翌朝早く、彼女がうちにやって来た。走ってきたらしく、息が切れている。椅子に座らせ、冷蔵庫にあったパック入りのアップルティーをコップに入れて渡す。コップに水滴が付き始め、彼女の呼吸が整い始めた処で、彼女の噤(つぐ)みの口が開いた。
「あのね、わたし、……迷惑だった?」
彼女は目を伏せたまま話をしている。滅多にないことだから、余計に気落ちして見える。
「え、何が?」
「だって昨日、ルキ君云ったじゃない。曲、もういいって。わたし、気付かずに無理強い、してたのかなって、あの後ね、考えたの」
どうやら彼女はネガティブ思考に陥っているらしい。隣の椅子に座って、出来るだけ目線を合わせて応えてやる。
「いや、俺は嫌なら嫌ってはっきり云う方だし、曲聴くのも、一緒に話するのも、嫌々やってたわけじゃない」
「じゃあ、なんで?
……昨日はわたし、聞きもしなかったよね。理由、聞かせて?」
云いづらかったが、真摯な眸にやられて口を開く。
「……たださ、俺ばっか聴かされてるのもあれだなーって思っただけ、なんだよ」
真剣な表情が、歪んだ。
「……どういう事?」
「今までは全部ミクから、だっただろ? 今度はさ、俺から曲を聴かせたいな、って思って、さ」
彼女の顔が輝きを放ち始める。眩しすぎて、分かり易すぎて、笑ってしまった。
「聴かせて! ルキ君のおすすめ! 私、いつでも待ってるから。」
「いや、相互的に行こうぜ、って事なんだけど……。逆にミクからの曲聴けないのも俺は嫌だし、さ」
「うん、そうだね。いい曲を見つけたら、即報告! ね、約束だよ」
右の小指を差し出して、約束の儀式を催促してくる。ほんのり苦笑しながら、こちらも右手のそれを伸ばす。
ゆーびきぃりげぇんまぁん、
うーそついたぁらはーりせぇんぼぉんのーます、ゆーびきった。
呪文を唱え終わった彼女は満面の笑みを浮かべ、約束したからね、と云って帰っていった。自由奔放な彼女に、ただ翻弄されただけのような気がした。
だが、本当は違う。
後味が悪いのは、俺自身のせいだ。俺が彼女に嘘を吐いたから。彼女を傷つけないための、嘘を。
これからも、彼女は同じスタイルで曲を聴くだろう。そして俺はまた、あの時のように彼女の髪を引っ張りたくなるかもしれない。
俺が傷つけそうなのは、壊しそうなのは、彼女自身だ。
それでも、曲を聴くのをやめることは出来ない。それは嫌だと彼女は云ったし、俺も同じ気持ちだから。
俺にとって大切で、守りたいものは、彼女との今の関係と、彼女自身の身の安全。
それを守るための一番手っ取り早い方法は、俺が少し我慢すればいいだけのこと。触れないように、細心の注意を払えばいいのだ。
……しかし、嘘なんてめったにつかないから、バレやしないかと心配だった。
俺からの曲の紹介は、前から思っていたことでもあるからいいものの、あのツインテールを引っ張りたくなる欲求を、これからずっと彼女に隠し通せるのか、不安だ。
「でもま、いっか」
彼女が笑ってくれたから、まあ、よしとしよう。彼女の笑顔が潰えるのが、今は一番怖い。
姉貴には……、今の処、大丈夫みたいだ、とでも報告しておこう。
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stonebook
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