目の前に立ちはだかる黒い物体・・・・・・。
それは2本の恐竜のような足で直立し、水中潜航が可能な戦闘用アンドロイドだった。
水中潜航のための特異なフォルムに鱗のような光沢をもつ装甲に覆われたボディ。
その全長はざっと5メートル。まるで海洋生物、いや、西洋の伝説に登場しそうな、水に棲む怪物か。
どちらにしろ戦闘用では一般的なタイプ、ABL(アーマードバトルロイド)の類か。
「警備部隊、戦闘準備! 急ぎ迎撃せよ! 非戦闘員は退避せよ!!」
「逃げろーーーッ!」
「落ち着け! 先ずは機体を格納するんだ!」
「だ、だめだ!! もたもたしてたら殺られるぞ!」
クルーたちは仰天し、一目散に退避していく。
だが俺の中では時間が止まっていた。あまりにも突然の出来事にただ呆然としていた。そいつに搭載されたミニガンらしき機関銃の銃口が俺を捉えミニガンの初弾が自動的に装填された機械音がはっきりと聞こえた。
逃げなければ。だが、体が動かない。
俺は死ぬのか。こんなところで、突然あっけなく死ぬのか。俺は。
軍の人体実験に体を捧げ、誰よりも多くの戦績を上げてきた俺が、こんなところで、こうもあっけなく・・・・・・?
「春瀬君! 危ない!」
誰かに抱きかかえられ、俺とその誰かは大きく転がった。
それとほぼ同時に、ミニガンから耳を劈く発射音が響いた。
ミニガンの弾丸は音速以上のスピードで俺がもと居た空間を駆け抜け、空母のデッキをえぐった。
「大丈夫か!」
俺を抱きかかえたのは矢野大尉だった。
「走るぞ!」
「はい!」
俺と大尉はその敵に背を向け、全力で走り出した。
だがその進路の前に敵が跳躍しし、立ちはだかったのだ。そして銃口を俺達に向けた。
「くそぉ!」
「ちっ・・・・・・!」
そのとき、俺達の頭上を黒い影が飛び越え、敵の上に飛び乗った。
「雑音君!」
「ミク!!」
ミクは手に持っている剣のようなものを敵のセンサーと思われる部分に突き刺した。
あれは日本刀・・・・・・?いや、高周波ブレードか。そうでなければあんな装甲が切れるわけがない・・・!
その敵から火花が飛び散り、煙を上げ、バランスを崩した。
敵が転倒する直前にミクは舞い上がり、俺達の前に着地した。
その瞬間転倒した敵が爆発、炎上した。
「2人とも、大丈夫?!」
「なんとかな・・・・・・。」
「ここはわたしとあの人たちが見張ってる。」
ミクの背後には、89式小銃を持っている警備隊員達が駆けつけているところだった。
「早く逃げて!」
「ああ!!」
そのときまた空母の周りに水柱がおこり、さっきと同じ戦闘用アンドロイドが4体飛び出し、瞬く間に俺と大尉とミクを取り囲んだ。
こいつら、俺達が狙いなのか・・・・・・?
今度こそだめだと思った。
そのとき、敵が一斉にミニガンの銃口を上へと向けた。
遥か天空から、爆音を轟かせ太陽を背にして何かが俺達のほうへ急降下してくる。
戦闘機か?いや、あれは・・・・・・!!
その瞬間、目の前で凄まじい衝撃音がした。金属と真空を切り裂く音が。
その音がするほうを見ると、敵アンドロイドの1機が縦に引き裂かれていた。そして他の3機も次々に銀色の閃光が引き裂いていった。
「なんだ?!」
そして俺達の前に赤い何かが着地した瞬間、引き裂かれた敵が倒れ、炎を上げた。
「こいつは・・・・・・まさか!!」
俺はその赤い何かの正体を理解し、驚愕した。
赤と白のカラーで塗装された、ミクのものと同型のウィングとアーマーGスーツ。
バイザーの蜘蛛のような複眼型センサーが赤く光り輝いていた。
それの後ろから、赤い髪が揺らいでいる。両手には身の丈以上ありそうな白銀に輝く大剣が握られていた。
「キク!」
ミクが彼女の名を呼んだが、キクは何も答えない。
「まだ何か来るぞ!」
大尉が上を指すと空から三つの機影が空母に舞い降りた。
「タイト! ワラ! ヤミ!」
「まさかここが狙われているとはな。」
「やっほーミク! 楽しそうじゃん?」
「キク、勝手な行動をとらないで。」
「お前達、空中給油じゃなかったのか?」
俺はタイトに尋ねた。
「そうだが、急にキクが編隊から外れて急降下したんだ。それで、何かと思ったら空母が敵襲にあっていたわけだ。」
「君たちは・・・・・・。」
大尉は目を見開いて驚いていた。まぁ無理も無いが。
「とにかくここに居ては危険だ。早く退避しろ。」
「ああ・・・・・・。」
「では、あとは君達に任せるよ! 春瀬君、こっちへ来たまえ。」
大尉は下降中の航空機用のエレベーターに飛び降りた。
続いて俺もその中に飛び込んだ。そしてエレベーターに搭載されていた俺の機体の上に着地した。
エレベーターのハッチが閉まっていく。エレベーターが降りきると、広大な格納庫が視界に飛び込んできた。そこには退避したクルー、麻田達がいた。既に他の機体も格納してあった。
「隊長! 生きてたか!」
「大尉もご無事で・・・・・・!!」
「ああ・・・・・・だが、まだ上には雑音君ともう4人いるんだ。」
「大尉。大丈夫です。あの2人の強さなら持ちこたえてくれますよ。」
「そうか。君がそう言うのなら大丈夫だろう。」
そのとき上からまた凄まじい振動が発生し、格納庫内に響き渡った。
ミク達は本当に大丈夫だろうか・・・・・・。
◆◇◆◇◆◇
《こちらイージス艦「秋桜」! 敵の奇襲攻撃を受けている! 援護を頼む!》
《くそっ!! こいつら、どこから来やがった!!》
《負傷者多数! 被害甚大!!》
《クソッタレ! 誰か頼むから何とかしてくれ!!》
《警備部隊、発砲を許可する!》
「こちら・・・・・・だ・・・・・・ぐわっ・・・・・・!》
味方の無線が聞こえてる。襲われてるのは空母だけじゃないらしい。
「ちっ・・・。ワラ、ヤミ、分散して各艦へ援護に行くぞ。」
「はいよ!」
「了解。」
「ミク。」
「なんだ?」
「もし戦闘が終わってもキクが落ち着かなかったら・・・・・・俺を呼んでくれ。」
タイトはそう言うとワラ、ヤミと一緒に空母から飛び立った。
キクは両手に持った白く光る剣で、海から上がってくる敵を次から次へと切り裂いていった。まるで、扇風機みたいに回転しながら取り囲む敵をなぎ払っていく。
敵は簡単に真っ二つにされ、爆発していく。
「すごい・・・・・・いつものキクじゃない・・・・・・。」
だけどキクはなにも言わなかった。なにか様子がおかしい。
そしてわたしの周りにも敵が集まってくる。たくさんの、敵が。
敵は、倒さないと・・・・・・。
わたしは翼を広げ、出力を最大まで開放した。
「いやぁぁぁあああッ!!」
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想