スペードアリス
 学校の図書室で、ルカはその絵本を開いた。最近学校内で噂になっている、図書館の古ぼけた分厚い絵本である。茶色の絵本の表紙には「トランプアリス」と書かれている以外、挿絵もなければ飾り文字もない。
 このところ、学校内で怪事件が続いている。
 学年も性別も年齢も部活も、なにも接点もない五人の生徒が何の前触れもなしに、消息を立っているのだ。最初に行方不明になったのは、剣道部、期待のエース、『紅い騎士』とまで言われ、男女関係なしに人気があった『メイコ』。
 二人目は合唱部で癒し系と有名だった中等部の『カイト』。人懐こく、手先も器用であったがそれ以上に、歌唱力は誰にも負けない。
 三人目は漫画研究会、通称マン研のアイドル的存在である『ミク』という少女。大きなツインテールの特徴的な少女だが、いわゆる『不思議ちゃん』として有名で、可愛らしい容姿と天然な発言から、特に男子から人気があったという。
 四人目と五人目は、初等部の双子、『リン』と『レン』だった。双子の姉であり気が強く運動神経のいい『リン』、弟で気が優しくとても賢い『レン』。似ていない双子として有名であったが、それぞれ何故か同性から告白されることが多いという話を聞くことはよくあった。
 そんな怪事件の被害者たちは、皆、この図書館でこの絵本を見ていったという情報がある。生徒会長であるルカは、(勝手に)生徒会長としての責任を感じ、この事件の謎を解き明かそうとこの図書館にやってきたわけだ。
 絵本に描かれる人物は、その五人と類似していた。
 物語はこんな言葉で始まる。
 
 夢は必死であった。
 あと三日、後三日誰かに見てもらえないと、夢の掟で消えてしまうのだ。
 どうにかして誰かに自分を見てもらわなければいけない。誰かに自分を見せることができれば――夢は必死で考え、考え、考えた結果がでるまではそう時間はかからなかった。

 暗闇の中で、メイコは目を覚ました。
 真っ黒に塗りつぶされているだけなのか、光が当たらない暗がりにいるのか、それとも自分の目が見えなくなってしまったのだろうか。そんなことを考えながら、メイコは辺りをきょろきょろと見回す。
 遠くのほうに誰かがいるのがわかった。
「誰?」
 少し間を作りつつ近づくと、その人物に問いかけた。
 相手はしばらくしてからこちらに近づいてくると、微笑んだ。
「さあ、誰でしょう」
 相手は言った。
「ですが、貴方が誰かならわかります」
「そんなこと、私が知らないわけないじゃない。…まあいいわ。ここはどこなのか、教えてくれない?真っ暗でどうも不便だわ…」
「ここは夢の国。私の世界」
「夢の国ならもっとキレイな…そうね、森の中とかがいいとおもうわ。こんなところを夢の国だなんて、どうかしてる」
「そうですか。ならば、貴方の願いの通りにして差し上げましょう。それと、剣道が得意だそうで。真剣、ふってみたいと思いませんか。この剣を差し上げましょう」
 いうなり、周りの風景が一気に変わったかとおもうと、あたりは樹海と化し、木漏れ日の中にメイコはたたずんでいた。
 先ほど話していた相手の姿は見えない。
 右手には紅い柄の真剣がある。
 どこからか、先ほどの声が聞こえてきた。
「精々頑張ってください。『スペードアリス』」
「スペード…アリス…?」

 しばらく歩いたが、樹海は延々と続いていくように思えてならなかった。
 手にした剣で道を切り開いていくと、また別の木々が行く先を邪魔して、またメイコが剣を振るう。さながら女剣士と言った風貌のメイコは、その美しい剣をふるって進む。
 そのまま進んでいると――
「!?」
 手に伝う感覚に、違和感を覚えた。
 木の感覚とは違う、ぬるりとしたもの。鉄が錆びたようなにおいがあたり一面に広がり、メイコは思わず鼻をつまんだ。
 そこにあったのは木ではなく、たくさんの動物たちのなきがらだった。はっと振り返ればそこにあったはずの切り株と樹海の道はなくなっており、そこにあったのは真っ赤な大量のそれでできた小道であった。
「…な…っ!?」
 その瞬間、剣がひとりでに動くような感覚を覚えた。
 延々と続くようにおもわれた樹海が消え、すぐそこに赤いレンガ造りの街が見え始めた。
 その町に向かい、メイコは走る。頭で何かを考える余裕はなかった。

 血ガ欲シイ
 血ガ見タイ
 血ヲ―――。

 そのとき、近くにあった黄色のバラの花のツタがこちらへ伸びてきたかとおもうと、メイコの両腕に絡みつき、その後から両足、体、首まで――。
 まるで牢獄のようにメイコを包み込むツタは鋭いとげがついていて、うかつに近づけない。

「貴方は、精神が弱すぎたようですね。たった一つの試練もクリアできなかった。しかし、貴方の作った道によって次のアリスがまた、ここにやってくることでしょう」
「私は、ここで死ぬの?」
「ええ」
 笑顔で答えた。
「なら、最後に聞かせて。貴方は、誰なの?」
 しかし、その答えがメイコに届くことはなかった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

絵本世界とトランプカード 1

こんばんは、リオンです。
感づきましたよね、人柱アリスです。
ま、次回までの場つなぎなんで、一週間もなく終わるとおもいます。
それじゃ、また明日!

閲覧数:644

投稿日:2009/10/28 23:01:48

文字数:2,105文字

カテゴリ:小説

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  • リオン

    リオン

    ご意見・ご感想

    こんばんは!

    Ж周Жさん、いいですよね!人柱アリス!
    読破するほど続きませんて(汗)

    一週間じゃダメですか!?なら、後五日で。
    Ж周Ж さんも頑張ってくださいね!

    みずさん!
    やっぱりメイコですよね!紅いワンピースがなんともいえないでしょう!
    冷静であった欲しいです。メイコさんには。
    できれば真剣をふってみたいものですね♪

    スペードってトランプの、黒いほうの…ハートをさかさまにした奴に木の幹をくっつけたような形です。
    説明ヘタですね…。

    そうですね、みんな死んじゃうんじゃないですか(軽っ!)。
    そ、その順番です!そんなに興奮しないでぇぇええええ!

    なんだかぐだぐだだったので心配だったんですが、面白いといってもらえると安心します♪
    レンはあれですよ。感情移入しすぎて、試練を嫌がるようになるんじゃないですか。
    今回もよろしくお願いします!!

    2009/10/29 19:14:40

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