「ルカ先輩!リリィ先輩!プール行きませんか!?」
・・・相変わらずがくこちゃんは突拍子のないことを言う。
血筋は争えない、という言葉がしっくり来るように最近は感じる。
ちなみに今は部活終わりの帰り道。がくこちゃんはナスとは違ってちゃんと真っ直ぐ家に帰るイイ子だ。
「あたし、福引でクロノス・ランドのプール半額券を当てたんですけど、家族で行くわけにもいかないし、同級生に聞いても、陸上部が休みの日ってほとんど部活あるんですよね。だから、先輩達と行きたいなって!」
クロノス・ランドはここらへんで結構大きい遊園地。水着を着たまま園内を歩けるという変わった所だ。
「クロノスかー・・・。その日なら開いてるし、アタシは行く!ルカは?」
「・・・リリィが行くなら、行こっかな」
「じゃあ決まりですね!詳細はメールしますから!」
そう言ってがくこちゃんは自分の家へと続く道へと歩いていった。
さてどうしましょう。
今日はがくこちゃん達とクロノス行く日なんですね。
んで、駅で待ち合わせだったんですけどね。
ちょっと早めに来てみたんですよ。
そしたらね・・・
なぜかがくこちゃんの兄貴がいるんだよおおおおおおおお!!!!
どういうことよ!
しかもなんか浮き輪とか持ってるし!なんでさ!
今日はお前はいないはずだ!そんなの聞いてないわ!
・・・荒ぶっても仕方ない。
私は意を決してがくぽに近づいた。
「あ、ルカおっはよー」
先に声かけんなよ!私の心の準備の時間返せ!
「お、おはよ。偶然ね、こんな所で会うなんて。浮き輪なんて持って、どこか行くのかしら?」
「あるぇー?がくこから聞いてないの?」
何を、と聞く前にカバンの中の携帯が鳴った。
画面には【神威がくこ】と表示されていた。
『おはようございます、ルカ先輩』
「おはようがくこちゃん。さっそくだけど・・・どういうことかな?」
『何のことですかー?あ、今日私ちょっと遅れていくんで!では!』
・・・切れた。なんの脈絡もなく。
しかもなんかちょっとはぐらかされた感あるし!
「ルカ?がくこから何かあったの?」
私の隣にいらっしゃる能天気野郎は私の顔を覗き込んでこう言いやがった。
「あんた聞いてんじゃないの?がくこちゃんが遅れていくってこと」
「あー、タクシーで行くって言ってたけど・・・あ、ルカには内緒にしてって言われてた」
・・・神威兄妹は困ったものばかりだ。
「あ、電車来たし行くよ」
いつの間にか電車が来る時刻になっていたようだ。
電車に乗り遅れないように早歩きで進む。
「ふぃーギリセーフ!」
なんとかがくぽも無事に乗れたようだ。
「・・・ルカさん、無言はキツイっす。なんか喋ってください」
電車に揺られていると、突然がくぽに話しかけられた。
クロノス・ランドに行くまでに最速でも30分はかかる。私たちが乗った列車は快速だから・・・45分くらいだろう。
私はこの45分間、なるべくがくぽと目を合わせないように、話さないように心がけていたけど、ココまで言われるとなんかかわいそうになってくるし、しょうがないから話に付き合ってあげることにした。
「なんでがくぽが来たのよ」
「がくこに『ルカ先輩来るって!』って聞いたから」
・・・がくぽ、あんたよくそんな恥ずかしいことサラッっと言えるわね。
私が黙ったことで、がくぽはそこから一度も話しかけることはなくクロノスの最寄り駅に着いた。
「おはよールカ」「おはよーですルカ先輩!」
クロノスの入り口にいたのはリリィとがくこちゃんだった。
