-REUNION-
 学校に行けるまでに回復したリンは、今日から学校に行くことになっていたが、その足取りは今までになく重かった。
「リン、気分が悪かったら、早退してらっしゃい」
「うん…」
 あの手紙のことから、もう一ヶ月がたつことになる。それだけの時間、リンはレンと会わずに、ベッドの上で殆ど寝たきりの生活をしていた。いや、これからもずっと、そうなのだろう。これまでないほどに落ち込んだリンを見て、メイコもルカも心配していたが、そこはリンがどうにかするしか、立ち直るしかないのだろう。
 スクールバッグを持って、リンは家を出た。

「…と、いうことで…。どうでしょう?」
 これはカイトの言葉だった。
 どうでしょう、と聞いてはいるがその言葉の裏には、
『いいですね。決定です。だめだというならお前、ハネるぜ?』
 という意味がこめられていた。つまりは、圧力をかけた、そういうことだろう。
「いかがですか」
「…前向きに、検討しましょう」
 そういった(言わせた)政治家ににっこりと笑いかけ、一礼するとそのいらないくらいに豪華な部屋を出た。しかし、この場合の“前向きに検討”は、決定事項でも変えなければいけない、ということなのだ。
 人気のない廊下で、カイトは大きく伸びとあくびをした。

 退屈な授業と退屈な勉強。
 二ヶ月も前ならばこれが普通で、もっと熱心に勉強をしていたのだろうに、何故、ここまで集中できないのだろう。
「…先生、気分が悪いので、早退します」
 すでにメイコから、リンがそういえば早退させてくれるように連絡が行っていたのだろう、案外すんなりと帰してくれた。
 ざわつくクラスメイトを見ようともせずに学校を出て、けれどすぐに家へ帰る気にはなれなかった。近くの公園のベンチに腰かけ、ため息をついて空を見上げた。
「青いなぁ…」
 青く透き通るような高い空に、まだ肌寒さも残っていた。
 そろそろ、家に帰ったほうがいいかもしれない。学校から連絡が行っていたら面倒なことになる。
 仕方なく立ち上がって歩き出そうとしたとき、リンの目の前に男が数人たった。
「何ですか?」
「お嬢ちゃん、飴玉あげるからさぁ、お兄さんたちと遊ばない?」
 これは誘拐か何かだろうか。もっとこどもだとおもっているのだろう。前々から童顔だと自負はしていたが、こんな形でそれを再確認することになろうとは思いもしなかった。
「結構です」
「そういわないでさぁ…」
 強く腕をつかまれ、反射的にその手を引っかいてしまった。
「いてぇ!!なにすんだ、このガキ!!」
「きゃっ」
 両腕で顔を守って、目を瞑った。
 しばらくしても痛みも何も感じない。不意に、懐かしいような声が耳に入った。きれいで男にしては高く少し鼻声の、勝気で弱虫な――
「ウチのリンに何してんだよ。おっさん。きたねぇ手で触ってんじゃねぇ」
 腕をどけて声のほうへ目をやると、ずっと見たかった、自分の使い魔の姿がそこにはあった。
 その男の腕をねじって地面へ伏せさせると、レンはにやりと笑って、
「次は誰だ?」
「チッ引くぞ!」
 男たちはあっけなく走り去っていってしまった。
「…たく、学校じゃねぇのか?」
「…早退。レンは?魔界から出てこられないんじゃ?」
「言ったろ?カイト兄は裏社会につながっているって。その辺で圧力をかけたんだよ」
「じ、じゃあ…」
「ああ。もう連れ戻されない!!」
 うれしそうに目を輝かせたリンにレンは優しげに微笑んで見せると、リンのヘアピンをはずして前髪を片手で上へと上げた。
「レン、どうしたの?」
 不思議そうにするリンにレンは
「ただいま、ご主人サマ」
 そういって、額にキスをした。
 驚いたようにしばらく口をパクパクさせていたリンも、うれしそうに笑って見せると、その言葉に答えるように、
「お帰り」
 といった。
 しかしレンはすぐに恥ずかしそうに後ろを向いて、真っ赤に染まった頬をぎゅっと押さえていた。そうして自分の頭上を見上げて、
「…これでいいのかよ、カイト兄!やったかんな!」
「あはは、素直じゃないなぁ。本当は嬉しいくせに」
「う、五月蝿い!!いいか、リン。今のは、カイト兄がこうすれば、戻らなくてもいいようにしてやるっていうから…」
「じゃ、どうしてそんなにこの世界に戻ってきたかったのさ?」
「そ、それは…」
 口ごもるレンを見て、リンはおかしそうに笑うとずっと、言いたかった言葉をもう一度言った。
「レン、お帰り!!」
 微笑んだ表情は今までよりずっと大人びていて、まるでゆりの花のようにキレイな笑顔だった。それに振り返るとレンは、嬉しそうに微笑んで
「ただいま」
 といった。
 主と鏡映しになったような使い魔は、そういって主にもう一度、心からのキスをしていたずらっぽく笑った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

鏡の悪魔Ⅱ 8

完結です!
結構長くなったなぁと思ってますけど、いやはやネタ切れですね。
というか、こういう主従関係のあるやつってやりやすいんですよね。
あと、流血表現?あれは少し問題ありかなぁとか思うわけですけど…大丈夫ですよ。ね!!
次回作はいつになるか、分かったモンじゃないので!ではー。

閲覧数:924

投稿日:2009/07/21 20:43:33

文字数:2,009文字

カテゴリ:小説

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  • リオン

    リオン

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    みずたまりさん、メッセージアリガトウございます!!
    今、新しいシリーズを考えている途中です。
    面白いだなんて、そんな!もったいない言葉を!!
    一応はハッピーエンドですけど、書いた後に見てみると『ラン』が出て来れていなかった…。
    失敗してしまったり、誤字脱字も多々あったと思いますが…。
    これからもどうぞ見てやってください!!

    2009/07/22 15:25:10

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