“兎の誘いにのってはいけない
彼は宴への案内人
優しげな表情(かお)で獲物を惑わす
迷いの森の管理人”
二人は森の入り口を目指して歩いた。しかしなかなか入り口は見えてこなかい。そもそも方向はあっているのだろうか。
「少し休もう。」
レンは大きな木に背中を預け座った。その隣にリンも座る。歩き通しだったのでそれなりに疲れは溜まっていた。
「まずいな・・・。もう夜だ。」
空を仰いでレンは呟いた。先程まで朱を残していた空も今では一面を暗闇で覆われていた。まだ辛うじてうっすらと道が見えるのは今日が満月だからだろう。月明かりは遮られることなく二人を照らしていた。
それよりも気になったのはリンの様子だった。あれからリンは一言もしゃべることなくレンについてきている。
「どうした?リン。」
体調でも悪いのだろうか。心配になって訪ねたがリンは首を振った。
「やっぱり、怖いなって。」
そう言って繋いだままのレンの右手をぎゅっと握った。
夜に入った森はさらに静かで虫の音すら聞こえなかった。その上、月明かりがなければ何も見えない闇に包まれるであろうほど辺りは暗い。
レンはそれほど闇を恐れてはいないがそれでも昼の森とは違う異様さを感じてはいた。リンにすればそれら全てが恐ろしいのだろう。加えてあの言い伝えがリンを恐怖の淵へ陥れていた。
「大丈夫。」
普段は気が強く何事にも物怖じしない姉が今はとても弱々しく見えた。レンは決意を込めてリンに伝える。
「リンは必ず、僕が守るよ。この手は離さない。」
「・・・本当?」
ようやく顔を上げたリンにレンは微笑んだ。
「約束。さぁ、早く帰ろう。」
「うん。」
微笑んだリンにレンはほっとして立ち上がった。リンも立って、出発しようとした。そのとき―
「こんばんは。」
後ろから声を掛けられた。
二人はビックリして勢い良く振り返る。ここには自分達以外にはいなかったはずだ。
「お若い二人がこんなところで何をされているのです?」
そこにいたのは“兎”だった。ただし、普通の兎ではなく背筋を伸ばし後ろ足だけで立っている。おまけに派手な赤いスーツに黄色の蝶ネクタイまでつけて。二人は疲れて幻でも見ているのかと思ったが、紛れもない現実らしい。
「これは失礼、驚かれたようで。私(ワタクシ)のような者と会うのは初めてですか?」
どうやらさっきから話しかけてきてるのは目の前の兎らしい。丁寧に一礼され、いち早く我に返ったレンは首を大きく縦に振った。
「左様でございますか。私もこんなにお若い人に会うのは久方ぶりです。」
にっこりと笑った兎は二人に歩み寄った。反射的にレンは一歩後退り、リンを自分の後ろへ隠した。それを意に介した様子もなく兎は続ける。
「こんな月夜に出会ったのも何かの縁。今宵開かれる私共の宴にご参加下さいませんか?」
自分の背とあまり変わらない兎にズイっと眼前まで迫られてレンは狼狽えた。真っ白い顔に浮かぶ紅い目が何だか怖くなり目線をそらす。
「僕たち家に帰らないといけないので・・・」
なんとかそれだけ言って距離をとった。すると今度はリンに向かって兎が喋る。
「随分とお疲れのようでございますし、まだご自宅までは遠いのでは?私共の宴はすぐ近くで行われるのでそこでお寛ぎになられてはいかがでしょう。」
リンは何も言わずに兎の紅い瞳を見つめていた。月が二人の横顔を照らす。
「月に一度の宴ゆえ、とても盛大なものとなりますよ。」
再びにっこりと笑った兎にレンは今度こそ寒気を感じた。リンの手を引きその場を立ち去ろうとした。が、
「・・・いこう、レン。」
「リン!?」
リンが逆にレンの手を引いて歩き出した。兎の方へ。その力強さにつんのめりそうになるが慌ててついていく。
「帰りたかったんじゃないのかよ!?」
「・・・」
まるで何も聞こえていないかのようにリンは答えず歩き続ける。その様子に白い兎はまた笑う。
「では、参りましょう。」
兎が先頭に立ち二人を導く。
深い森の最奥へ。
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