「おはよう、リリィ、がくこちゃん。朝から申し訳ないんだけど、ダブルラリアットしていい?」
「ちょっとルカ・・・目が怖いよ・・・」
「そ、そうですよ、私たち何かしましたか?」
「したわよ!本当にどういうことかしらね!?なんで駅にがくぽしかいなかったのかしら!?」
「あ、あー!それはあれですよ!ね!リリィ先輩!」
「そう!そうだよ!ルカだってサプライズでいきなり目の前にがくぽがどーん!っていたら嬉しいでしょ!」
「・・・嬉しいはず、ないでしょ・・・?」
私はいつの間にか息が荒くなっていたことに気付いた。
すー、はー、と息を整える。少し落ち着いてきた。
「・・・じゃあもう受付は終わってますから入りますよ!」
がくこちゃんがその場をまるーくまとめて園内に入っていった。
「じゃあ俺は先着替えてくるから、先にテラスで待ってろよ」
「合点だよ兄貴!」
がくぽが更衣室に行き、私たちはがくこちゃんを先頭にどこかへ向かっていた。
「・・・リリィ、テラスって?」
しばらく歩いて、プールサイドからは離れたときに気付いた私はリリィに聞いてみた。
「あぁ、なんかがくぽが電話で予約してくれてたみたい。あいつも意外と紳士なとこあるよな!」
「でも兄貴、私には何にもしてくれませんよ。やっぱルカ先輩がいるからじゃないですか?」
「はぁ・・・!?何言ってんのよ!?がくぽが紳士なわけないじゃ」
「誰が紳士じゃないの?」
「ひゃっ!?」
いつの間にか着替え終わっていて私たちの後ろにいたがくぽが、後ろから囁いてきた。
「い、いきなり耳元に来ないでよ!ビックリするじゃない・・・!」
「あーもうルカ可愛い!ね、今日さ、別行動してもいい?休憩所は一緒だけど」
「いきなり何言い出すの!?ダメに決まってるじゃない!ね、ダメよn」
「「お幸せに☆」」
「ありがとさん」
「いやあああああああああああああああああああああ!!!」
・・・私は今日、親友と後輩に見殺しにされました。
なるべくがくぽと一緒に行動する時間を縮めようと更衣室でゆったりしていても、あの2人に追い出され、しぶしぶテラスに戻った。
「・・・可愛いけど・・・」
「かわっ!?・・・いいけどなによ」
「・・・なんで上にTシャツ着てるんだよ!」
コイツは何言ってるのだろうか。
家になぜか私の水着がビキニしか無かったので仕方なく持ってきたけど、やっぱ恥ずかしいからTシャツを着てるだけなんだけど。
「・・・私浮き輪膨らまして行くから。流れるプールに先行ってて」
「えー。今日はペア行動なんだから一緒に行動しないとダメなんだけどー」
「何ソレ初耳なんだけど」
「だって俺が今決めたんだもん!」
あーもうコイツまじムカつく人類でいいと思う。
「ルカー!かーわいー!」
「ちょっと浮き輪に体重乗せないで!沈む!」
「いーじゃーん!それとも俺が浮き輪の中に入ったほうがいい?」
「それはやめて!」
「ルカーこっち向いて!」
「何よ・・・っんな!?写真なんて撮らないでよ!」
「ルカの赤面ゲットー☆」
「・・・」
「痛い痛いから!バタ足やめろ!」
「あーお腹すいたわ。ちょっと休憩しましょ」
「そうだなー。ルカは何食べたい?」
私はお腹すいた、と言った割には何食べたいかは全く考えてなかった。
だからあやふやにするついでに、別行動してる2人について触れてみることにした。
「私は何でもいいわ。あの2人はどうするのかしら?」
「・・・あの2人?あいつらとは帰るまで別行動だよ?」
・・・は、え?
