「今日からKAITO君というロボットが導入されることになりました!」

老人ホームに連れてこられた僕。嬉々として通りのよい大きな声で看護師さんから紹介を受ける。
なんでも、製造元がVOCALOIDの活動分野を増やしたいとのことで記念事業らしい。他のKAITOは個人向けに出荷されているというのに、大多数のおじいちゃんおばあちゃん達に囲まれるというのはKAITO型の中でも、一風変わった立ち位置の生い立ちに当たるだろう。

「はじめまして!KAITOって呼んでください。名字はありません」
「得意なことは歌です。作業療法士さんと一緒にみなさんとコミュニケーションをとるのが楽しみです」
「よろしくお願いします!」

車椅子や杖を付けたパジャマや部屋着姿の高齢者達に混ざると、青色が鮮やかで身長のあるKAITOはとても目立つ。みんなの注目を一身に受けて懸命に声を張り上げた。

「先生、どんな歌歌うんだ?」

「えっ?僕は先生ではありませんよ」

「白衣着てるやつは全員、先生って呼ぶことにしてるんだ」
「薬剤師、看護助手、看護師、介護士でも。みんなそうさ。覚えられなくてな」
「だから、よろしく!よっ!先生!」

どぎまぎしつつ、なんだかマスター呼びと似ている仕組みだな、と他のVOCALOIDの二人称を思う。想像以上にご老人が元気でパワフルなのでKAITOは少々面食らった。

「あの、僕の服は白衣では多分無いのですが……。」

「そんなわけあるめぇよ」

「あれ、自分でも白衣に似てるって17年周年目に気が付きました」

「17年?ロボットにも歳があるのか」
「孫も大きくなったらそんな髪にするのかねぇ」

今度はご婦人が話しかけてきた。ニューフェイスに興味津々な様子だ。

「かいと、ってどう書くの?」

「えっと、ローマ字で書きます」

「私の手のひらに書いてちょうだい」

「はい!五文字あります」

「怒らないのね。ふふ、触れて欲しくてそう言ったのよ。ロボットなのに冷たくないのねぇ」
「イケメンの歌にあるでしょう?テレビで見て聞き惚れちゃった」

「同じお名前なのではなく……?あぁ!それも歌えますよ」

自分の価値を発揮しようと歌い出した。

「うっせぇわ!」

「すみません!」

「そうじゃねぇ、歌ってくれ」
「♪あなたが思うより健康です、っていうのが結構なんで人気あるんだよ。知ってるか?」

またしてもKAITOは何を考えてメーカーが送り込んだのかと思っていたが、案外歓迎ムードであった。

隣で作業療法士がウインクでもする勢いでニコニコしている。

「音楽療法っていうのがあって、それに目をつけたんだ」
「懐メロだけじゃなくて、みんなテレビやラジオに張り付いてるからどんな曲にも詳しいぞ?」
「一緒に盛り上げていこう!」

他のVOCALOIDよりもたくさんの曲や人生を教わりそうだし、何より予想していたよりも流行の曲を歌えて、それをみんなも喜んでくれる事。僕が活躍する場所はここなんだ、と特定のマスターを持たずに歌っていくことに負けないぞ、と張り切って深呼吸をした。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい
  • オリジナルライセンス

デイケアの僕

衣装は白衣モチーフなのかな??と思って書きました

閲覧数:37

投稿日:2023/02/13 17:20:23

文字数:1,315文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました