『絶対、帰ってくるから待っててね』

その声を聞いたのは、5年前。

真夏のうだるような暑さの中、小さくなったランドセルを放り投げて二人して木陰で寝転がっていた。

「どっか行くの?」

『うん、遠くに行くんだ』

「そっか、よくわかんないけどお土産待ってるね」

『…その時まで待っててくれる?』

「まあそりゃ、待つけど」

『よかった』

その時の私は、それが長い別れになるだなんて思わなくて。

9月の一番初めの日、どれほど泣いかわからない。

それからだ、何かおかしいと思ったのは。

…君がよく、私にくれたキャンディーを口に含んでも味がまるでなくなったのが最初。

まるで世界から色がなくなったみたいだった。
不思議で、悲しくてたまらなかった。

甘いものが嫌いになった。
髪を伸ばしはじめた。
ちょっとしたことでさえ自分を許せなくなった。

何度も自分を責めた。

あの時、全部気付いていればこんなに悲しくなんてなかっただなんて仕方が無いことで何回か泣いた。

仲のよかった幼馴染、ただそれだけが私と君を繋ぐ関係。

それだけ、だったのに。

ひとつ歳が上がって紺のブレザーにスクールバックを身に纏っても、受験戦争に揉まれて着る制服が変わっても、君のことは忘れられなくて。

…あれから、5年目の夏だ。

友達には、そいつのこと好きなの?とか忘れなよ、とかそんなに過去に縋ってたら彼氏出来ないよ、とか散々言われた。

まあ、普通そうだよね。

でも健気にもう5年も待ち続けちゃってる私がいるわけで。

大体、今頃忘れようとしても絶対無理な気がする。

「なんで転校しちゃったの」

声に出して呟く。相変わらず蝉が五月蝿い。

そろそろセーラー服が汗ばんできた。あの頃より随分伸びた髪もちょっとべたつく。

私は、君をただ待つことしか出来ない。

「…ねえ、早く帰ってきてよ」

別に言葉に出したからってどうにかなるわけでもない。でも出さずにはいられない。

「お願い、」

あの日から私の世界は何かがおかしくなってしまったんだ。

もう一度、君の声を聞きたい。


「(すき)」


気付くのに時間がかかりすぎたこの気持ちだって、君が帰ってこないと伝えることさえ出来ないんだよ。

「会いたい」

またひとつ紡がれる願望は、降り始めた7月の通り雨に溶けていく。

『…誰に?』

「えっ、あのっ、」

目の前にはうちの高校の制服を着た男の人。でも見たことないな、転校生かな。

「ごめんなさい、人がいるとは思わなくて」

『いや、こちらこそごめんね。君すごく真剣に悩んで、泣きそうな顔してたからさ』

「…マジですか、本当にすいません」

『何かあったの?俺でよければ話聞こうか?』

「あ、いえ結構昔から私こんな感じなんで」

『それかなり心配になるよ!?何、男に泣かされたとか!?』

まああながち間違ってないけど。

「うーん、そんな感じですかね…いや、泣いたのは完全に私が勝手に泣いただけなんですけど」

『別れ話とか昔の恋人とか?』

「恋人…まずあいつ帰ってこないからな」

『あいつさん何したの!?』

「いや、幼馴染です。転校しちゃったんですけど。」

『ふーん…幼馴染かぁ。俺もいたなぁ、幼馴染』

「へぇ、どんなですか!」

『すごく元気なやつ。あいつが凹んだときに飴あげると喜んでたな。すごく美味しい!って市販の飴なのに言ってくれて、まあ落ちたよね』

「あー、すごく王道ですね…青春だ。私は彼がいなくなってから気付いたからなぁ」

『それはつらいわ…ちなみにどんなやつ?』

「なんか、結構昔からいろいろやんちゃして遊んでたんだけど、私が凹んでたときによく飴くれて。あれほんと美味しかったな。今は甘いものダメになっちゃったけど。」

『へぇー、なんか似てるね。そうだ、俺昔この辺に住んでて、今その幼馴染探してるんだけどさ。その子に絶対、帰ってくるから待っててねって言ってここを出たんだけど、』

「何それ凄くかっこいいですね…私も早く彼に会いたいなぁ。絶対帰ってくるって言ってくれたのに。」

「『…!?!?!?!?』」

いやそんな、まさか。

そんなの、偶然みたいな運命じゃないか。

『あの、もしかして…気づかなかったんだけど……』

「めっちゃ背、伸びたね。全然気づかなかったよ…」

ばーか、元気だったか。

陽気に飛ぶ声が無性に嬉しい。

『あのさ、俺戻ってきたら絶対に言いたいことがあったんだ』

「何?ファイト一発?」

『お前はな、一回黙ったほうがいい』

塞がれる

5年分、注がれていく感覚

ちょっと息苦しい

「…何してんの」

『男の理性ってやつ知ってる?』

「知らないし。ってか、警察呼ぼうかと思ったわ」

『好きだ。転校とかする前から普通に好きだった。』

「えっちょっとツッコんでよ!?」

『理性というものには限界というものがありましてね』

「いや知らないし。よくわかんないけど限界突破って言葉の響き意識高そうだよね」

『…誤魔化すの、下手くそ』

「知ってますよく言われます」

『ちょっとしばらく、ほんのしばらくでいいから喋らせてくれない?』

体温が近い

抱き締められている、と理解する

『ずっと前から、お前のことしか考えらんないくらい好きだったんだけど』

耳近いし。

吐息がかかって、くすぐったい

「これが耳ツブってやつか…」

『おいムードブレイカーお前いい加減にだな』

「ってか、こんなのおかしいし」

『いやこの流れで雰囲気ぶち壊すお前のほうがどう考えてもおかしいけど』

わかってない。

全然わかってない。

君がいない世界がどれだけ灰色で、退屈で、味気なかったか。

私の元に今戻ってきた色が鮮やかすぎて、まっすぐ目も見れないんだよ。

「ばか、お土産」

『あー、はいはい…ったく、これな。飴。』

まるで君のようだ。

たくさんの色を、感情を私に教えてくれる

「あのさ、」

『お土産少ないって?残りはまた後で母さんと届けに…』



「すきなんだけど」



飴玉の入った袋が落ちる音が響く

いくつかこぼれた世界は、またきっと新しい面を見せてくれる


こんな感情、君は魔法のひとだ

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【がくルカ】魔法のひと

こんにちは。リア充には永遠になれない系作者です。
部活のコンクールに出すやつで、これの前半部分を書いたやつとR15っぽいなんかすごく意味不明なの書いたんですね、選ばれたのは意味不明なほうでした。

ってわけでもともとボカロとかあんま考慮してないので「がく…ルカッ!?」となるかもしれませんが宇宙のように広い心で見ていただけると喜びます私が。

あ、これがく誕でもういいですかね遅くなったけどお誕生日おめでとうございまs(

閲覧数:504

投稿日:2015/09/14 23:01:36

文字数:2,621文字

カテゴリ:小説

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