アーダムリア教会の鐘が3時を告げる。絶対王政が斃れたというのに、その清らかな音色は変わらなかった。
その音色に呪縛を解かれたように、民衆はざわめきを再開した。

それを打ち消す、石が鉄を噛む音。

「・・・時間だ」
どこか泣きそうなそういったのは、短い茶髪に紅い鎧が鮮やかな女剣士だった。
その名を、メイコ・シェオーリア・ルルフレーヌ。
音に聞こえた剣士であると同時に、この革命の首謀者である。
メイコは石畳に突き立てた自分の剣を抜き、鐘の音と共に現れたそれを差し示した。

―――それは、漆黒の門だった。それまでは簡単に向こう側が見えるアーチだったそれは、ここポーシュリカと《大獄》とを結ぶ門だった。そのまま《大獄門》と呼ばれるその門は、普段は何の変哲もない錆びたアーチだが、《大罪人》を《大獄》に送ることになった時のみ、本来の禍々しい漆黒の門に変わるのだ。
その先には《大獄》が大きく口を開け、罪を犯した者を飲み込んで二度と帰さない。
文字通り死地に赴くというのに、当の二人は平然としていた。
「じゃー行ってくるね、先生」
軽い調子でそう言ったレンに、メイコがばつの悪い顔をした。
「私はもう、貴方の師じゃない」
レンは少し驚いた顔をした。常に男言葉だったメイコが、初めて女らしい言葉使いになったからだ。レンは自然と笑った。きっと、彼女を縛っていた何かが断ち切られたのだろう。自分達が、王家の鎖から解かれたように。
「いいえ、貴女は僕の師です。それは変わりません。というか、変わらせません・・・伝言を頼めますか?」
かつては剣の師と弟子だった二人が、清々しい顔で立っていた。
「カイト・クレイモア・フェルス・ミオソフィリエに、『貴方が《魔女》になれば《歌姫》は目を覚ます』と伝えてください・・・行こう、リン」
レンは王宮にいた頃のように胸に手を当てて一礼した。リンもドレスの裾を摘んで一礼しようとして今の服装に気付き、その真似だけする。
「私達の鎖を断った褒美に、一つの忠告を」
振り返り、リンはその白く細い指を一本立てた。
「権力の側には、常にそれを悪用する者がある。その事を頭に入れておかなければ、貴女の言葉も、意思も、いずれ悪意ある者によって歪むわ―――私が、かつてそうであったように」
メイコの瞳が見開かれる。
「それは一体、どういう―――」
「後は自分で考えなさい? そうね、私達が帰ってくるまでの『宿題』って事で。私達が帰ってきた時、貴女が私の言葉の意味を理解して、誰も泣かなくていい、誰か一人がやってもない事まで責任を取らなくていい、クロイツェルをそんな国にしていたら―――晴れて、貴女は『合格』よ」


《大獄門》が、重く錆び付いた音を立てて開く。
最後に透明な笑顔を残して、二人は《大獄門》を潜った。
メイコが聞き返そうと伸ばした手は、何も掴めず空を掻く。



―――そして、物語は廻りだす。
転がり始めた車輪は、誰にも止める事ができない―――

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【オリジナル小説】ポーシュリカの罪人・3 ~旅立ち~

トゥルリラリラリラヒャッホーイ!
期末試験終わりました! 零奈です!

・・・ちょっと今はハイテンション過ぎるので、頭冷やしてきます。


ちゃんと頭冷やしました! 零奈です。
相変わらず悪ノです。きっとずっと悪ノです。
そして初の鏡音以外のタグが付きました。
コンチータ様で登場予定だったMEIKOさんですが、紅い鎧の女剣士で登場です。
いろんな人の作品が微妙に混ざってます・・・すいません。

今までがプロローグにあたります。次からは《大獄》での本編になります。
二人がどうなるのか、追いかけて読んでくれると嬉しいです。

閲覧数:309

投稿日:2010/12/13 21:49:03

文字数:1,235文字

カテゴリ:小説

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