け恋愛ゲームコーナーに足を運ぶ
レンはリンの母親の親友の一人息子で、二人は本当の姉弟のように育てられた
ただ、なぜか昔からレンの心配性だけのその性格だけは今のリンにとってはありがた迷惑だった
「目元赤いけど・・・・・・どうした?」
無言でゲームを物色するリンにレンは首をかしげた
目元が赤い、きっとどうしたんだ、と聴いてくるだろう、横から顔をのぞかれそうになった瞬間
レンはレジ前に居る客に呼ばれ、後ろを振り向きながらも客の対応をした
その間リンは新作ゲームと中古を二本抱え隣のレジで会計を済ませると、家路を急いだ
「久しぶりの感触・・・・・・そしてビバイケメン、いいっ!」
数時間前のことなんて、なかったかのようにリンはゲームに没頭した
異次元世界でヒロインが愛を育みながら世界を救う、とありきたりではあるが
イラスト良しストーリーと良し、リンはあっさりとその世界に取り込まれていった
しばらくすると、トントンと扉の叩く音にヘッドフォンを少しずらす
いいシーンであり、リンは不機嫌な声をあげる
「なぁに」
「リン? 今、いいかな?」
レンだった、バイトが終わりきっと晩御飯でも食べに来たのだろう、と
長年の事柄すぐに思いついた
そして、心配性のレンの事だ、先ほどの目が赤い理由でも聞きに来たに違いないだろう
「ご飯、だけど・・・・・・」
「もう少しで行くから」
「う、ん、あのさ・・・・・・なんかあった?」
「別に」
「・・・・・・なんかあったら、相談しろよ?」
相談なんて出来るはずもなく、返事をせずにいると
リンの返事を待っていたのか、しばらく見つめていたレンは静かに扉を閉めた
「今年は新しく浴衣を買おうと思うんだけど、リンはどうする?」
食事中、年がいくつも離れたリンの姉であるメイコが言った
何のことかは、聴かなくても分かる
それは明後日、近所の神社で行われるお祭りの話であろう
毎年楽しみにしていたけれど、今はそんな会話に混ざる気もいく気も起きないわけで
「どーでもいー」
「あっれー、どうしたの? 毎年楽しみにしてるのに」
「良いじゃん別に」
「なによ、その態度」
先ほどまで楽しい会話に包まれていた食卓は気まずさに包まれる
レンは左右に居る二人の顔をおろおろとしながら見ている
しばらくすると、リンは小さくご馳走様とだけ呟いて部屋へと戻っていった
「リン・・・・・・」
「ほっときなさい」
レンの呟きに、メイコもふてくされながら野菜炒めをほおばった
「かっこいー、二次元に入りたいよ、影斗くん」
画面の中に居る無表情なキャラクターが話を進めるごとに笑顔を見せる
その顔にリンの表情も柔らかくなっていく
やっぱり、二次元しかない、現実になんて目を向けるのが間違えだったと改めて実感させられていた
「お祭り・・・・・・行きたいな、りんごあめ食べたい、たこ焼き食べたい、射的やりたぁい」
枕に顔をうずめるリン、さっきまで行く気はなかったけれど
毎年行ってたあの楽しい空間にはやっぱり叶わない
最後の頼みであるミクに誘いのメールを打った、しかし数分もしないうちに来たメールには
バイトがあるので行けない、涙を流した顔文字と共に送られ最後の繋ぎも打ち砕かれた
「影斗くーん、お願いだから出てきてー」
―無理、だよ、ぼくは・・・・・・―
なんともバットタイミングなその台詞にリンは大きな大きなため息をついた
携帯ゲームを手にしたまま、ベットをごろごろと転がっている
「メール?」
携帯を開くと、レンからのメールだった
―今日は帰る、明後日迎えに行く―
内容のない簡単すぎるメール、しかも明後日祭りの日に迎えに来る
気を使っているのだろうか、よく分からないけど
「まぁ、いっか」
兄のようで時々弟のような存在であるレンからの誘い
一瞬ドキっとしたものの、今思えばミクと会う前はレンと一緒に行っていた事を思いだす
―暇人につきあってあげますよー―
そう返信し、明日浴衣を買いにくいであろうメイコにくっついていこうと決めたのだった
翌日は浴衣を新調しにいくメイコについていき、オレンジ色の生地に様々な色の花が咲いている
一目ぼれした浴衣と髪飾りを買った、財布的には少々きつかったがリンは満足していた
帰り、母親に少々長い丈を調節してもらい、夕食後リンは姿見の前で浴衣を羽織
満足げに袖を振り、くるりっと回転してみたり、小躍りを始めたり、笑顔にあふれていた
「たのしみいいいいいいいっ」
ぼふっと、ベットに飛び込み、浴衣を羽織っていたのを思い出し飛び起きると
ハンガーにかけ、それを見つめながらベットに転がる
「は、はずかしいなぁ」
電話越しの楽しげな声で最終確認をされ、レンは頭をかいた
家に帰ると、まるで待っていたかのように携帯がなった
耳元ではごちゃごちゃと文句を言いながら、何度も念入りに作戦を聴かされた
「わ、わかってる、俺、がんばる・・・・・・」
レンは胸のときめきを押さえながらベットにもぐりこんだ
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