テレビを眺めるように見ていた。
テレビは今日起こった主な出来事を教えてくれている。
しかし僕の身の周りで起こった出来事は何一つ教えてくれない。
それはそうだ。今日は僕の身の周りで起こった出来事などテレビで知らせるほどではない。
それは幸せなこと。本当にそうだろうか?

そもそも今テレビが教えている内容はどれほど正確な情報なのだろうか?

「死刑が執行されました」
「外国で飛行機が堕ちました」
「株価が暴落しました」
「幼い女の子が誘拐されました」

僕にはそれら全ての情報を本当の意味で確かめる術がない。
しかしテレビを見ている殆どの大衆は何の疑いもせずに信用するだろう。
それは当然だ。
テレビが誕生して長い月日が経ち、今まで、少なくともこの国のニュースの信頼性は
信用するに値する確率で公正に報道されてきた。
だからと言って、今日の出来事を知らせるテレビが正確だという保証はどこにもない。

その日を境に僕は、テレビを恐れるようになった。
この日を境に僕は、何も疑わない大衆を恐れるようになった。

こんなにもチイサナテレビで僕のセカイは操られているのだろうか?

漠然とした恐怖に襲われた僕は急いでリモコンを手に取り、チャンネルを変えた。
次にテレビの中に現れたのは髪の短い女性だった。

彼女はとても激しく、しかしどこか切ない表情を浮かべて歌っていた。

この歌声は本物なのだろうか?

僕はテレビの中で歌い続ける彼女に問い掛けた。
無言の返答は僕の心の一番脆い部分を優しく撫でた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

チイサナセカイ (ショート・ストーリー)

チイサナセカイのショート・ストーリーです。
歌詞が味気ないと思った方も多いと思いますが、実はこんなストーリーが裏側にはこびり付いていたのですよ!

閲覧数:1,274

投稿日:2009/05/11 05:43:23

文字数:647文字

カテゴリ:小説

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