全く言ってる意味が分からない。というか分かりたくない。
何か私の中でふつふつと沸くものがあった。
「ルカー、何食べに行くー?パスタとかあるっぽい・・・」
私の前にいる長髪野郎は暢気にマップなんて見てる。
プチっと、何かが切れる音がした。
「いい加減にしなさいよっ!」
私はがくぽに向かって叫んだ。
「ル、ルカ?どうし」
「あんたはどんだけ私を自分勝手に振り回したら気が済むの!?」
「あんたのワガママにはうんざり!今日だって勝手についてきて!」
「別行動?そんなの知らないわよ!私はがくこちゃん達と遊ぶのが楽しみだったのに!」
「がくぽなんて・・・大ッ嫌い!」
そう言って、がくぽから逃げるように走り去った。
そこらへんの出店で軽く昼食を済ませ、売店をぶらぶらしていた。
・・・1人って、こんなに寂しかったっけ。
って前にも思ったことあるなぁ。
「ルカ!」
ちょっと後ろから声が聞こえた。
「リリィ・・・」
私は親友の胸に身を預け、そのまま泣いた。
「・・・前もあったねーそんなこと」
「うん・・・」
泣き止んだあと、私はリリィにこれまでのいきさつを話した。
リリィはこういうときに凄く頼りになる。
「リリィ。1人って・・・寂しいんだね」
「何?今気付いたの?」
「・・・ばかだなー私」
そして私はため息をついた。
去年の秋にも思ったはずなのに、どうしてかな・・・。
そしたら何故か、リリィが申し訳なさそうな顔をして言った。
「ルカ・・・ごめんね」
「なんでリリィが謝るのさ」
「・・・別行動にしようって言ったの、アタシなんだ。がくぽとルカが少しでも進展すればいいなーって思って。がくこちゃんにもいろいろ根回ししてね。でも、なんか裏目に出ちゃったみたいだね」
・・・私は本当にバカだ。
親友がこんなに私のことを思って行動してくれてたのに、私は・・・。
「・・・ありがとう、ちょっと落ち着いた。がくぽに謝ってくる」
「うん、いっておいで」
リリィにお礼をいい、私はがくぽがいるであろうテラスに向かって走った。
「がくぽっ!」
がくぽは私に大声で呼ばれ、少し驚いた表情をしていた。
「・・・ルカ、俺のこと嫌いになったんじゃないの?」
ちょっと低いトーンで言われ、胸が痛んだ。
でも、ここで謝らなくちゃいけない。
「がくぽ・・・さっきは言いすぎたわ、ごめん」
「・・・うん」
冷たい。
今日の気温は35℃を超してるはずなのに、私の周りの空気はとても冷たかった。
がくぽは興味なさげにどこかの景色を見ている。
このまま、私なんて興味ないまま、どこか行っちゃうのかな・・・。
・・・だめ。やっぱり私には、がくぽがいないと。
そう考えてると、涙が溢れてきた。
「・・・ルカっ!?ちょ、泣いてるの!?」
がくぽが驚いたようにこっちを見た。
「どうした?俺が悪いなら謝るって!」
「・・・私、あんたのこと、嫌いじゃ・・・ないわよ、だから・・・」
「ルカ、」
突然、がくぽに抱きかかえられた。
あまりにも突然だったから、状況が理解できなかった。
「ルカ、俺もさっきは無神経すぎた。あと、ルカが嫌いでも、こっち向かせるから」
「がくぽ・・・ありがとう・・・!」
そのまま、私は涙を堪えながら泣いた。
「そういえば、さっきから鼻息が首にかかるんだけど」
泣き止んだあと、まだ腕の拘束を緩めないがくぽに問いただしてみた。
「・・・ルカの髪いい匂いする」
「バカっ!!」
私はがくぽの腕を外し、頭を一発叩いてやった。
「ふふふ、今日は楽しめましたか?」
クロノスを出る間際、がくこちゃんがそう聞いてきた。
・・・今日は楽しい事ばかりじゃなかったけど、少し、心の荷が降りたかな。
そう言おうと思ったけど、後輩に心配をかけるわけにもいかなかったから、私は笑顔でがくこちゃんの質問に応えた。
「楽しかったわ!がくこちゃん、ありがとうね」
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