Allegro con brio
2-1.
失敗した。
とんでもない大失敗だ。
自分の馬鹿さ加減に呆れ果ててしまう。
なんで、そんな当たり前のことすら忘れていたんだろう。
……本当に、信じられない。
その失敗に気付いたのは、あの人と別れたあと、電車に乗ってしまってからだった。それから翌日の土曜日、午前中の授業が終わった今の今まで、私はそんなことばっかり考えていた。ちっとも授業に集中できなかったのは言うまでもない。
授業だけじゃない。朝もそのことに気を取られすぎて、またお弁当を作るのが間に合わなかった。おかげで、期待していたお弁当がなくて、愛はちょっとすねてるみたいだった。
私がどんな失敗をしたのかなんて、決まってる。
あの人の名前を聞いてなかったことだ。
それどころか、そもそも私の名前すら伝えてない。名前を聞いてないんだから、連絡先なんて聞いてるわけがなかった。
「はぁ……」
午後からの学園祭の準備が始まるまで、実質的に昼休みみたいな時間の教室で、私はもう何度目かわからないため息をつく。
名前も知らない。携帯の番号も訊いてない。わかってるのは、あの人の顔だけ。これじゃ、このままじゃ、もうあの人に会えない。
私、本当、どうしたらいいんだろう。
そう思ってまたため息をついた瞬間、むに、と頬をつままれた。
「ため息ばっかりついてると、し、あ、わ、せ、が逃げるぞ~!」
愛だった。
「痛い。痛い痛い、痛いったら!」
愛は私の頬を思う存分引っ張ってから、ようやく手を放す。そして、その感触を確かめるように手の平をすり合わせて、うっとりとした表情になる。
……あまり言いたくないけれど、それじゃあただの変態とあんまり変わらないんじゃないかな。
「羨ましい……ツヤがあってハリがあって、そんなプルプルのお肌があたしも欲しいよ~」
「メグ、貴女ねぇ……」
かなり本気で悔しがっている愛に、つい憮然としてしまう。
私はそんなことどうだっていいの。そんなことよりも――
「それにしても、とうとう未来が恋の悩みを抱えるようになったなんてねぇ~」
「え? な、なんで――」
愛が急にしみじみと言った台詞に、私は慌てる。私は誰にもなんにも言ってない。なのに、なんで愛にバレてるの――?
けれど、直後に意地悪な、ニヤリとした笑みを浮かべたのを見て、私は愛に引っ掛けられたんだってことを思い知らされた。
「まさか、ホントに男だったとはねぇ~。ねねね、どんな人? 未来がホレるくらいなら、相当いい男なんでしょ? 教えて教えて。ねぇってば、未来ったら教えてよ~」
愛の声は、騒がしい教室でも、いつもなぜかよく通る。しかも、その声はいつもより大きかった。騒がしかった教室が、その一瞬だけ静まり返った。皆の視線が私に集まってるのを、ひしひしと感じる。なんとなくだけど、男子の視線はどこか悔しさがこもってるようにも感じる。
なんで、そんな。ちょっと、こっち見ないで。お願いだから。
「ちょっと、メグったら……」
顔が赤くなっていくのをはっきりと感じながら、私は頭を抱える。
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コメント1
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ご意見・ご感想
水無月
ご意見・ご感想
おもしろいです。
こういう解釈もいいなって思いました。
続き楽しみにしてますね。
2009/07/17 20:02:41