こんにちは!池下竣紀です。
誰も訪れなくなった古い庭の隅で、赤や黄色の落ち葉が小さなプールのように深く積もっています。その冷たい葉の波の底に、ネジの壊れた小さな硝子のオルゴールがひとつ、ひっそりと沈んでいます。触れると指先が凍りつくような静けさの中で、その箱は音も立てずに回転を続けています。耳を澄ませても何も聞こえません。けれど、胸の奥に直接届くような不思議な揺らぎが、微かに伝わってくるのです。
私たちは毎日、誰かに届けるための言葉や音を探しながら生きています。けれど、本当に伝えたい大切な思いほど、喉の奥でつかえて形にならなかったり、誰の耳にも届かずに消えてしまったりします。そうしてこぼれ落ちていった声の欠片たちは、きっとこの落ち葉の底に集まり、静かに重なり合っているのだと思います。言葉にできなかった悔しさや、届かなかった祈りが、硝子の箱の周りで小さな光の輪を描いています。
誰も聴くことのない旋律を奏で続けることは、とても孤独な作業かもしれません。けれど、その音が誰にも届かないからといって、そこに存在しないことにはなりません。誰にも見つけられない場所でひっそりと響く音こそが、時に世界で最も純粋で美しいものになり得るのだと感じます。形にならない思いを無理に言葉に変える必要はありません。そのままの形で抱きしめ、静かに水底のような葉の隙間に沈めておくことも、ひとつの表現だからです。
カサカサと鳴る落ち葉の音に混じって、ときおり硝子が擦れるような細い響きが空気に溶けていきます。その歪んだ響きは、完璧な音楽よりも強く、深く、心の柔らかい場所に刺さります。少し傷ついた声や、壊れかけた旋律のほうが見る人の感情を揺さぶるのは、私たち自身もまた、どこか完璧ではない欠片を抱えて生きているからかもしれません。
落ち葉のプールに手を差し入れると、ひんやりとした葉の触感とともに、忘れかけていた遠い日の記憶が蘇ってきます。名前のない感情にそっと触れるような、そんな静かな手応えを胸に抱きながら、新しい音の欠片を探す旅を続けていきます。この深く沈んだ硝子の箱が、いつか誰かの指先に触れて、新しい物語を紡ぎ始めるその瞬間まで。
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