-紫-
「レン、起きて!ねえ、起きてってば。学校に行くの、一緒に来てよ!」
「はぁ?何で俺が!」
「命令!」
 起きて着替えるなりリンは指輪を思い切り振ってレンを無理やりに呼び出して、そういった。無論、レンはそんなわけが分からないものは嫌に決まっているが、そんなことは関係なしにリンはレンの手を引いて、メイコに
「行ってきます、母さん!行くよ、レン!」
 と言い、茶色いバッグを持って屋敷を飛び出した。
 面倒くさそうにのそのそと歩くレンを見て、リンはじれったそうにしながらもレンのペースにあわせて、ゆっくりと歩く。
「何で俺が学校になんかに…」
「あら、ウチの学校は使い魔がいる子は使い魔同伴が規則なのよ」
「理不尽だな」
 ぐだぐだと話しながら広い道を歩いていると、丁字路のあたりで緑色の特徴的なツインテールの少女と、黒い長髪の大人しげな少女が歩いてくるのが見えた。黒髪の少女は、綺麗な紫色の瞳をしていた。その姿をみとめるなりリンはうれしそうに目を輝かせて、手を振りながらその二人の所まで走りよっていった。
「ミクちゃん、おはよう!アンちゃん、今日も可愛い!」
 黄色い歓声に近いような甲高い声でリンは言ったが、ミクは微笑んでアンは表情を変えずに、挨拶を返した。
「おはようございます」
「おはよう、リンちゃん。今日はいつになくうれしそうだね。どうかしたの?」
「あのね、私にもやっと使い魔ができたの!!レン、来て!彼が私の使い魔。レンって言うの。悪魔なんだけど、根はいいやつだと思うから仲良くしてやってね」
「…レンです。よろしく…」
「よろしくお願いいたします、アンと申します。ミク様の使い魔で、死神を生業としています」
「よろしくね、レン君。私はミク。初音ミクっていうの。リンちゃんとは親友なの」
 そういってそれぞれと軽く握手をして、レンはリンの後ろへ下がった。それを見たミクとアンには、主人を立てようとしているだけに見えたのだろうか、特に不思議がるそぶりも見せなかったが、アンはレンをみて何かを感じ取ったように鋭い目つきになった。
「じゃあ、リンちゃん。先に学校に行っているね。早くしないと遅刻しちゃうもの」
 笑って駆け出したミクのスピードにあわせ、アンも足を速めた。
 その途中、丁度リンとレンから見えなくなったあたりでアンはミクに耳打ちをした。
「ミク様、あの使い魔、見覚えがございます。もしや魔界で大罪を犯した輩かもしれません…」
「あら、そう。わかったわ、久しぶりに楽しめそうじゃない」
「はい、わたくしもそう思いますわ」

 高い予鈴が鳴り出し、急いで靴を履き替えて教室へと走る。
「あんな風に話してるから!」
「ずっとのそのそ歩いてるから!」
 言い合いをしながら教室へと走る。途中、レンだけが止められた。
「君、見ない顔だね、新しい使い魔かな?それならば、こっちで登録をしてくれ」
「…はい」
「レン、先に行っているから」
「ああ」
 気が進まないようにレンはその教師についていき、リンはやはり教室へと走った。リンの教室は三階にあり、走っても時間内に着くかどうか、怪しいものだがその辺はリンの素晴らしい身体能力でどうにかするのだ。
「ええと、ここに名前を書けばいいんですか」
「そうそう。それだけ」
 汗臭い教師に言われ、レンは用紙に名前を書いていく。
「これでいいですか」
「はい、いいよ。君の主の教室は二階の、『音楽特化教室』だね」
「あざーっす」
 言われた教室を探しながら校内を駆け回った。着慣れない制服を渡され、更衣室で着替えたが、自分には大きめのサイズでどうにも動きにくくて仕方がない。
 この学校では教室の分け方が特別だ。
 それぞれ、もっとも得意とする科目ごとに教室を分けられることになっていて、リンは特に音楽が得意だった。主にある教室は、『音楽特化教室』、『科学特化教室』、『歴史・地理特化教室』、『国語特化教室』、『数学特化教室』、『家庭科特化教室』、『技術特化教室』の7教室だ。
 それぞれ特化した教科を中心に勉強するのだが、無論他の教科もきちんと勉強をする、つまりは長所を伸ばす教育法なのだ。
 やっとの思いで『音楽特化教室』を見つけるとそっと中へ入った。いきなり、先生らしき女性が、レンに向かって微笑んだ。
「彼が鏡音さんの使い魔ですね。仲良くするように」
「きゃあ、可愛い」
「女みたいだな」
 先生の声にかぶさるように男子と女子それぞれからの声が聞こえてきた。男子の言った、
『女みたい』
 にはカチンと来たが、あって早々に喧嘩騒ぎというのではレンもいい気分ではないし、リンもよくは思わないだろうから、そこは怒りをおさめた。
「一時限目は体育です。ええと、レン君は予備のジャージを貸しますから、参加してください」
「…はい」
 正直気は進まないが、リンに背中を押されて無理やり体育館へと移動させられ、更衣室へと押し込まれた。
 理不尽だと思いながら着替え、どうにか更衣室から抜け出すとだだっぴろい体育館の隅のほうの壁にもたれて座った。
 きゃあきゃあ言っている女子の声が聞こえ、その中に一際元気なリンの声があった。男子のほうからは汗臭いにおいと熱気が漂ってきて、気分が悪くなってくるほどだ。
 ぶかぶかのジャージの袖からは少しだけ指を出して、手のひらや甲は出さずにずっと体育座りをして、その光景を眺めていた。
 いきなり、ガタン!と音が鳴り、女子のほうからどよめきが漏れた。そちらへ目をやり、目でリンを探したが、リンは見当たらず小さな人だかりの中心に大き目のマットが倒れていた。はしって近づき、マットをどけるとリンが倒れていた。
「リン!!」
「…いたたた…首、痛めちゃったかも…」
「保健室、どこ?」
 かるがるとリンを背負い上げ、レンは教えられたとおりに走って保健室へ向かった。
 リンは特に大きな怪我もなく、首を少し痛めた程度だった。それでもレンは心配そうにリンの顔を覗き込んでは、
「リン、大丈夫?」
 と聞いてきた。
 優しげな口調になったレンは何だか女のこのようでもあったが、昨日の無表情なレンがすでにここまで表情豊かに生活しているところを見て、リンはなんとなくうれしいような、こんなことで心配させてしまって申し訳ない気持ちとが入り混じった、不思議な気分だった。
「大丈夫だってば。もう心配しすぎ。しわ、増えるよ」
「俺はリンの使い魔なんだから、当たり前だろ?」
「大丈夫だよ。ありがと、レン。えへ、なんだか照れるなぁ」
 少しだけ頬を赤らめてリンは恥ずかしそうに、人差し指の爪で頬の少し下の辺りを軽く引っかいて見せた。
 それでもまだ心配なのかレンはリンの顔を下から覗き込んで、顔色を見ていた。
 首に氷の入ったビニル袋を当てていたリンは、ふと何かを思いついたように宙を見て、いたずらをした子供のように笑った。
「レン、先生に首が痛くて体育ができませんって言ってきて」
「ずる休みだろ、それ。…しかたねぇな、待ってろ」
 ベッドの横に束ねられたカーテンを広げ、外からベッドが見えないようにすると、急いで体育館へと軽く走る。途中、玄関前を通ったとき、うっすらと記憶に残っている大きなツインテールが何かをしているのが見え、これからグランドに行くのだろうことが分かった。
 なのでその少女に近づいて、少しだけ頼みごとをした。
 少女はレンの姿をみとめると、ドキッとしたように一瞬後ずさったが、レンの頼みを聞くと笑顔を作って、うなずいた。
「あの、先生に、『リンは首を怪我して体育はできません』って言っておいてくれません?」
「え、ああ、うん。いいよ…じゃあね」
 そういうと小走りに玄関を後にしたミクを、レンは不思議そうな目で見ていたが、一番気になるのはさきほどミクが何をしていたか、だ。
 名前を探し、ミクの靴箱をみると特に何があるわけでもなかったが、代わりに隣のリンの靴箱には、ほんのり甘い香りのするかわいらしい封筒が入れてあり、中に入っている便箋の枚数も多くないのかペラペラの状態だ。しかも靴の泥なんかで汚れていないのを見ると、ついさっき入れられたものだろう。
仕方なく、その封筒を持って保健室へ走った。
「あーあ、ビックリした。アン、どうしよう、気づかれちゃったかな?」
「大丈夫でしょう。万一気づかれたとしても、さして問題はないでしょうから」
「そうね。アンがいるとビクビクしなくていいからとても気分がいいわ!」
「有難うございます」
 そういって軽く頭を下げてアンはにやりといやらしく笑った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

鏡の悪魔 3

ミクとアンが出てきました。
イマイチアンの性格とか設定がよく分からないんですが、イラストを見ていたら可愛いのが多くて、出しちゃいました!
あ、一応設定書いておきます?
『リン』
 賢者の娘で、屋敷に住む十四歳。レンの主人。
『レン』
 リンの使い魔で、『双子』という言葉に過剰反応する。リンにそっくり。
『メイコ』
 リンの母。ルカの主人で、レンに何かを感じ取った。賢者。
『ルカ』
 メイコの使い魔。天使で、レンに対して敵対意識をもつ。
『ミク』
 アンの主人。リンの親友。アンと何かを目論んでいるようだ。
『アン』
 ミクの使い魔で、死神。敬語。ミクと何かたくらんでいる模様。

 ですかね。超適当。

 追記
 やっちまったぁぁぁぁぁぁ!!
 アンは黒髪ではなかった!!
 見過ごしてやってください><

閲覧数:1,174

投稿日:2009/07/05 13:12:26

文字数:3,554文字

カテゴリ:小説

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