どすん、と洗濯物の入ったカゴを、気持ちいい冬の日差しが差し込む庭から家の中に運んだ。
「ふう・・・・・・雑音。終わったよ。」
そう奥の方に呼びかけた。
「ありがとうー!今行く。」
洗濯機の音に混じって、雑音の綺麗な声が家の奥から響いてきた。
綺麗な声。
普通のボーカロイドとは違う自然な人の声。
「全部取り込んでくれたのか。」
と、廊下の方から雑音が来た。
「うん・・・。」
「じゃあこれで全部終わりだ。手伝ってくれて、ありがとう。」
そうすごく可愛い笑顔でお礼を言ってくれた。
ただ居候するのが悪いように思えてきて、あたしは今日から雑音の家事の手伝いをすることにした。
そりゃあ、あたしだって洗濯物を取り込んだりとかすることぐらいはできる。
流石にアイロンがけとか料理とかは怖くてできないけど。
「じゃあテレビでも見・・・・・・あッ!」
「どしたの。」
「アイロンかけっぱなしだった!!」
「あ、そう。」
「むぁッ!!」
「今度は何?」
「魚がこげる!!!」
・・・・・。
まぁ、こうしてあたしと雑音と網走さん三人での生活がはじまったっぽい。
そういえば、ここでこうしてるとボーカロイドとして活動してきたときより、ずっと充実してる気がする。
ここにきて、なんとなく気分が晴れた。
もう二度と、死のうなんて考えるのはよそう。
それに、ここのほうが・・・・・・。
「ミクー。ネルさーん。おやつがあるから、一緒に食べよう。」
「あ、今行くー!」
「はーい・・・。」
そう。ここのほうが、
あたしが前まで住んでいた、あの専用居住住宅よりも、
あたたかい気がするんだ。
だからここにいようと思った。
できれば、いつまでも。
それでもまだ、雑音や網走さんのあたたかさに素直になれない自分がいる・・・・・・。
◆◇◆◇◆◇
ネルがわたしの家にきてからもう一週間近く経った。
最初は、寝てばかりであんまり話すこともなかったけど、今はわたしの、洗濯やご飯の支度まで手伝ってくれるようになった。
博貴は、ミクも助かるし、敏弘さんがいいよっていってはくれたけど、まだ向こうのことはよく分からない。
ハクさんにメールで相談してみたら「そのままでいいよ。好きにさせてあげて。」といってくれた。
わたしはこのままネルがいてくれたらどんなに楽しいかと思う。
だけど、何か物足りないところがあった・・・・・・。
「♪~~~♪~♪~~♪~♪~♪」
お風呂に入っていると、どうしてか歌を歌いたくなる。
タオルで体を洗いながら、いつも鼻歌を歌ってる。
でも、頭ではまだ考え事をしてる。
蛇口をひねると、熱いシャワーがわたしの髪の毛と体の泡を落としていった。
シャワーを浴びながら、わたしはまだネルのことを考えていた。
ネル・・・・・・。
一緒にいてくれて、楽しいし、お手伝いもしてくれて、そして、わたしはネルといたい。
だけど何かが足りない。何だろう・・・・・・。
シャワーを止めると、そのままお風呂場から出て行った。
洗面台でタオルで頭の水をふき取ると、スウェットのズボンと背中に『響』と書いてあるシャツを着て、ドライヤーを髪に当てた。
その間も、ずっと頭の中に、ネルのことが浮かんでいる。
そうだ・・・・・・。
ネルは、笑ってくれない。
わたしに、笑顔を見せてくれないんだ。
「博貴ー。出たぞ。」
「あ、うん。今入るよ。」
ソファーでテレビを見ていた博貴が立ち上がって、お風呂に向かった。
わたしは牛乳を飲もうと思って、冷蔵庫に向かった。
そのとき、後ろに誰かの気配がした。
さっと振り向くと、そこにはわたしのパジャマを着たネルがいた。
「・・・・・・?」
「あぁ、ネル。わたしのパジャマよく似合ってる!今日はそれで寝るんだな?」
「うん。ありがと。でも、ちょっとだぶだぶ・・・・・・。」
やっぱりだ・・・・・・。
「雑音。あたしにも、牛乳くれる・・・?」
「ああ、いいよ。」
牛乳をコップに入れて、ネルにわたした。
ネルはそれを少しずつ飲んでいった。
「ども・・・・・・。」
「・・・・・・。」
ネルの顔は、いつものままだった。
「わたし、そろそろ寝るよ。明日からまた仕事だ。」
コップを洗った後、そう言ってソファーのほうを向いた。
そのとき、
「ねぇ、雑音・・・・・・。」
「ん?」
「あのさ、雑音、いつもソファーなんかで寝るの嫌だろうからさ、今日はあたしが、ソファーで・・・・・・。」
「いいんだ。ソファーもけっこう寝心地いいから。」
「でも、あれ雑音のだし・・・・・・。」
「じゃあ、こうしよう。二人で一緒にベッドで寝よう!」
わたしがそう言うと、ネルは初めておどろいた顔をした。
「え、あ、でもそれって・・・・・・。」
「大丈夫。わたしも入れると思うから。」
「あ、いや、そうじゃなくて・・・・・・。」
「ネル・・・・・・わたしのことが嫌いなのか?」
「あ・・・・・・わかったよ。一緒に寝よ。」
◆◇◆◇◆◇
もう・・・・・・。
女子二人で、同じベッドに寝るなんてまるでアレじゃん。
でも、雑音にあんな顔されたら断れない・・・・・・。
「ふぅー。ネル、あったかい・・・・・・。」
「あ、あんまりくっつかないで・・・・・・。」
「どうして?」
「どうしてって・・・・・・。」
こいつ、そういうの知らないの?
そっぽを向いてやると、今度は雑音の体があたしの背中にぴったりくっついた。
「ちょ・・・・・・雑音!」
「ん~。」
雑音の胸の感触が背中から伝わってきた。割と・・・・・・大きい?
あぁ、とにかく、このままじゃ抱きマクラだ。
といっても特に抵抗しようと思わなかったから、あたしはそのまま寝ることにした。
というか、雑音の体温ががあたたかくて、すぐに眠くなってきた。
まるで包み込まれてる感じ。
おやすみ・・・・・・・雑音・・・・・・。
おやすみ・・・・・・・ネル・・・・・・。
◆◇◆◇◆◇
「うぅう~~~んん。」
「むぁアッ!!!」
「ふわぁあ~あ~。」
「ギエぇッ!!!」
「あ~中野バーガ~。」
「苦しい・・・・・・!」
「へぇそうなんですかぁ。」
「ちょッ足!足!足どけてッ・・・・・・!」
「てめぇも助ヒーローズ・・・・・・。」
「何言ってんの・・・・・・寝言?」
「オッパイノペラペラソース!!!」
ドゴンッ!!!
「ああうぅぅぅうん・・・・・・。」
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想